八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

八ッ場ダム工期延期についての意見書

 2007年12月13日、国土交通省より八ッ場ダム工期延期の見通しが公表された件について、八ッ場あしたの会より下記意見書を国土交通大臣宛てに提出しました。

 2008年1月8日

 国土交通大臣 冬柴 鐵三 様                                             八ッ場あしたの会(代表世話人 野田知佑ほか)

       八ッ場ダムの工期延長に対する意見書

 昨年12月、八ッ場ダムの工期延長が国土交通省より発表されました。
 八ッ場ダムの工期延長は、国民に多大な影響を与えるものです。起業者として国土交通省の責任ある対応が望まれますが、残念ながら以下の見地から、現在の国土交通省の姿勢を大いに危惧するものです。

国土交通省が作成した「建設工事年度別工事予定表(案)」によると、堤体工事は次のように説明されています。

① まず川の流れを迂回させるための仮排水トンネル工事に2年(2007~08年度)、その後、半年の準備工事を行ない、本流を締め切ってトンネルに流す。この締め切り工事が、2009年度末から10年度初の6ヵ月間で行われる。
② 次は、ダム本体を現地盤と親密にするために掘削工事が必要であって、2010年度初からはじめて2012年度初に完了する。
③ ダムの本体工事が始まるのはそれからで、3年半の工期が必要としているので、2015年度半ばにようやくダムができあがる。半年間、試験的に水を溜めてみて問題がなければ、2016年度には供用開始になる。

 以上の工期をみると、本流迂回のための仮排水トンネル工事着手から供用開始まで9年間が必要です。このことは国土交通省というダムの専門家には自明のことでした。
 したがって、変更前の工期、すなわち、2010年度までにダムを完成させようとするならば、仮排水トンネル工事は今から5年前の2002年度にはじまり03年度末には終わっていなければならなかったはずです。ということは、2002年度にこの工事に着手できなかった時点で、国土交通省は工期が遅れることを分かっていたことになります。
1 工期についての国土交通省の説明
 八ッ場ダムの完成年度は、当初2000年度の予定でしたが、2001年に2010年度に延長する計画変更を告示しています。2001年の時点で、工期が2010年度を大幅に超えることは明らかだったのではないでしょうか? また、事業費の大幅増額案が発表される2003年秋の時点でも、国土交通省は2010年度完成を言明し、つい最近まで完成時期を厳守すると説明してきました。公共事業の工期という重要事項が、なぜ国民に明らかにされないのでしょうか?

2 地元住民に対して
 水没予定地や道路予定地からの移転を求められている地元住民にとって、ダムの完成時期は将来の生活設計にかかわる、きわめて重大な問題です。
地元住民は八ッ場ダム計画に長年反対しましたが、国の圧力に屈してダム建設を受け入れた経緯があります。それから約20年の歳月が経過しましたが、当初の2000年の工期が延長され、今回の再延長の発表です。この間、高額な地価を設定した代替地分譲基準の調印も行われました。国の計画に翻弄される生活を余儀なくされてきた地域の人々に対して、国の姿勢はあまりに不誠実です。

3 下流都県に対して
 2003年秋に八ッ場ダム事業費の大幅増額案が発表されたとき、関係都県は国土交通省に対して、2010年度完成を厳守してほしいという要望を文書として示しました。その文書には「完成が遅れた場合、ダム完成の時点で、ダム参加が不要になっていることも想定されるため。」と付記されています。水道用水、工業用水が減少傾向になってきていることは関係都県の側でも認識しているからこそ、そのような要望が出されました。それに対して国土交通省は、工期を厳守すると約束しています。

 八ッ場ダム計画は、最初の発表よりすでに55年が経過しています。必要なダムであるのなら、半世紀以上を経てなお完成の見通しが立たないなどという事態は考えられません。工事現場を日頃見ている地元からは、たとえ工期を5年延長してもダムは完成しないだろうとの声がもっぱらです。
地元住民の多大な犠牲、ダム建設に不適な地質など、八ッ場ダム事業は今なお多くの問題を抱えています。受益者とされる首都圏の多くの住民は、利根川の河川予算の1/3を占める八ッ場ダム事業に疑問を抱いています。
国土交通省は工期延長の理由について、代替地計画の見直しなど地元対策を挙げていますが、工事遅延の真の理由を明らかにしていないのではないでしょうか。工期延長の発表を機会に、情報公開をさらに進め、公共事業としての八ッ場ダム事業の見直しに取り組むことを要望します。