2008年9月13日 朝日新聞群馬版より転載
県は、八ツ場ダム(長野原町)の建設によって水没する地区の住民の生活再建を支援する「八ツ場ダム利根川・荒川水源地域対策基金事業」の見直し案をまとめ、住民に提示した。川原湯地区の街づくりに関しては、米国のシリコンバレーならぬ「ダイエットバレー」と銘打った構想を掲げ、温泉を生かした健康施設「エクササイズセンター」の整備を新たな柱に据えた。
当初の案は92年に策定されたが、費用を負担する下流都県と合意に至らぬまま、16年が経過。人口の減少など状況の変化とも相まって現状にそぐわない内容になったため、改めたのが、27事業からなる見直し案だ。
ダイエットバレー構想は、スポーツジムや足湯などを備えて、利用者の減量に役立つさまざまなメニューを提供することで、観光客を呼び込むことが狙い。このほか、伝統食材の加工販売や農産物直売をする「道の駅」の林地区への整備なども新たに加えた。
92年の当初案では、川原湯地区に観光会館や多目的温泉施設、横壁地区に冒険ランドの建設が盛り込まれていたが、これらは削除した。
県特定ダム対策課によると、見直し案は06年度から、地区住民との協議を重ねて策定したもので、大筋の合意は得られているという。
今後の課題は、費用負担する下流都県の合意だ。事業の実施にあたっては、八ツ場ダムを水源として利用する5都県(茨城、群馬、埼玉、千葉、東京)が資金を出し合う。県は6月から下流都県への説明を始めており、年内にも合意を得たい考えだ。
しかし、下流都県には、「基金はソフト事業に使うべきだ」などと、ハコモノ建設に難色を示す意見も多い。実際、当初案でも住民の移転に必要な資金の利子補給や職業を変えるうえでの支援などについては合意が得られたものの、観光会館の整備などハコモノ建設についての合意は得られなかった。
当初案の総事業費は249億円と見積もられていたが、見直し案の総事業費について、県特定ダム対策課は「住民との話し合いで事業内容が変わることもある」という理由で、具体的な金額は明らかにしていない。
県特定ダム対策課は8月21日、地域住民の代表らに見直し案を説明した。その後、各地区の住民同士で話し合いが行われており、10月からは地区住民による検討部会が開かれる。検討部会には国、県、長野原町もオブザーバーで参加し、住民側の要望を吸い上げていくという。
川原湯地区の豊田武夫区長によると、住民からは「こうした構想は今まで何度も浮かんでは消えた。今回も同じではないか」と実現を疑問視する声などが出ており、「意見をまとめるには時間がかかりそうだ」という。また、エクササイズセンターなどの施設に関して「基金で建設し、地元住民らが運営する」という案が示されていることについては、「運営資金の支援なしでは難しいだろう」と話した。
一方、基金による支援案とは別に、県は独自の支援策として、温泉地入り口の道路上にかかるゲートや共同浴場「王湯」の補修などの費用4020万円を9月補正予算案に盛り込んだ。豊田区長は「今の営業に前向きな支援で良かった」と歓迎した。