2008年3月8日 産経新聞より転載
首都圏の水がめとして計画浮上から半世紀がたっても完成せず、日本のダムで最も巨額な4600億円もの事業費が投じられている八ツ場(やんば)ダム(群馬県長野原町)の規模を、国土交通省が大幅縮小する方針を決め、関係する1都5県に意見照会してきたことが分かった。当初計画より4割小さくなるという。同ダムは過去に2度計画が変更され、工期が延長された。3度目の変更に自治体側は疑心暗鬼で、東京都は「これ以上変更しない」との条件を付けた異例の意見書を国に提出し、変更を受け入れる。(溝上健良)
八ツ場ダムは、昭和27年に調査が始まり、61年に基本計画が決まった。その段階で平成12年度完成、総事業費2110億円とされていたが、13年と16年の2度、用地買収の遅れなどから計画変更が繰り返された。
16年の変更では、物価上昇を理由に事業費が4600億円に倍増し、最も巨額なダムに。都と埼玉、千葉、茨城、栃木、群馬各県の負担額も膨れあがった。
熊本県の川辺川ダムとともに「必要のない公共事業の横綱」とも批判されているが、こうしたなか、国交省は1都5県に、工期をさらに5年延長する一方で、規模を縮小する3度目の計画変更案を提示してきた。
それによると、ダム本体の高さを131メートルから116メートルに縮小する。これはダムの底面までの掘り下げを15メートル少なくできるためで、ダム頂上部の高さは元のまま、ダム湖の水位も変わらない。あわせて、ダムの位置を最大約20メートルずらし、川幅のより狭い場所にダムを造成して堤の幅を51メートル短くし、285メートルにする。
このため、貯水量にも変更はないといい、コンクリート量が4割以上減ることから、工期が延長しても、総事業費は変わらないという。度重なる変更を、同省は「近年の調査から地質が想定していたより強固で、基礎地盤までの掘削量を半分以下に減らせることが分かったため」(ダム工事事務所)と説明する。
3度目の変更に、「八ツ場」に翻弄(ほんろう)されてきた自治体の反応は厳しく、埼玉県の上田清司知事が県議会で「(国に)ずっとだまされている」と不快感を表明。約636億円を負担する東京都も、幹部や都議から「縮小となると、当初計画は何だったのか」「事業費が増大しないとはにわかに信じがたい」と不満が出ている。
国の着工に自治体側は治水・利水の観点から反対しないという。 人口減が本格化し、不要にも思える水がめだが、都は「地球温暖化で長期的には、渇水の深刻化が予想される」として、(1)さらなる工期延長がないよう万全を期す(2)事業費増がないよう取り組む-などの条件付きで3度目の変更も「やむを得ない」と同意する方針だ。開会中の都議会の議決を経て国に意見書を出すが、議会では是非をめぐって議論も予想される。
■八ツ場ダム 利根川の支流、吾妻川に国が建設を進めている重力式コンクリートダム。平成27年度完成予定で、川原湯温泉街など水没地区住民の代替地造成や付け替え国道の工事が進んでいる。ダム本体は新国道の開通を待ち、22年着工の見通し。事業の長期化に住民団体が1都5県に工事費支出の差し止めを求めて提訴している。