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戸草ダム中止 国交省方針

2008年6月18日 読売新聞長野版より転載

治水対策、美和ダム強化
 伊那市長谷の三峰(みぶ)川上流に建設予定の戸草ダムについて、国土交通省は計画を中止する方針を決めた。治水面については、約15キロ下流にある美和ダムの貯水能力を高めることで代替する。事業着手20年後の方針転換に、地元からは反発の声も上がっている。

 戸草ダム建設中止の方針は、国交省中部地方整備局が策定する天竜川水系河川整備計画の「たたき台」に盛り込まれている。

 「たたき台」では、50年に一度の大雨が降った場合の三峰川を含む天竜川水系の治水対策を検討。〈1〉川幅の狭い場所の掘削(事業費400~800億円)〈2〉戸草ダム建設(同1000億円)〈3〉美和ダムの洪水対策強化(同300億円)――の3案を比較した。

 その結果、美和ダムの貯水能力を高めることが、「早期に治水対策の効果が出る」として、戸草ダム建設を中止することが適当と結論づけた。同省天竜川上流河川事務所の北沢利実・副所長は「事業費が一番安く、財政緊縮をはかる意味もある」と話している。

 戸草ダムの建設事業は、建設省(当時)が1988年、三峰川の洪水対策、工業用水の取水、発電などを目的とした多目的ダムとして着手。総事業費約1000億円のうち、国が約93%、県が約7%を負担する計画だった。

 だが、田中康夫・前知事が「脱ダム宣言」を出した後の01年、県が取水と発電などの利水事業から撤退する方針を示し、建設計画はストップしていた。

 ダム建設に向け、水没予定地の4世帯は1994年までに移転を完了。民有地の用地買収も、ほぼ終わっていた。

 伊那市によると、三峰川では1959、61年に、台風や集中豪雨による洪水で、流域住民が孤立するなどの被害があり、82年の台風10号でも、旧長谷村(06年に伊那市に合併)の流域で総額約34億円に上る被害があった。美和ダム上流には現在、約800世帯が暮らしており、市では「建設の中止は、住民の安全に懸念を与える」として、近く、国交省に中止方針の撤回を求める。

 一方、同省は18日に伊那市で住民に対する説明会を開く。