八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

「どうする八ッ場ダム」(読売新聞)

2008年6月19日 読売新聞群馬版より転載

 長野原町に建設中の八ッ場ダムを巡り、県議会で今年度に入って、立場を異にする二つの議員団体が結成され、下流都県議会と連携した活動を始めた。自民党を中心として推進の立場をとる「八ッ場ダム推進議連」の萩原渉事務局長と、建設見直しを求める議員が中心の「八ッ場ダムを考える1都5県議会議員の会」の関口茂樹会長に、それぞれの主張を聞いた。(聞き手・田島大志)

◆八ッ場ダム推進議連 萩原渉 事務局長 

「早期建設で住民生活安定」

――なぜ建設推進を主張するのか

 本当に長い間、ダムに苦しめられた住民の歴史があるからだ。水没関係地区に親戚もたくさんいるが、計画段階では、住民たちは反対運動をしながらも、懸命に(将来像を)模索した。新しいまちの絵を描き、県の生活再建案を飲んで反対運動が終息。今でも現地で再建しようとする人たちは一生懸命がんばっている。いよいよ引っ越しの時だと思っているのに、つぶすようなことは到底できない。住民の生活安定を図るには、事業を早期に進めないといけない。

 ――地元住民の意識をどう感じているか

 とにかく早く代替地をつくってくれと。早く移転して新生活を始めて、旅館や商売を始めたいというのが本当の希望だと思う。「やめろ」という声など聞いたこともない。

 ――吾妻渓谷の自然破壊を懸念する声もあるが

 ダムを造ることで、一定の自然や景観が損なわれるのは仕方ないことだ。でも、できるだけ破壊を抑えていく。植栽をするとか景観を保全するとか。

 ――見直し派には生活再建だけ行い、本体工事を中止するという提案もある

 ダム建設の前提で国や下流都県から負担を受けて道路や鉄道を建設している。なくなった場合、今後500億円以上かかると言われる継続負担を地元だけで行うのか。それは無理だ。それにこれまで3000億円ものお金をすでに使っている。なくなったら「今までの負担は何だったんだ」ということになる。

 ――下流都県に対しては必要性をどう説明するか

 利水面でも、下流の430万人の水需要をまかなえることは非常に大きい。治水面でも必要だ。気候変動による災害が世界的に起きている中、想定外の大雨が降った場合、ダムがなくて大丈夫なのか。安心安全のためにも八ッ場ダムが必要だと訴えたい。予定地の上流には2万人以上の人が住んでいる。草津温泉などの観光客にとっても、(新しい道路ができれば)渋滞解消にもつながる。住民の思いや歴史とともに、そうしたことも伝えていきたい。

【萩原渉氏】 建築設計事務所長などを経て2007年の県議選吾妻群区で初当選。自民党。自身のダム建設反対運動と街づくり計画の進展を描いた「八ッ場ダムの闘い」の著者、萩原好夫氏は大叔父にあたる。54歳。

◆八ッ場ダムを考える1都5県議会議員の会 関口茂樹 会長

「甘い計画必要性再検証を」

 ――なぜ建設見直しを主張するのか

 基本的に、ダムは社会的に有意な施設と思う。(藤岡市にある)下久保ダムは首都圏の水がめとして日本の高度経済成長を大きく支えた。だが、巨大ダムを作ると、川の環境が激変する。下久保では、釣りや遊びで私を育ててもらった神流川のすばらしい自然を失ったと痛感した。八ッ場ダムの予定地には群馬県を代表する景勝地の吾妻渓谷があり、一部は水没する。かけがえのないものをなくす以上の利益があれば仕方ないが、その必要性は利水、治水ともに失われている。

 ――町をはじめ、地元住民は現在、事業推進を働きかけているが

 計画段階では、住民の激しい反対運動があった。だが、県が示したバラ色の生活再建案に夢が持てたから矛を収めた。だが、今では、全水没地域の8割の人は失望して出て行った。再建案はうそだったということだ。住民たちはダム建設の前提以外の生活再建なんてあり得ないと親の世代から刷り込まれてきた。国がしっかりと補償をして、ダムが中止されても救われるということを示せば、住民の意識も変わる。

 ――中止した場合、投じられた3000億円が無駄になるという指摘がある

 八ッ場ダムは、これだけ時間がかかったことを含め国の政策の誤りだった。利水面でも下流は水余り状態で、治水の計算も計画段階でいい加減だった。間違いに気付いた時点で、転換した方がいい。全部やったら、あと何千億もの税金が使われる。払う側はたまったものではない。後世のためにも、1億円でも無駄は少ないほうがいい。

 ――下流都県の議員とどのように協力をしていく

 無駄な公共事業に1円でも使われたら困るというのが共通の考え方。これまで情報公開が不十分だった。1都5県の連携もあってぼろぼろ情報が出てきた。今後、情報交換し、まずは真実を知って必要性を徹底的に検証する。実際、かなり問題のある事業の進め方をしている。検証することによって、見直しの機運がさらに高まっていくはずだ。

【関口茂樹氏】旧鬼石町長を5期務めた後、2007年の県議選藤岡市区で初当選。リベラル群馬。旧鬼石町(藤岡市)には1968年に完成した下久保ダムがあり、町長時代は、ダム所在市町村全国協議会会長も務めた。62歳。