八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

あしたの会、国交省へ公開再質問

2008年3月25日

 国土交通省八ッ場ダム工事事務所所長 澁谷 慎一 様
             
                            八ッ場あしたの会(代表世話人 野田知佑ほか)

              八ッ場ダムの工期延長と再評価に関する再公開質問書
 
 本年1月8日に提出した「八ッ場ダムの工期延長と再評価に関する公開質問書」(回答期限1月22日)に対して、ようやく3月11日に回答が届きました。
 回答の内容を見る限り、作成に長い日数を要するものとは思われません。国土交通省の姿勢が厳しく問われている中、なぜ回答が1ヵ月以上遅れたのか理解に苦しみます。また残念ながら、回答内容は私たちの疑問に正面から答えていないところが少なからずありました。
 未だに払拭されない多くの疑問点、その後浮上した疑問点をまとめて下記のとおり再度質問します。質問項目はいずれも八ッ場ダム事業の根幹に関わることですので真摯にお答えください。ご回答を4月20日までに文書でお送りくださるようお願いします。

 なお、貴事務所のホームページに上記の回答が掲載されていますが、なぜか公開質問の内容は掲載されていません。同じ関東地方整備局の事務所でも、利根川上流河川事務所では、国民の要請に応えて回答と質問書の両方をホームページに掲載しています。ホームページを見ても回答だけでは質問の中身がわかりませんので、貴ホームページにおいても回答と併せて公開質問書の全文を掲載するようお願いします。

1 八ッ場ダムの工期がさらに延びる可能性
 今回の八ッ場ダム建設基本計画の変更案では、工期が5年延長され、2015年度完成となっています。この問題について次の4点の質問にお答えください。

1-1 転流工の遅れが及ぼす影響について
 2015年度完成の工事予定表では、転流工(川の仮バイパストンネルの掘削工事)を2007年度にはじめ、完成は2008年度となっています。昨年夏、大成建設㈱がこの工事を落札しましたが、未だに着工されていません。関係都県が国土交通省の説明を受けてまとめた「都県合同による八ッ場ダム現地調査報告書」(平成20年1月10日) (調査事項5)によれば、転流工の用地の地権者が代替地への移転を希望しているものの、代替地の整備が進んでいないため、未契約になっているとのことです。転流工で早くも1年の遅れが生じているわけですが、代替地整備の遅れによって、さらに転流工の着工が遅れる可能性があります。
 工事予定表によれば、転流工に2年、本体掘削に3年、本体打設に3年半、試験湛水に半年をかけてようやく2015年度末に八ッ場ダムは完成することになっています。転流工の遅れによって2015年度末のダム完成は難しくなっているのではないでしょうか。この点についての見通しを明らかにしてください。

1-2 付替国道・付替県道の完成までにかかる年数について
 2015年度完成の工事予定表では、付替国道・付替県道は2010年度初めから暫定供用されることになっています。一方、八ッ場ダム事業再評価の資料(2007年12月21日に開催された事業評価監視委員会の配布資料)によれば、付替国道・付替県道の2007年10月末段階の工事進捗率は52%です。しかし、これまで付替国道・付替県道の工事には長い年月がかかってきたことを考えれば、あと2年で残り半分の工事を終らせるのは至難と言わざるをえません。付替国道・付替県道の完成が遅れれば、本体工事も遅らせざるをえなくなります。今まで付替国道・付替県道の工事にかけた年数、今後の工事の見通しを明らかにして下さい。

1-3 川原畑地区の付替国道の難工事について
 付替国道の予定地のうち、川原畑地区は地質が劣悪で、複数個所で崩落が起きているといわれています。昨年12月には川原畑代替地に隣接する国道予定地の法面で、対岸まで音が聞こえるほどの大きな崩落事故がありました。その原因は、水を含むと脆弱になる同地区一帯に広がる地層に雨水が浸透したことによるものとされています。
 同地区には地すべり地帯もあることから、今後も付替国道は相当の難工事が予想されます。昨年12月の上記の法面崩落事故に対する対策工事の予定、川原畑地区の付替国道工事の今後の見通しを明らかにしてください。

1-4 付替国道の4車線化について
 付替国道は4車線高規格道路として計画されていますが、トンネルなども含め現在までにできた付替国道は、ほとんどが2車線です。これから4車線にすることになれば、更に長い工事期間が必要になります。2車線の付替国道を4車線化するのに必要な工事年数を明らかにしてください。また、付替国道をすべて4車線化するのかどうかも明らかにしてください。

2 八ッ場ダムの事業費が再度増額される可能性
 前回の質問書への回答で、「現時点で総事業費を変更する必要はないとの考えに変わりはありません。」と述べていますが、再増額を余儀なくさせると考えられる要因がいくつもあります。この問題について下記の4点の質問にお答えください。

2-1 付替国道の工事費の増額は?
 1―2で述べたように、付替国道・付替県道の工事進捗率は、2007年10月末段階で52%です。一方、事業別の事業費計画では、付替国道・付替県道の全事業費は783億円(国道408億円)です(今回の変更案の数字、別紙参照)。これに対して、2007年度末までの付替国道・付替県道の執行額(予算ベース)は514億円(国道306億円)で、すでに執行率は66%になっており、付替国道だけでは75%です。1―3で述べたように、川原畑地区の付替国道の工事は、地質が劣悪なため難航しているなど、工事費がさらに嵩む要因もあります。
 付替国道・付替県道の残り半分の工事を34%の残事業費で、また、国道に関しては残りの工事を25%の残事業費で終わらせる可能性について、見通しを明らかにしてください。

2-2 東京電力への減電補償
 前回の質問書で指摘したように八ッ場ダムに水をためるには、吾妻川の東京電力㈱の発電所に現在送られている水量を大幅に減らすことが必要です。その結果、発電量が大きく減少しますので、巨額の減電補償が必要となります。八ッ場ダム予定地下流には発電所がいくつもあり、その合計最大出力は約10万kWもあります。この数字から、減電補償の実施例(宮ケ瀬ダム)を参考にして補償額を試算すると次のようになります。

  稼働率 減電率   補償計算期間    発電単価  
  10万kW ×50% ×60% ×24時間×365日×14年×8円/kWH=約300億円

 上記の試算で明らかなように、減電補償額はとても4600億円の枠内におさまる規模ではありません。
 「都県合同による八ッ場ダム現地調査報告書」では、「減電補償については、今までの支払額について説明があり、確認した。」(調査事項43)とあり、あたかも減電補償が終わりつつあるような印象を与える記述になっています。
 国土交通省は東京電力に、代替地造成に伴う発電用水トンネルの補強工事の際に減電となった分の補償を東京電力に支払っています。これから東京電力と補償額の交渉をするとしている、八ッ場ダム完成後の永続的な減電に対する巨額の補償は、これとは別に必要になります。
 前回の質問書への回答では、減電補償について「個別の企業の経営上の問題にかかわる」との理由で説明がありませんでしたが、巨額の税金が使われる以上、国土交通省には減電補償の内容をオープンにする義務があります。
 貴事務所が都県担当者に説明した「減電補償の今までの支払額」の内容を明らかにしてください。

2-3 ダム本体工事費の増額の可能性
 今回の計画変更案では、事業費の内訳が従来の計画と変わりました。大きく変わったのはダム本体工事費が大幅に削減されたことです。「都県合同による八ッ場ダム現地調査報告書」において、「しかし、本体掘削等において予想外の地質が現れ、事業費が増加する可能性も残している。」(調査事項26)とあります。本体関係の工事費が増額される可能性があるのかどうかを明らかにしてください。

2-4 底をつきかけている間接経費
 事業別の事業費計画と2007年度までの事業費支出額をみると、94億円が増額される測量試験費は、前者が723億円、後者が656億円で、執行率は91%に達しています。本体工事を控え、今後さまざまな調査や試験が続けられることを考えれば、残り67億円の枠でおさまるのか、きわめて疑問です。
 また、工期を5年延期するにもかかわらず、営繕費、宿泊費などの増額はゼロとなっています。工期が長引けば、このような間接経費が嵩んでいくのは当然であり、測量試験費などの間接経費が再度増額される可能性が十分にあると思われます。間接経費について、今後の見通しを具体的に示してください。

3 打越代替地について
 川原湯の打越代替地では、移転が完了する2010年度から5年間は、ダム本体工事の喧騒の中で温泉旅館を営業しなければなりません。このことについて先の回答は、「工事による騒音・振動については、施工日、施工時間帯等に十分配慮し、川原湯温泉街への影響を極力少なくするよう適切に対応したいと考えています。」と述べていますが、たとえ施工日、施工時間帯に配慮したとしても、観光業への影響は無視できません。下記の3点の質問にお答えください。

3-1 吾妻渓谷へのアクセス
 先の回答で、「吾妻渓谷の利用については、ダム工事中でも渓谷の散策等が可能となるよう、利用者の安全にも十分配慮して、代替の遊歩道を設置する予定です。」と述べていますが、この遊歩道には打越代替地から吾妻渓谷にアクセスする歩道も含まれるのでしょうか。打越代替地と吾妻渓谷との間は高低差が約100mもある超急斜面ですから、ダム本体の工事中、川原湯温泉の観光客が吾妻渓谷にアクセスするための歩道をつくるのは難しいのではないでしょうか。歩道ができなければ、川原湯温泉の観光客は付替県道を使うしかなく、渓谷の下流側を遠回りしなければ吾妻渓谷へ行かれません。
 打越代替地から吾妻渓谷にアクセスする歩道を設置する予定があるのかどうか、あるとすればどのような形で設置するのかお答え下さい。

3―2 ダム工事中に吾妻渓谷を散策できる範囲
 ダム本体工事が始まれば、吾妻渓谷の上流部は工事対象区間となります、群馬県の発電所が付設されることになったので、工事対象区間が広がり、散策できる範囲は狭められました。ダム本体工事と発電所設置工事が行われている期間、吾妻渓谷を散策できるのはどの範囲なのか、具体的に示してください。

3―3 打越代替地の沈下量の測定
 打越代替地には沢を埋め立てた盛り土造成地があります。何十mという厚さで埋め立てをしたところですから、埋立て土層の収縮で地盤沈下が心配されます。このような造成地では、沈下量の測定を行い、沈下がおさまったことを確認してから分譲を開始するのが普通だといわれています。しかし、打越代替地について今まで沈下量を測定しているのは法面だけで、居住部分である造成地については沈下量を測定してこなかったことが明らかになっています。沈下量は長年測量を続けて結果が判断できるもので、仮に今後測量しても、意味があるデータが得られるのは大分先のことになってしまいます。なぜ、打越代替地の居住部分について沈下量の測定をしてこなかったのか、その理由を明らかにしてください。また、分譲開始時期がこれによって遅れるのかどうかも明らかにしてください。

4 ダム本体工事費の大幅削減について
 今回の計画変更案では、ダム本体工事費が大幅に削減されています。ダム本体工事費の大幅削減について下記の5点の質問にお答えください。

4-1 ダム本体関係工事費がわずか9%の八ッ場ダム
 国土交通省の資料を使って、平成16年度の事業費変更と今回の計画変更案による事業費の内訳の変化を別紙のとおり整理してみました。ダム本体関係の工事費(貯水池護岸工事と地滑対策を除く)は、平成16年度以前は495億円であったのが、16年度に613億円に増額され、今回の変更案では429億円へと、大幅に減額されています。本体基礎地盤の掘削量や本体コンクリート量が大幅に減るからだということですが、もともと地質が悪い場所にダムを造ろうというのですから、掘削量やコンクリート量をこれほど減らして大丈夫なのかと思わざるをえません。
 今回の変更案では、ダム本体関係の工事費は八ッ場ダム建設事業費4,600億円のわずか9%です。神奈川県の宮ケ瀬ダムの場合、ダム本体関係の工事費は別紙のとおり、ダム建設事業費の25%でした。これほどダム本体関係工事費が全事業費に占める割合が小さいダムが、今まで作られた直轄ダムや水資源機構ダムの中にあったでしょうか? もしあれば、そのダムの名前とその割合を示してください。

4-2 長年行ってきた地質調査と最近数年の地質調査との違い
 貴事務所では、ダムサイトの地質調査を1989年度頃から長年行ってきました。ところが、最近数年間に行った地質調査の結果で、ダムサイト岩盤が比較的良好であるとして、ダム基礎岩盤の掘削量を149万m3から68万m3へと半分以下にし、ダム本体のコンクリート量を160万m3から91万m3に減らしました。数年前まで行ってきたダムサイト地質調査の結果では、なぜそのような判断ができなかったのでしょうか。長年行ってきた地質調査と、岩盤が良好だと判断した最近数年間の地質調査は、内容と結果がどのように違うのか、その違いを具体的に説明してください。

4-3 ダムサイト岩盤の評価の仕方
 ダムサイト岩盤が比較的良好であるという判断は、貴事務所によるダムサイト岩盤の評価の仕方が変わったことによる部分が大きいのではないでしょうか。もしそうならば、ダムサイト岩盤の評価の仕方がどのように変わったのかを具体的に説明してください。

4-4 本体掘削等において予想外の地質が現れた場合
 ダムサイト予定地はもともと地質が悪いところですから、「都県合同による八ッ場ダム現地調査報告書」においても、今後、本体掘削等で予想外の地質が現れる可能性があると記されています。最近の地質調査の結果では岩盤が比較的良好であったとしても、それはボーリング地点の地質が偶々ましだっただけのことではないでしょうか。本体掘削等において予想外の地質が現れた場合はどうするのか、その対応策を示してください。

4-5 ダム本体工事費の大幅削減で事故が起きた場合の責任は?
 ダムの安全性にかかわるダム事業の要というべき本体工事費を大幅に削減して、将来、取り返しのつかない事故が起きる危険性はないのでしょうか? 事故が起きた場合、誰がその責任を負うのか、責任の所在を明らかにしてください。

5 八ッ場ダム事業の便益計算の問題について
 昨年12月21日に開かれた関東地方整備局の事業評価監視委員会で、八ッ場ダム等の4事業が継続妥当とされた根拠は、便益/費用が1を上回っているからということだけでした。この問題について下記の2点にお答えください。

5―1 洪水調節の便益について
 先の質問書では、八ッ場ダムの洪水調節の便益8,276億円の算出根拠を明らかにすることを求めましたが、その計算過程を示すデータは示されませんでした。自信を持つ科学的な計算ならば、計算データの全部を明らかにすべきです。
 国土交通省による利根川水系ダムの便益計算は、1947年のカスリーン台風洪水が再来した場合の氾濫で失われる資産を計算し、その資産損失の一部軽減にダムが役立つとして、各ダムの洪水調節の便益を求めるものです。しかし、実際のカスリーン台風の洪水流量は計測されておらず、推定流量をさらに机上で膨らました数字を使っているため、氾濫面積と失われる資産が現実離れしたひどく大きなものになっています。
 1947年のカスリ-ン台風の再来計算では、八ッ場ダムの治水効果がゼロであることが国土交通省自身の計算で明らかにされています。カスリーン台風洪水の再来を想定した氾濫による損失資産を計算し、再来計算では治水効果ゼロの八ッ場ダムにその計算結果を使うのは、明らかに矛盾しています。カスリーン台風の再来計算では八ッ場ダムの洪水調節の便益がいくらになるのか、現実に即した数字を改めて示してください。

5―2 河川の水量確保に係る便益について
 八ッ場ダムの建設により、吾妻渓谷の自然は大きなダメージを受けますが、貴事務所は、八ッ場ダムによって逆に「吾妻渓谷に必要な水量を確保することによる景観改善の便益」が生まれると説明しています。八ッ場ダムによって普段の流量が少し増えるということですが、現状で渇水時の流量が小さいのは、上流で東電の発電所が全量取水しているからで、他の河川で最近行われてきているように、発電の水利権更新時(2012年)に維持流量の放流を義務づければ解消できることです。それを八ッ場ダムの効果と主張するのは、おかしいのではないでしょうか?
 さらに驚くべきことは、吾妻渓谷を訪れる又は通過する観光客が年間740万人(現在の観光客数は年間13万人)であることを前提として便益を算出してることです。このように現時離れした計算をして何の意味があるのでしょうか。先の回答では「景観改善に係る便益の算出手法については、引き続き工夫していきたいと考えています。」と述べています。どのように工夫していくのか、その具体的な内容を明らかにしてください。