八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

絶滅危惧種 クマタカ7組確認

2010年3月26日 朝日新聞群馬版より転載
http://mytown.asahi.com/gunma/news.php?k_id=10000581003260001

八ツ場ダム(長野原町)の建設予定地周辺で、環境省のレッドリストで近い将来の絶滅の危険性が高いとされるクマタカのつがい7組(14羽)を、国土交通省が確認していたことがわかった。国交省が環境アセスメントに準じた形で政権交代前に用意していた報告書に、生息状況を記していた。報告書はダム建設工事で「繁殖活動が低下する可能性がある」と予測している。(菅野雄介)

 朝日新聞が入手した報告書は「八ツ場ダム 環境保全への取り組み(案)」と題し、当初は2009年8月の公表を予定していた。河川工学や生物研究者ら10人の有識者による第三者機関「八ツ場ダム環境検討委員会」が、水質や生物の生息調査などのデータをもとに、ダム建設が環境に与える影響を08年末から分析した結果をまとめた。

 クマタカの定点観察などの調査は、1998年12月~07年10月の繁殖期にダム予定地周辺で行われた。この間の9回の繁殖期に、クマタカのつがい7組による計18回の繁殖成功を確認したという。

 同様に絶滅が危惧(き・ぐ)されているイヌワシのつがい1組も06年2月以前には繁殖を確認していたが、現在は生息が確認できていないとした。

 報告書は、クマタカやイヌワシを保護するために、騒音や振動、森林伐採などの抑制や工事時期の配慮などの対策を取ることで生息が維持されると結論づけている。

 このほか報告書では、県のレッドデータブックなどに「絶滅の恐れのある野生生物」として掲載されている動物類189種、植物類31科51種を確認したことを記載する。

 動物類では、哺乳(ほ・にゅう)類のイタチや昆虫類のムカシトンボ、ゲンジボタル、ミヤマシジミ、両生類のシュレーゲルアオガエルなど29種が「主な生息環境の一部が直接改変により生息に適さなくなり、生息の状況が変化する可能性がある」として、人工的な生息環境の整備で対応する方針を記した。

 植物類は、環境省レッドリストの「準絶滅危惧」に掲げられたアギナシやナガミノツルキケマンなど24種が、「生息地が消失する」とされ、移植や種子の採取で対応するとしている。

 99年施行の環境影響評価法(環境アセスメント法)では、ダムも、住民に情報を公開して意見を求める環境アセスの対象とされている。

 一方、八ツ場ダムは、99年以前に付け替え道路などの関連工事に着手していたため、法に基づく環境アセスについては対象外だった。しかし、国交省は、昨年の環境検討委やその報告書を「法アセスに準じた環境への配慮」と位置づけていたという。

 朝日新聞がこの報告書の存在を報じた直後の09年11月、前原誠司国交相は水質については「できる限り開示していきたい」と発言し、報告書の基になった水質データを昨年末から順次公開している。

 ただ、国交省関係者は「報告書自体はダムを造る前提でまとめたものだ。(ダム建設が中止の方向になった現在では)意味がなくなった」と言う。同省関東地方整備局は生物の生息調査のデータについては「公表の見通しは立っていない」としている。