八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

きょうから臨時国会 八ッ場ダムの溝は 『科学的根拠』の矛盾焦点

 八ッ場ダム中止の政策をめぐって、地元や関係都県知事の反発が注目されてきましたが、国会論戦を前にして、そもそも八ッ場ダムは科学的な見地から見て必要性があるのか、という基本的な問題に焦点を当てる記事がようやく出始めました。

2009年10月26日 東京新聞社会面より転載
ーきょうから臨時国会 八ッ場ダムの溝は 『科学的根拠』の矛盾焦点ー
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2009102602000073.html

 鳩山政権が「無駄な公共事業」として、建設中止方針を明確にした八ッ場ダム(群馬県長野原町)。事業費を負担する一都五県の知事が、中止撤回を求める共同声明を出すなど、建設中止派と推進派の対立は深まっている。二十六日から始まる臨時国会でも大きな争点になる。双方の主張をあらためて整理した。 (西岡聖雄)

 ■治水・利水
 八ッ場ダムの建設中止について、前原誠司国土交通相は就任会見で「河川行政のあり方を見直す入り口」と位置づけ、「ダムに頼らない河川整備を考えたい。山の保水力を上げることも大事」と述べた。

 八ッ場ダムは、二百年に一度とされるカスリーン台風(一九四七年)級の治水目標流量を想定し計画された。この台風では首都圏を中心に二千人近い死者・行方不明者が出た。

 ダム反対派の市民団体などは、この流量想定は過大と主張する。理由の一つは、戦時中の伐採で、森林は荒廃しており、当時の森林保水力は、現在に比べ格段に低かったというものだ。また、過去五十年間で最大の洪水で試算しても、八ッ場ダムの治水効果はわずかという見方もある。

 実は、カスリーン台風のとき、八ッ場ダム建設地の吾妻川上流に大雨は降っていない。このため同じ降雨パターンでは、ダムがあってもなくても治水効果は変わらないことは、国交省も認めている。

 これに対し、「将来、流域に大雨が降らない保証はない」というのがダム推進派の立場だ。国交相の諮問機関「社会資本整備審議会」は昨年、カスリーン台風級の大雨の頻度は、地球温暖化の影響で、百年後には九十~百二十年に一度になると答申。森林保水力については、日本学術会議が二〇〇一年、「森林は大洪水では顕著な洪水緩和効果を期待できない」と農林水産相に答申している。

 ダムに反対する市民団体は「首都圏の水需要は高度経済成長期の予想より減少しており、水は余っている」と主張する。

 確かに、東京都の水道配水量は一九九〇年代から減少傾向にある。しかし、石原慎太郎都知事らは、渇水対策として、八ッ場ダムは重要だとしている。

 ■代替案
 前原国交相は、ダムに代わる具体的な治水対策を明らかにしていない。有力な代替案は堤防の強化とみられる。市民団体も「ダムよりも、堤防の強化や改修を優先すべきだ」としている。

 国交省は〇三年、八ッ場ダムなど利根川上流のダム群を建設せずに、堤防かさ上げなどで代替した場合を試算。それによれば、利根川と支流の江戸川全域で、(1)堤防を約一メートルかさ上げ(2)堤防幅を平均九百メートル拡大(3)川底を三億トン掘削-のいずれかが必要とした。

 国交省は満杯時や越水時に一定時間破れない堤防強化策も検討した。だが、土木学会は昨年、「越水時も安全性を保てる堤防は現状では技術的に困難」と結論付けている。

 ■情報公開
 八ッ場ダムを含む利根川上流のダム群を建設する根拠となった国交省の試算には、未公表なデータや検証が不十分な内容も多い。

 堤防かさ上げなどの試算でも、肝心の総事業費は公表されていない。非現実的として十分に検証されることなく、ダム建設事業が進んだ。

◆論戦で問題明示を
 奥野信宏・中京大教授(公共経済学)の話 渇水、洪水対策は、五十年に一度に備えるのか、二百年に一度かで、前提の数値が大きく変わる。賛否のいずれかが一方的に間違いとは言えない。治水では、旧建設省時代は情報公開が不十分で、その体質が今も尾を引く。一方で、こうした問題は、現場に近いほどリスクに敏感。建設を中止するのなら、その根拠をきちんと、地元住民らに説明する必要がある。国会論戦では、外からはよく見えてこなかったこれらの問題も明らかにしてほしい。