2008年3月1日 読売新聞群馬版より転載
「県会一部会派 八ッ場ダムに見直しの声 国事業、巨費投入議論かみ合わず」
長野原町に建設される八ッ場ダムを巡り、最大会派の自民党などを除く会派の
議員から建設見直しを求める意見が2月定例県議会で相次いでいる。すでに巨費を
投じ、国の事業でもあるだけに、推進する立場の大沢知事との議論はかみあわないままだ。(田島大志、笠原一哉)
「昨年9月の台風9号は利根川の治水計画が想定する100年に1度の大雨とほぼ同じ雨量だったが、現在の治水体制で十分だった。新しいダムは必要ない」
2月27日の県議会一般質問で、選挙区(藤岡市)内に下久保ダムを抱え、旧鬼石町長を5期務めた関口茂樹県議が、知事に事業の見直しを迫った。
その前日、関口県議を中心に同ダムの必要性を検討する議員連盟が5会派14人で発足。結成会でも「吾妻渓谷の美しい自然を壊すよりも、生活再建や地域振興に力を入れるべきだ」と訴えた。
反対派は、建設費の半分以上を負担している下流都県側が”撤退”することで、建設中止に追い込む戦略を描く。同様の意見を述べた民主党改革クラブの石川貴夫県議(高崎市区)は、「党の公約で八ッ場ダム建設中止を掲げている。下流都県の議会で民主党が第一党になれば、すぐに建設中止できる」と話す。
ただ、議連参加者の中には「国の事業に対して県議会で議論しても限界がある」との声もある。関口県議の質問に、大沢知事は「(見直すかどうかは)事業主体の国交省がやるべきだ」と述べるだけだった。吾妻郡選出の南波和憲・自民党県連幹事長代行は「長年、苦しんできた住民の立場を反対派は本当に理解しているのか」と冷めた目でみつめる。
中止の議論には、現実的に高い壁があるのも事実だ。今年度末で総事業費4600億円のうち2917億円を執行。500億円程度と見積もられる本体工事を行わない場合でも、生活再建事業を継続すれば計約4000億円が費やされる。
県幹部は「治・利水の効果と、4000億円を無駄にすることこそ、下流都県の理解が得られるのか。今、中止するメリットは環境面しかない」と反論する。
ただ、県には、埼玉県が撤退表明したことで、03年12月、国関連事業として全国で初めて中止が決まった戸倉ダム(片品村)の苦い経験がある。別の県幹部は「費用負担をお願いする立場として、できるだけ地元で賛否の議論をしたくないのだが」と本音を漏らす。
「増田川ダム建設凍結検討 県、安中・富岡の人口減で 倉渕ダム中止協議へ」
県は、安中市松井田町地区で進めている県営増田川ダムの建設について、事業凍結を視野に計画を見直す方針を固めた。水道用水を取水する予定の安中、富岡両市の人口減少などから、利水面での費用対効果に疑問が生じてきたためだ。凍結中の県営倉渕ダム(高崎市)についても、中止とする方向で今後、地元と協議する方針で、県が進めるダム政策は大きく見直される。
大沢知事は29日の県議会一般質問で、「取り巻く環境の変化に配慮して、県民の目線に立って方向性について関係機関と慎重に協議の上、見極めたい」と述べた。
知事は、昨年12月、安中市が利水計画を3分の1に縮小する方針を示し、同月には県の第三者委員会が同市に対し、水道の需要供給予測の根拠を求めたことなどから、事業継続に消極的な姿勢を見せている。
県は新年度、両市の利水計画について独自の調査を行うが、両市の合意が得られれば事業は凍結される可能性が高い。
同ダムは、治水と利水を目的に計画され、1996年に建設事業に採択された後、現地の調査が続いていた。
一方、2003年から建設が休止されている倉渕ダムについて、県は今年度当初予算で、これまで続けていた流量や環境の調査費の計上を見送っており、高崎市と中止に向けた具体的な協議に入る。