公開質問書への国交省の回答

2008年3月12日

 公開質問書への国交省の回答について

 昨年12月13日、八ッ場ダム事業の工期延長を含む計画変更案が発表され、関係都県議会では八ッ場ダム問題についての議論が高まっています。。
 工期延長案で示された工事予定表、再評価の際に発表された八ッ場ダム事業の資料には、ダム事業の根幹に関わる理解しがたい点が数多くあるため、本年1月8日、私たちは公開質問書を提出しました。回答期限は1月22日でしたが、ようやく3月11日に回答が届きました。回答内容は長い日数を要するものとは思われず、国土交通省の姿勢が厳しく問われている中、なぜ回答が1ヶ月以上も遅れたのか理解に苦しみます。八ッ場ダム基本計画変更案の議案が群馬県議会を通過するのを待っていたのでしょうか。
 回答内容はあいまいな部分が多く、私たちの疑問に真正面から答えたものではありません。未だに払拭されない多くの疑問点、その後浮上してきた様々な問題点をまとめて、近日中に再公開質問書を提出する予定です。

 私たちの質問と国交省の回答、回答に対するコメントをあわせて掲載します。

1. 水没予定地の今後について
1-1 代替地への移転完了後の5年間について

 【質問】
 今後の工事予定表をみると、川原湯の打越地区の場合、2010年度までに移転が完了し、その5年後にダムが完成することになっていますが、この5年間はダム本体工事の喧騒の中にあり、さらに、その工事のため、吾妻渓谷の利用が困難な状態になりますので、川原湯温泉街は営業面で非常に厳しい状況に置かれることになります。川原湯温泉街の蒙る多大な損失について、起業者としてどのように対応しようと考えているのか、国土交通省の見解を明らかにしてください。

【国交省の回答】
 川原湯温泉については、群馬県、長野原町等とも連携し、円滑に移転して継続して営業して頂けるよう、適切に対応したいと考えています。
 吾妻渓谷の利用については、ダム工事中でも渓谷の散策等が可能となるよう、利用者の安全にも十分配慮して、代替の遊歩道を設置する予定です。また、工事による騒音・振動については、施工日、施工時間帯等に十分配慮し、川原湯温泉街への影響を極力少なくするよう適切に対応したいと考えています。
 なお、ダム完成後についてもダム湖面等をできるだけ活用していただき、魅力ある新しい温泉街が形成されるよう最大限協力するとともに、ダムの見学者等が訪問して頂けるよう、情報発信にも努めたいと考えています。

【あしたの会のコメント】
 川原湯温泉街がダム工事の喧騒の中で営業しなければならない場合、たとえ施工日、施工時間帯、安全性に配慮したとしても、観光業への影響は無視できません。国交省の対応が明らかにされないまま事業が進められることは、地元住民に大きな犠牲を強いるものと憂慮します。

1-2 1号橋の完成の遅れについて

【質問】
 今後の工事予定表によれば、川原畑地区を通る国道と川原湯の打越地区を結ぶ1号橋(県道川原畑大戸橋)の完成は、2014年度末まで延期されることになっています。しかし、この1号橋の完成の遅れは、川原湯地区にとっても川原畑地区にとっても重大な問題です。川原湯の打越地区にとって、1号橋は観光客が国道から来るためのアクセス道路ですから、その完成の遅れは川原湯温泉街の経営に大きな影響を与えることになります。現在の川原湯地区には国道が通っていますが、1号橋ができなければ川原湯地区は孤立した集落となってしまいます。
 1号橋の完成の遅れがもたらす上記の問題について、起業者としてどのように対応しようと考えているのか、国土交通省の見解を明らかにしてください。

【国交省の回答】
 川原湯地区へのアクセスは、東吾妻町側からは県道林・東吾妻線(川原湯地区の東側)を経由するルート、長野原町側は付替国道145号から県道林・東吾妻線の2号橋(川原湯地区の西側)を経由するルートの双方向からスムーズにアクセスできる計画としております。
 当事務所としては、群馬県や長野原町等の関係機関と相談しながら、付替国道145号やダム下流の東吾妻町側からの観光客を誘導する案内看板の設置など、できるだけ分かりやすく川原湯温泉街へ行くことができるように配慮したいと考えています。

【あしたの会のコメント】
 川原湯地区へは「県道林・東吾妻線からスムーズにアクセスできる計画」としていますが、打越代替地の上流側では、県道の用地買収の目途が立っておらず、2010年度までの県道完成は困難です。代替地への移転完了予定の2010年度には、1号橋(2014年度末完成予定)もできず、県道・東吾妻線の上流側もできず、川原湯温泉の代替地へは県道・東吾妻線の下流側からしかアクセスできない可能性がきわめて高いと考えざるをえません。

1-3 住民への説明について

【質問】
 上記のように、代替地には様々な悪条件があることが明らかになっています。このような代替地を水没予定地住民に分譲する地価が坪10万円を超え、最高額が坪17万円を超えることは常識では考えられません。2005年に代替地分譲基準が調印された時点では、工事が遅れるこのような事態は住民に明かされていませんでした。この問題について、国土交通省の見解を明らかにして下さい。

【国交省の回答】
 代替地分譲価格については、「建設省の直轄の公共事業の施工に伴う代替地対策に係る事務処理要領」等の規定に基づき、取引事例比較法により適正に算定し定めたものです。
 また、代替地分譲価格については、地元の方々と代替地に関する協議・調整を重ねる中で、合意を頂いております。
 なお、水没予定住民の皆様に対しては、これまでも誠意を持って対応してきたところですが、今後ともその方針に変わりなく、きめ細かな対応をしてまいります。

【あしたの会のコメント】
 代替地に移転を予定している地元住民は、分譲価格の高さに苦しみ、さらに、そこで本当に生活・営業していけるのか、多くの不安を抱いています。代替地分譲基準の調印に至るまでには、住民側が国の提示額を不服として再三値下げを要望したものの、国がこれを受け入れなかった経緯があります。最終的に住民側が譲歩したのは、早期の代替地整備を望んだからですが、国交省のその後の対応は、住民の希望を打ち砕くものでした。国交省は「誠意をもって対応してきた」と説明していますが、これを認める住民がどれだけいるでしょうか。

2. 八ッ場ダム事業の再評価について
 昨年12月21日に関東地方整備局の事業評価監視委員会が開かれ、八ッ場ダム等の4事業を継続することの是非が議題になりました。ダムの必要性の有無やダム建設の様々な問題点については一切審議しない不可解な委員会でしたが、結論として4事業とも継続妥当ということになりました。その理由となったのは、八ッ場ダムに関しては便益/費用が2.9で、1を大きく上回っているからということでした。治水等の公共にかかる便益が8,525億円、一方、治水等の公共に係る費用が2,917億円という数字が示されました。この便益の算出根拠について次の4点の質問にお答えください。

2-1 洪水調節に係る便益8,276億円の算出根拠

【質問】
 公共に係る便益の中で圧倒的に大きいのが洪水調節に係る便益で、8,276億円もあるとされています。しかし、八ッ場ダムの洪水調節によって巨額の便益がどうして生まれるのでしょうか。国土交通省によるカスリーン台風再来計算でも、利根川に対する八ッ場ダムの治水効果はゼロとされています。洪水調節に係る便益8,276億円の詳細な算出根拠を明らかにしてください。

【国交省の回答】
 洪水規模は、降雨の地域分布、時間分布のパターンによりさまざまであり、ダムの効果も降雨パターンにより大きく異なります。八ッ場ダムについては、年超過確率1/200のさまざまなパターンの降雨を用いて流出計算を行った結果、八斗島地点において、最大で約1,500m3/s、平均で約600m3/sの洪水調節効果が算出されています。
 この降雨パターンを考慮して、治水経済調査マニュアル(案)(H17.4 国土交通省河川局)に基づき、洪水調節に係る便益を8,276億円と算出しました。

【あしたの会のコメント】
 洪水調節の便益8,276億円の算出根拠を明らかにすることを求めましたが、その計算過程を示すデータは何も示されませんでした。国交省によるダムの便益計算は、実際とかけ離れたきわめて大きい洪水流量を流してその氾濫で失われる資産を計算し、資産損失の一部軽減にダムが役立つという机上の計算でしかありません。国によるカスリーン台風再来計算では八ッ場ダムの治水効果がゼロですが、そのことを忘れているかのような便益計算です。

【質問】
2-2 河川の水量確保に係る便益① (吾妻渓谷破壊のマイナスの便益)
 さらに、河川の水量確保に係る便益も加えられていました。「名勝吾妻峡に必要な水量を確保ことにより、景観改善の効果を便益とする」ということですが、常識的な感覚からすれば、八ッ場ダムの建設によって便益が生まれるというのはブラックユーモアでしかありません。
 八ッ場ダムの建設によって、少なくとも吾妻渓谷の上流部が破壊され、マイナスの便益が生じることは間違いのない事実です。このマイナスの便益を評価しなかった理由を明らかにしてください。

2-3 河川の水量確保に係る便益②(現在の吾妻渓谷の流量による便益は?)
 現在の吾妻渓谷は水の流れが常にあって、渓谷美をつくりだし、訪れる人々の心を癒してくれます。八ッ場ダム完成後は景観のため、一定流量をダムから放流するので、それによって便益が新たに生まれるとされていますが、現在、渓谷を流れている流量では便益がなぜ出ないことになるのでしょうか?
 また、その放流予定量と現在の流量との大小関係はどうなっているのでしょうか? 放流予定量および昨年1年間の毎日の吾妻渓谷の実績流量を明らかにしてください。

【国交省の回答】(上記2問にまとめて回答)
 河川の水量確保に係る便益については、名勝吾妻峡は水力発電によって水がバイパスされ、水量が減少している状況であることから、八ッ場ダムにより吾妻川に必要と考えられる水量を補給した場合の景観改善の便益を算出しました。
 吾妻峡の指定区間3.5kmのうち下流側のほとんどの部分は、現況のまま保全され、吾妻峡の主要な観光スポットである「鹿飛橋」や「八丁暗がり」なども改変されることはありません。このため、マイナスの効果はないことを前提に、景観改善効果の便益を算出したものです。
 なお、平成18年の吾妻渓谷地点での毎日の流量については、観測していないため不明ですが、近傍の岩島地点(東吾妻町三島地先)の流量を示すと、別紙のとおりです。

【あしたの会のコメント】
 八ッ場ダムによって吾妻渓谷の上流部は破壊され、残されたところも洪水が流れなくなり、美しい渓谷が永遠に失われてしまいます。
 普段の流量が少し増えるということですが、現状で渇水時の流量が小さいのは、上流で東電の発電所が全量取水しているからで、他の河川で最近行われてきているように、発電の水利権更新時に維持流量の放流を義務づければ解消できることです。ダム完成後に渇水時の流量が増えるというのは、東電発電所の取水量を減らすからで、ダムの効果とは別物です。

2-4 河川の水量確保に係る便益③

【質問】
 「吾妻渓谷に必要な水量を確保することによる景観改善の便益」が155億円もあるとされています。委員会の配布資料によれば、これは仮想市場評価法とされる方法によるもので、「その自然は守るならばいくらまでなら対価として支払ってよいとする金額」をアンケートで求めた一人あたりの数字に観光客数をかけて算出したものだということです。
 委員会での国土交通省の説明によれば、「観光客数は年間750万人とし、アンケートは他のダムで行った結果である」ということですが、吾妻渓谷の実際の観光客数はそれよりも二桁小さい数字です。750万人とした根拠を説明してください。また、他のダムについてのアンケート結果をなぜ吾妻渓谷に使えるのか、その理由を説明してください。

【国交省の回答】
 約740万人は、吾妻渓谷が吾妻地域の主要な観光拠点の1つであることから、当該地域を訪れる観光客に支払い意思があることを前提として、吾妻渓谷の立地する吾妻町、長野原町、その上流にある3町村(草津町、嬬恋村、六合村)の観光客が吾妻渓谷を訪れる又は通過すると想定し、平成13年度の入り込み観光客数から算出したものです。
 また、他ダムのアンケート結果は、そのアンケートが河川水量の改善に対する支払い意思額を尋ねたものであることから用いたものです。
 なお、景観改善に係る便益の算出手法については、引き続き工夫していきたいと考えています。

【あしたの会のコメント】
 現在、吾妻渓谷を訪れる観光客は年間10万人規模ですが、国交省は3町2村の観光客数を含めて観光客を年間740万人として、他ダムのアンケート結果を使って便益計算をしているということです。こんないい加減な計算に何の意味があるのでしょうか。  
 このようは便益計算によってダム事業の継続が妥当と判断した事業評価監視委員会は、残念ながら委員会そのものに問題があったと考えざるをえません。

3. 発電について
 今回、八ッ場ダムで群馬県が発電を行う案が示されました。最大11,700kW、年間発電量40,992,000kWHで、八ッ場ダムから放流される水を発電に使う従属発電だということですが、この発電に関して次の2点の質問にお答えください。

【質問】
3-1 八ッ場ダムで失われる発電量

 事業評価監視委員会で国土交通省は発電目的の追加で「環境にやさしいクリーンエネルギーの供給が可能になる」という説明をしていましたが、これは既存の発電所の存在には触れない一方的な説明でした。吾妻川には東京電力㈱の発電所がいくつもあり、八ッ場ダムができると、それらの発電所への送水量が大幅に減りますので、吾妻川の全発電量はむしろかなり小さくなり、多額の減電補償が必要となります。
 ダム予定地より下流の吾妻川にある発電所の最大発電量は次のとおりです。  松谷発電所25,400kW、原町発電所27,400kW、箱島発電所24,000kW、金井発電所 14,200kW、渋川発電所 6,800kW
 ダムができると、これら発電所の発電量が大幅に減りますので、八ッ場ダムに発電所が付設されても、吾妻川全体の発電量はかなり減ることになります。八ッ場ダムができることによって失われる発電量を示して下さい。

3-2 発電所の場所
 八ッ場ダムに付設される発電所はどの位置に設置されるのでしょうか、八ッ場ダムのすぐ直下ならば、発電所の建設のために吾妻渓谷の一部が破壊されることになります。八ッ場ダムの下流に設置されるならば、発電所までの吾妻渓谷には水が流れないことになります。発電所が八ッ場ダムから何メートル、何キロメートルのところに設置されるのかを明らかにしてください。

【国交省の回答】(上記2問にまとめて回答)

 事業評価監視委員会では、現在の八ッ場ダム計画に発電が追加されたことにより得られる発電量等について説明したものです。なお、八ッ場ダムの完成により減少する電力量については、東京電力と調整することとしています。
 また、発電所の場所については、群馬県企業局からダム本体直下に設置する予定と聞いております。

【あしたの会のコメント】
 八ッ場ダムに水を貯めるには東電発電所の取水量を大幅に減らす必要があります。ダム予定地点より下流にある吾妻川の東電発電所は5箇所あり、合計発電出力は約10万kWもあるので、八ッ場ダムによる減電量は、ダムに付設される発電所(最大11,700kW)の発電量の5倍以上になると予想されます。八ッ場ダムによってクリーンエネルギーが生み出されるのではなく、新発電所の発電量の何倍ものクリーンエネルギーが失われます。
 新発電所はダム直下に設置されるとのことですが、それによって吾妻渓谷がさらに破壊されることが懸念されます。

4 八ッ場ダムの事業費について
八ッ場ダムの事業費に関して下記の2点の質問にお答えください。

4-1 「現時点で」という但し書きの条件について

【質問】
 事業評価監視委員会の資料では「現時点で総事業費を変更する必要はないと考えています。」と書かれており、「現時点で」という但し書きが付いています。これは将来、何かの条件が変われば、総事業費が増額される場合もあることを意味します。将来、総事業費が増額されることがあれば、それはどのような条件が変わった場合なのでしょうか?

【国交省の回答】
 現時点で予測できないような不測の事態が発生する可能性はゼロとは言い切れないことからそのような表現をしておりますが、現時点で総事業費を変更する必要はないとの考えに変わりはありません。

【あしたの会のコメント】
 東電への巨額の減電補償、工期延長に伴う諸経費の増額、道路工事の進捗の遅れなどからみて、今後、事業費の再増額が行われる可能性がきわめて高いといわざるをえません。

【質問】
4-2 東京電力に対する減電補償のスケジュールについて
 4-1で述べたように、八ッ場ダムに水をためるためには、吾妻川の東京電力㈱の発電所に現在送られている水量を大幅に減らすことが必要です。それにより発電量が大きく減少しますので、減電補償が必要となります。八ッ場ダム予定地下流には発電所がいくつもありますので、その減電補償はかなり大きな金額になることが予想されます。この減電補償について今後、どのようなスケジュールで東京電力と交渉を進めていくのか、また、その補償金をいつ支払うのかを明らかにしてください。

4-3 減電補償の補償額について
 減電補償について国土交通省は総事業費4,600億円に含まれると説明してきましたが、発電所の規模と数から見て、かなりの金額になると予想されますので、4,600億円の枠内に収まるとは思われません。国土交通省が総事業費の4,600億円に含まれるという東京電力への減電補償の予定額を明らかにしてください。
 また、代替地の造成等に伴う発電送水トンネルの補強工事のために国土交通省が東京電力に支払った補償額(工事中の減電補償を含む)も明らかにしてください。

【国交省の回答】(上記2問にまとめて回答)
 東京電力と調整しておりますが、補償額の算定・支払いも含めた減電補償に関するスケジュールについては、個別の企業の経営上の問題にかかわるものであることから、お答えは差し控えさせていただきたいと考えておりますので、ご理解いただくようお願いいたします。

【あしたの会のコメント】
 国交省は、個別の企業の経営上の問題にかかわるとして、東京電力に対する減電補償について答えようとしませんが、スケジュールなどを明らかにすることに何の支障があるのでしょうか。一切明らかにしないのは、減電補償そのものが八ッ場ダム計画の重要なウィークポイントであることを示唆していると考えます。