2010年3月20日
八ッ場ダムを前提とした四本目の湖面橋として、工事の行方が注目されていた湖面1号橋の建設継続を前原国交大臣が表明しました。
↓
http://www.mlit.go.jp/page/kanbo01_hy_000847.html
国土交通省ホームページ 大臣発言(2010/03/19)
大臣が湖面1号橋の工事継続の理由として挙げているのが、水没予定地の川原湯・川原畑両地区を対象としたアンケート結果でした。国交省関東地方整備局では、アンケート結果もネット上に公開しています。↓
http://www.ktr.mlit.go.jp/kyoku/kisha/h21/03/0917.pdf
湖面1号橋の入札をめぐる記事↓
https://yamba-net.org/wp/modules/news/index.php?page=article&storyid=826
湖面1号橋は、川原湯温泉のJRの駅や温泉街の入り口のあたりに建設が予定されている湖面橋です。ダムを前提とした山の中腹の代替地を結ぶ橋として、全水没予定地の川原湯地区と川原畑地区の住民には建設を希望する声が多いとかねてから言われていました。住民へのアンケート結果によって建設の是非を決めるということは、最初から建設の理由付けとしてアンケートを行ったと見られても仕方ない面があります。
地域の住民にとって、橋はいつも歓迎されるものです。本来なら、100%の住民が湖面1号橋の建設を望んでもおかしくないのですが、態度を明らかにしなかったり、見直しを希望した住民が相当数いるのは、湖面1号橋が大きな問題をかかえる橋だからです。
ダム予定地は国の名勝・吾妻渓谷と800年の歴史を誇る名湯・川原湯温泉が一体となった観光地です。政権交代により水没を免れる可能性が高まった今、水没予定地の再生を妨げる巨大な橋脚が立たないことを多くの観光客が望むのは当然です。湖面1号橋建設の是非は、無駄な公共事業を批判する一般市民と、現地での生活を守ろうとする現地住民という対立の構図で捉えられがちですが、実際は、現地の住民と観光客との考え方の違いという面が多分にありました。不幸なことは、現地の住民の中に、観光業を営んでいる人々が多く、その人々の多くが観光客が望まない橋脚建設を望んだということです。観光地は、そこに住む住民と観光客の方向性が一致してこそ成り立つものです。川原湯は半世紀以上ダム問題に翻弄された挙句、観光客に背を向ける選択をすることになってしまいました。
湖面1号橋建設の是非は、今後の水没予定地の生活再建のあり方を問うものでした。関連工事で山が削られ、谷が埋め立てられているところが各所にありますが、それでも八ッ場の自然の力は、都会人を癒すに十分の大きなエネルギーを秘めています。豊かな歴史や文化を醸成してきた水没予定地の再生を多くの人々が望み、住民の皆さんが再生のスタートに立つときは支援したいという声は無数にあります。いまだにダム建設を推進している群馬県知事や長野原町長は、湖面1号橋の建設が生活再建を推進するものであるかのような説明をしていますが、湖面1号橋が建設されても、生活再建の問題は何一つ解決しません。
八ッ場ダムの生活再建は、いまだに財産補償しか実現していません。ダム湖観光を前提とした地域づくりといっても、水質がとりわけ悪く、水位が夏場に大きく低下するダム湖では、観光に資する可能性はありません。住民の雇用確保を目的に、群馬県は1990年代初頭、「公社構想」をダム受け入れの条件として地元民に提示していましたが、空約束であったことが数年前に明らかになりました。その後、「公社構想」に変わるものとして「エクササイズセンター」が提案されましたが、それもアンケート結果で集客力がないとの理由で白紙が決りました。水没予定地の人々は、今も真暗なトンネルの中に置き去りにされているのです。
*参考記事→http://mytown.asahi.com/gunma/news.php?k_id=10000581003090001
地域の住民が望んだことだからーこれまで八ッ場ダム計画の経過の中で、何度この言葉が使われてきたことでしょう。代替地の安全性も確認されておらず、代替地での温泉街の再生の可能性もなく、現在地にいては補償金を受け取れない、こんな状態では、地元民が今まで約束していた橋だけでも造ってほしいと望むのは無理もありません。けれども、それは住民が選び取った未来ではありません。
その場しのぎに事業を継続し、すべての責任を住民に押し付ける、こうした官僚主導のやり方を変えなければ、八ッ場ダム問題の解決は遠のくばかりです。
湖面1号橋についての解説はこちらです。↓
https://yamba-net.org/wp/modules/bridge/index.php?content_id=1
■2010年3月19日 読売新聞群馬版より転載
ー湖面1号橋 建設継続を地元歓迎ー
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/gunma/news/20100318-OYT8T01263.htm
知事「大臣の決定に敬意」
八ッ場ダム関連工事で建設の是非が議論になっていた湖面1号橋について、前原国土交通相は18日、建設継続を表明した。住民意向調査の結果を尊重する形での決断に、地元住民や県からは歓迎の声が上がった。
長野原町の高山欣也町長は「住民の声を謙虚に聞いた結果と評価している。今後も生活再建事業を遅滞なく進め、特に代替地の造成は、大臣直々に指示して急いでほしい」と述べた。
1号橋で移転代替地同士が結ばれる計画の川原湯・川原畑両地区の住民からも安堵(あんど)の声が上がった。川原湯温泉旅館組合の豊田明美組合長(45)は「両地区は人口が少なく、1号橋は地域を支える命の橋になる。今後も時間をかけず、新生活を早くスタートさせてほしい」と要望。川原畑地区に住む中嶋藤次郎さん(68)は意向調査に、「橋がなければ川原湯の理髪店にも行けない」と記したといい、「大臣に少しは気持ちが通じたのかも」と喜んだ。
大沢知事は17日夜、東京都内で前原国交相と会談し、建設継続方針を伝えられた。さらに18日午後、改めて電話で前原国交相から連絡を受けた。大沢知事は同日、「地元の要望をふまえた大臣の決定に敬意を表する」とコメントを発表した。
民主党県連は昨年、橋の建設凍結を進言していた。前原国交相は18日、建設継続表明に先立って、県関係の同党衆院議員を大臣室に集めて方針を説明。中島政希会長代行は「1号橋は造らないほうが望ましいが、大臣が総合的に政治判断したのだから尊重したい」と述べた。一方、出席議員の1人は「建設推進派にダム本体まで造る雰囲気が高まることにならないか」と懸念を口にした。
■2010年3月19日 毎日新聞群馬版より転載
ー八ッ場ダム・流転の行方:「湖面1号橋」建設継続 住民から歓迎の声 /群馬ー
http://mainichi.jp/area/gunma/news/20100319ddlk10010166000c.html
◇反対派「本体中止に矛盾」
八ッ場ダム(長野原町)の建設中止問題を巡り、ダム湖の完成を前提に両岸を結ぶ予定だった「湖面1号橋」について、前原誠司国土交通相は18日、工事の継続を明言した。2月の地元住民アンケートで、建設を求める意見が多数を占めたことを受け判断した。住民からは歓迎の声が上がった一方、ダム建設中止方針との矛盾を指摘する意見もあった。
前原国交相は17日夜、東京都内で大澤正明知事と会談し、工事継続方針を伝えたという。知事は「地元の要望を踏まえた大臣の決定に敬意を表する。県が施工主体なので、早期完成に向けて対応したい」とのコメントを発表した。
長野原町の高山欣也町長は「ほっとした。『生活再建は滞りなく進める』という約束を守ってくれた」と歓迎した。ただ、国交相が「本体工事中止の方針はまったく変化はない」と発言したことについて「疑問を感じる。ダム本体も建設してほしい」とも話した。
衆院国土交通委員会で16日に参考人として意見を述べた、川原湯温泉旅館組合の豊田明美組合長は「生の声が伝わった」と感謝しながら「ダムがあってこその橋。計画全体を矛盾なく実行してほしい」とした。
一方、ダム建設見直しを求める市民団体「八ッ場あしたの会」の渡辺洋子事務局長は「橋の建設はダム中止方針と食い違う。住民の生活再建を真剣に考えているのか、疑問だし不安だ」と話した。
また、町関係者によると、用地補償契約も再開される見通し。昨年秋に予算が底をつき、中断していた。【奥山はるな】
■2010年3月19日 東京新聞群馬版より転載
ー八ッ場ダム・湖面1号橋建設継続 地元は国交相判断を評価ー
http://www.tokyo-np.co.jp/article/gunma/20100319/CK2010031902000101.html
八ッ場(やんば)ダム(長野原町)の生活再建事業で建設の是非が焦点となっていた「湖面1号橋」について、前原誠司国土交通相が建設継続を表明した十八日、県や長野原町の関係者は「地元の要望を認めてくれた」と高く評価した。だが、こうした生活再建事業は「あくまでダム本体建設が前提」とし、国のダム中止方針を容認する意思がないことも、あらためて強調した。 (山岸隆、中根政人)
大沢正明知事は「湖面1号橋は県が施工主体であり、早期完成に向けて引き続きしっかり対応したい」とコメント。国が建設の可否を公式に示していなかった中で、県が橋脚工事の入札を行ったことの正当性を訴えた。長野原町の高山欣也町長も「住民の生活再建関連事業はすべて実施するという発言と一致した判断で、評価する。ダム本体の建設も必要という判断を期待したい」と話した。
ダムで水没が予定された地区の住民らで組織する「八ッ場ダム水没関係五地区連合対策委員会」の萩原昭朗委員長(78)も「もう一歩踏み込んでダムを建設すると決めてほしい」と語った。
一方、「ダム中止の場合、1号橋は建設の根拠を失う」として、事業凍結を求めていた民主党県連の中島政希会長代行は「ダム中止に向けて総合的に判断した『政治的決定』であればやむを得ない」と説明。前原氏にダム中止のマニフェスト徹底を求めた。
ダム建設中止を求める市民団体「八ッ場あしたの会」の渡辺洋子事務局長は「国が『ダムなし』を前提とした生活再建の青写真を示さない限り、個別事業で今後も(1号橋のような)トラブルが起きる可能性がある」と話した。
■2010年3月19日 上毛新聞より転載
ー●八ツ場「湖面1号橋」継続へー
http://www.raijin.com/news/a/19/news01.htm
八ツ場ダム中止問題をめぐり、前原誠司国土交通相は18日、建設凍結を検討していた長野原町の生活再建事業の一つ「湖面1号橋」について建設を継続する方針を示した。国交省内で記者団に語った。前原氏はダム本体の建設を前提としたインフラ整備の見直しを示唆していたが、建設を求める地元の意向に配慮した形。地元住民は安堵(あんど)する一方、ダム建設見直しを訴える市民団体などからは冷ややかな声が上がった。
前原氏は「工事を継続すると判断した。(ダム事業見直しの)被害者である住民の気持ちを反映させた」と説明。継続理由として水没予定地の川原湯、川原畑両地区の住民66世帯を対象に2月に実施した意向調査で建設を求める声が多かったことを挙げた。ダム本体建設の中止方針は維持することを強調した。
1号橋は両地区の住民が移り住む代替地同士を結ぶ長さ494メートルの橋。民主党県連や市民団体は「ダムが中止になれば景観を破壊し、生活再建に影響を与える。費用対効果も疑問」との考えから見直しを要望する一方、地元側は「必要な橋」と反発していた。
さらに、見直し要望を受けて前原氏が新年度の事業継続について判断を保留する中、国から建設を委託されている県が2月に予定通り橋脚の工事入札を実施。県議会で激しい議論となるなど、ダム本体とともに建設の是非が焦点の一つとなっていた。
建設継続を受け、川原畑八ツ場ダム現地再建対策委員会の野口貞夫委員長は「1号橋を踏まえて(生活再建の)計画を考えてきた。不安もあったが、とりあえずひと安心」と語り、高山欣也長野原町長は「当然のこと。遅れているほかの事業も急いでほしい」と強調。大沢正明知事は「地元の要望を踏まえた決定に敬意を表する」とのコメントを出した。
一方、民主党県連の石関貴史衆院議員は「建設に反対する気持ちは変わらないが、決断を重く受け止めたい」と厳しい表情。中島政希会長代行は「無駄な公共事業をやめるということなら1号橋はいらない。(建設は)政治的な妥協の産物だろう」と述べた。
建設中止を要望していた市民団体「八ツ場ダムをストップさせる群馬の会」の鈴木庸事務局長は「『コンクリートから人へ』という言葉とは違う方向でがっかりだ」と失望感をあらわにした。
■2010年3月28日 読売新聞群馬版より転載
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/gunma/news/20100327-OYT8T00966.htm
ー住民に配慮し決断 湖面1号橋建設続行 前原国交相が心境ー
前原国土交通相は、読売新聞のインタビューに応じ、八ッ場ダム(長野原町)の湖面1号橋建設続行を決めた理由について、「人口、世帯が少なくなったところを、さらに分断するのはいかがなものかと思った」と述べ、地元の川原湯、川原畑両地区の生活再建には、代替地同士を結ぶ橋が必要と判断したとの認識を示した。一方で「お許しいただければ、ダムに頼らないどういう生活再建ができるか、何度でも足を運んで話し合いをしたい」と語り、改めて中止を前提に地元の説得を続ける意向を示した。(森広彰)
前原国交相は1号橋について「本音としては、ダムができないなら、できるだけ無駄な施設はつくらない方が良い。そのお金があれば、将来につながる分野に使いたいという思いがあった」と、建設中止を念頭に置いて検討していたことを明かした。
その上で、「もう代替地に移った方がいる。今の法律では更地にして明け渡さないと補償金が出ず、(水没予定地に)残る住民には何も措置がない。住民の意向調査も含めて総合的に判断した」と説明した。また、「発表する前日に大沢知事とかなり話し込みをして決断した」と直前まで揺れ動いた心境を語った。
問題解決が長期化していることについて、「あまり時間をかけない方がいいが、必ずかけないといけない時間がある」と指摘。ダム事業を再検証し、治水、利水の代替案を共同事業者の1都5県に示して判断を仰ぐ作業と同時並行で、地元住民との協議を模索する考えを明らかにした。
さらに「水没地区、長野原町の将来をどうしていくのか議論し、代替地で本当に温泉旅館をやっていけるのかも含めて忌憚(きたん)のない意見を伺いたい。我々から案を提示して話し合うプロセスは必要だと思う」と発言。地元の意見を聞いた上で、ダム湖がない前提での生活再建案を国から提示する方針を示した。
一方、1都5県の知事が、建設推進の立場を変えていない現状について、「治水、利水の代替案を出していない今のままでは、相手もどう話し合いに応じていいか分からない」と理解を示し、「政府の責任者として、総合的な調査に基づいて自治体と相談できる案、今後の計画を示さないといけない。それなりの時間はどうしてもかかる」と語った。
■群馬県ホームページより
http://www.pref.gunma.jp/cts/PortalServlet?DISPLAY_ID=DIRECT&NEXT_DISPLAY_ID=U000004&CONTENTS_ID=70448
知事コラム
こんにちは。大澤です
八ツ場「湖面1号橋」凍結解除!
「湖面1号橋の工事継続費用を、新年度予算に計上することといたします」
本日、前原国土交通大臣から直接私のもとへ電話がありました。
昨日、東京で大臣とお会いし、2人で議論を交わした直後だっただけに、驚きとともに大変うれしい知らせでした。
ダムの中止表明から半年。この間、何の進展もないままに、地元住民の皆さんは、不安と憤りを抱えた毎日でした。私も、これまで何度も大臣には住民の皆さんの切実な思いを伝えてきたところです。
先に、大臣は「住民意向調査を行い、その結果を踏まえて判断する」と言われていたので期待は寄せていましたものの、実際にその通りになったことで、私はこの点に関して、大臣に感謝し、素直に評価したいと思います。
住民の皆さんの熱意が、大臣を動かし、国を動かしました。あらためて、長野原町、東吾妻町の皆さんに敬意を表し、ほかの1都4県の皆さんに感謝いたします。
これを機に、生活再建関連事業の早期完成と、一日も早い本体工事の着工を引き続き国へ強く訴えてまいる所存です。
(平成22年 3月18日)