2008年3月17日 しんぶん赤旗より転載
「国交省が過大見積もり 八ツ場ダムできたら観光客50倍? 群馬・吾妻渓谷」
ダムができたら観光客が五十倍に? 吾妻(あがつま)渓谷(群馬県長野原町)で国土交通省が建設を進めている八ツ場(やんば)ダムについて、同省はダム完成によって、観光客が現在の五十倍以上の年間七百万人に増加するとした見積もりをしていたことが十六日までにわかりました。国交省はこうした過大な数字を根拠に建設の続行を決めており、同省の「初めにダム建設ありき」の姿勢が問われます。(矢野昌弘)
吾妻渓谷は奇岩怪岩が立ち並びカモシカやムササビが生息する自然豊かな国指定の名勝で、関東屈指の名峡です。観光客は年間十三万人ほどが訪れています。
八ツ場ダムはこの上流部分に建設を予定しています。国交省はダムによって「必要な水量を確保することによる景観改善」の効果を主張しています。
「八ツ場ダムをストップさせる市民連絡会」が情報公開で入手した国交省資料によると、ダム建設によって「吾妻渓谷への観光客が増加」すると想定。建設後の吾妻渓谷への年間の観光客数を「七百三十九万二千人」としています。
数字を根拠に建設続行決定
七百万人という数は、長野原町や吾妻町などの周辺五町村に訪れる年間観光客数と同じ。別の資料で「(周辺五町村に)おとずれたか、通過した人が(吾妻渓谷に)立ちよったと仮定して出した」としています。この数は、大英博物館やルーブル美術館など世界的な観光名所に匹敵。日本では旭山動物園(北海道旭川市)が三百万人、東京ディズニーランドとディズニーシーが二千五百八十万人の入場者となっています。
七百万人を根拠に、国交省は昨年十二月に事業の継続を検討する事業評価監視委員会に資料を提出。費用対効果が高いとして、同委員会は同ダムの完成予定を二〇一五年とする工期の五年延長案を了承しました。
「価値損なう」むしろ懸念も
同ダムによる観光客増加を予測する国交省ですが、一方で吾妻渓谷の観光価値が損なわれる恐れが指摘されています。
全国のダム問題を調査している嶋津暉之さん(水源開発問題全国連絡会共同代表)は「ダム予定地上流にある四町村には草津温泉や嬬恋村などの一大観光地や農業地があります。この生活排水や農業排水が八ツ場ダムによって貯留されれば、藻類の異常繁殖でダム湖の水がひどく悪化し、その湖水の放流で渓谷の様相が一変する恐れがあります」と指摘します。
群馬県鬼石町の前町長で日本共産党も加わる「八ツ場ダムを考える県議の会」メンバーの関口茂樹県議は「国交省の『観光客が増える』というのは地元対策で使い古しの殺し文句。ダムが渓谷を劣化させることは、鬼石町の下久保ダムを見れば明らか。ダム直下の三波石峡は草やコケが生え、様相が一変した」と批判します。
国土交通省関東地方整備局は「七百万人という数が多すぎではないかという意見は監視委員会でも出た。完ぺきで正確な数字とはいえないが、一つの目安として算出したもの。同ダムの便益の大半は治水効果で、七百万人という数をもって事業全体がだめとはいえない」と答えました。
誰がみてもデタラメな数字
日本共産党の伊藤祐司前群馬県議の話 13万人が700万人以上になるなどという誰が見てもデタラメな数字を「一つの目安」などと強弁するのは、利水でも治水でも必要性が消失したダムをあくまでも強行しようとする国交省の厚顔無恥な姿勢が如実に現れている一例です。観光に役立つどころか、もろい岩盤の上に造られるため災害を誘発しかねないのがこのダムです。真実を多くの人に知らせたい。