八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

前原大臣と水没予定地住民の意見交換会について

2010年1月28日
 今週日曜日(1月24日)、前原国交大臣と八ッ場ダム水没予定地住民との意見交換会が長野原町で開催されました。

 前原大臣は就任直後の9月23日、水没予定地を訪ね、住民との対話を求めましたが、「地元に相談することなくダム中止を決定したのは、長年の経緯を無視したもので許せない」として、長野原町当局、八ッ場ダム水没関係五地区連合対策委員会などダムを推進してきた地元有力者らは対話をボイコット、その後4ヶ月にわたり膠着状態が続いていました。

 八ッ場ダム計画の歴史の中では、現在と逆の立場で八ッ場ダム反対期成同盟がダムを推進する国、群馬県との対話を長年にわたり拒否し続けた経過(1965年~1979年)があります。地元では、当時より住民パワーが格段に落ちていることもあり、「対話のテーブルについたらおしまい。こちらからダム中止を容認したら、国は何もしてくれないのではないか」と警戒する声が根強くありました。しかし、行政による様々な圧迫(水没予定地の道路整備に予算付けをしないなど)にも拘らず行政の介入を拒否し、多くの政治家らに働きかけて粘り腰を見せた当時と違い、現在、地元はダム事業に依存した産業構造、生活再建問題を抱えており、国へのボイコットは地元にとってマイナスにしかならないというジレンマを抱えています。

 また、9月23日のボイコットに対しては、国民から批判が相次ぎ、地元長野原町やダム推進をテレビで訴えた有力者らへの抗議電話、メールが殺到。地元は大きな打撃を受ける結果となりました。ダム推進勢力は、これらの抗議が市民団体による嫌がらせだとの根も葉もないデマを流し、地域が一枚岩であることを強調してきましたが、ボイコットを住民全体に諮ることなく決定したこと、ボイコットを宣言した大臣と代表者らとの面談を事前に住民に告知しなかったことなどから、長野原町民には執行部への批判もありました。
 
 国は来年度の八ッ場ダムの事業費に、ダム本体工事費を除いた「生活再建関連事業費」として154.5億円を計上していますが、その中身がどうなるかは明かされておらず、群馬県、ダム関連業者、八ッ場ダムの「生活再建関連事業」によって生活設計を立ててきた住民には、インフラ整備を陳情する機会として意見交換会を位置付ける見方も出てきました。

 今回の意見交換会は、前原大臣からの再三の要望に応じて開かれたものですが、八ッ場ダム水没関係五地区連合対策委員会では、「お許し願えるならばダムを中止した後の生活再建について住民と直接対話をしたい」という大臣の希望を事前に拒否する方針を決め、執行部があらかじめ12名の発言者を選定、発言内容について事前の調整も行われました。選ばれなかった住民は、申し込み手続きをしなければ意見交換会に参加できず、参加しても発言できないとあって、「意見交換会に参加すれば、ダム推進を主張する発言者と同意見だとみなされる」ことを懸念する住民も少なくありませんでした。

 現地では前日からダム推進をアピールする街宣車が走り回り、報道関係者が詰めかけ、騒然とした中、意見交換会当日を迎えました。発言者12名のうちダム事業に疑問を投げかけた住民は一人のみ。ダム推進を訴える発言だけに拍手が鳴り響き、住民に苦痛を与えていることを謝罪する前原大臣に対しては沈黙で応えるという、ダム推進勢力のアピールともとれる集会でした。しかし、ダム推進とされる発言内容の中でも、ダム事業が生活・営業に直接関わる川原湯温泉の関係者らが具体的な生活再建の中身に踏み込んで大臣の姿勢を問い質す一方で、周辺地区の住民からは民主党政権への批判などの抽象論が多く繰り出され、「ダム推進」といっても一枚岩ではないことが明るみに出ました。また、今回の集会は、あらかじめ町民すべてに告知され、公開されていましたので、町民参加者は約140名にのぼり、一人ひとりの住民が前原大臣と発言者との対話の現場を目撃することになりました。

 八ッ場ダム問題の根っこには、住民不在(=民主主義の欠如)があります。国と関係都県(利根川流域の首都圏1都5県)は、水没予定地住民によるダム反対の民意を政治権力によりねじ伏せ、受益者とされる首都圏住民にダム事業の実態を伏せ、強引に事業を進めてきました。政権交代により、否が応でもダム問題は注目を浴びることとなり、半世紀以上の政治のツケが今、新政権に負わされています。自民党は地元推進派住民の意向を尊重しない政策は民意に反するとして、八ッ場ダムを民主党政権への批判材料と考えているようですが、わが身の過去を省みない攻撃は墓穴を掘るだけです。

 前原大臣は水没予定地、関係都県知事、国交省内部での抵抗勢力の巻き返しにも関わらず、ダム中止方針を変える気配がありません。八ッ場ダム事業の抱える様々な問題が噴出する中、推進派からは、大臣の交代、再度の政権交代に期待する声ばかりが聞こえてきます。
 
 前原大臣は意見交換会の後、1月27日に開かれた参議院予算委員会において、八ッ場ダム予定地域住民の生活再建問題について富岡由紀夫議員(群馬県選出)の質問に答え、来年度の予算案として計上されている「生活再建関連事業」154.5億円に関し、真の生活再建に役立つ箇所付けに取り組みたいと語りました。半世紀以上犠牲となってきた水没予定地の声なき人びとが、国に見捨てられるという不安、ダムの重圧から解放され、真の生活再建・地域再生に希望を見出せる日が一刻も早く来るよう、なお一層の政治の取り組みが求められます。

*意見交換会の関連新聞記事はこちらです。↓
https://yamba-net.org/wp/modules/news/index.php?page=article&storyid=817

◆参考 2010年1月25日 衆議院予算委員会◆
 町村信孝衆院議員(自民党)の発言(地元の皆さんに頭を下げるぐらいなら、マニフェストを見直し、八ッ場ダムの中止を撤回すればよい)に対して「ダムを2890造り、空港を97造り、港湾を65造り、バラマキの公共事業をやってきたのはどこなんですか。維持管理だけでも大変なんですよ。そういうツケを放っておいて、政権の批判をするのはやめてもらいたい」と切り返す前原大臣。(衆議院録画59分あたりから)
http://www.shugiintv.go.jp/jp/wmpdyna.asx?deli_id=40121&media_type=wb&lang=j&spkid=19659&time=04:22:13.4