2010年4月13日
今週日曜日、八ッ場ダム予定地で地質の専門家をお招きして学習会を開催しました。講師の奥西一夫さん(京都大学名誉教授・国土問題研究会理事長)、中川鮮さん(地域環境研究所理事長・元京大防災研究所)らの報告をもとに、八ッ場あしたの会、八ッ場ダムを考える1都5県議会議員の会では前原国土交通大臣に要請書を提出しました。
八ッ場ダムの是非が問われる中、ダムの関連工事は政権交代前と変わりなく続いていますが、ダム予定地は地形の改変によって災害の危険性が高まっています。特に問題なのは、水没予定地住民の皆さんが早期移転を目指している代替地と多数の利用者が見込まれる付け替え国道などの安全性の問題です。国は安全を確保しているとしていますが、その根拠には説得力がありません。
民主党政権は全ての情報を公開し、事実を明らかにすべきです。
以下、前原大臣に本日送付した要請書を転載します。
国土交通大臣 前原誠司 様
八ッ場ダム生活再建問題の早期解決を求める要請書
八ッ場あしたの会(代表世話人 野田知佑ほか)
八ッ場ダムを考える1都5県議員の会(代表世話人 関口茂樹)
政権交代により、八ッ場ダム事業における国の政策を転換する方針が示されましたが、ダム予定地住民の生活再建問題は解決から程遠い状況にあります。
このほど国土交通省の報告書をもとに、ダム湖予定地周辺の安全性について専門家が検証したところ、看過できない多くの問題があることが明らかになりました。地元住民の皆さんは、ダム問題から一刻も早く解放され、代替地で新生活を始めることを願ってこられましたが、現状では、ダム建設の如何に関わらず、代替地での生活は安全を脅かされる可能性が高いと考えざるをえません。
八ッ場ダム計画の歴史においては、住民の闘争が長年続き、国、群馬県が代替地における現地再建を約束したことで地元がダム事業を受け入れた経緯があります。生活再建についての覚書が交わされてからすでに20年以上が経過していますが、代替地の造成が遅れ、多くの住民が故郷を去らなければなりませんでした。代替地への移転が始まっている今、なお安全の確認がされていないとすれば、代替地を前提とした現地での生活再建を目指すことは極めて困難です。
現在の法制度では、生活再建の原資となる補償金取得のために水没予定地の土地や建物を手放さなければなりません。長年、地元の方々に犠牲を強い、代替地を用意するとの約束を果たしてこなかった国は、その責任において、水没予定地における生活再建が可能となる施策を早急に実施する必要があります。
水没予定地住民の人権をないがしろにしてきた国がこれまでの過ちを認め、真の生活再建のために真摯に問題解決を図ることを求めます。
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要請書で指摘した地質の問題について、詳しい説明は別紙資料にあります。私どもでは、主に以下の点について、国土交通省が誠意をもって対応することを求めます。問題点を解説しているページを付記します。
1.1~6ページ、26~30ページ
八ッ場ダム計画を検証する際には、治水、利水の目的を検証することと同時に、ダム建設による地滑りの危険性についての検証が不可欠です。
八ッ場ダム事業においては、ダム湖予定地周辺の地滑りの危険性について、科学的に正確な検証が行われず、不十分な地滑り対策しか予定されていない。今後予定されている八ッ場ダム計画の検証においては、住民居住地、付け替え鉄道、国道、県道等の安全が現ダム計画で確保されているかどうかを検証する必要がある。
2.7~18ページ
八ッ場ダム事業では、代替地造成、道路建設などの関連事業により、大規模な地形改変が行われていますが、代替地における長期的な安全が確保されていません。現状の中で可能な限りの安全対策をとると共に、地域の防災対策を明確にする必要があります。
ア 代替地の切り土部分(付け替え国道・県道に面した法面)
粘土質に起因する地山斜面の変位、変状が進みつつある。斜面の崩落事故が相次いだため、アンカー工などの対策も実施されてきているが、酸性水による化学的な変質作用も働くため、短期的な対応に過ぎず、恒久的な対策は期待できない。
イ 代替地の盛り土造成地
地表での排水機能は、施工基準を守って施工され管理が適正であれば順調に確保されるが、地中に浸透した土中水の排水が問題である。地下部に人工的に建設した集水・排水システムの機能が経年的に低下したり、それとは別に地下部に形成される「水みち」からの土中水の流出が何らかの要因で阻害されると、地盤内に地下貯水部ができ、水圧が上がり、崩壊、地すべりの危険性が高まる。
ウ 上湯原代替地(川原湯温泉のJR新駅予定地)
山地斜面から流れ下った土砂が堆積している場所で、大規模な砂防工事が実施されているが、斜面の発達過程にあるため、崩壊による土砂流出の起きる可能性がある。
エ 全般的な防災対策
八ッ場ダム予定地は火山性の地層が広く分布しており、代替地の造成、道路建設は地形地質の条件により困難を極めている。現状の中で可能な限りの安全対策をとったとしても、災害の危険性はあるため、住民、通行者の安全確保を明確にする防災地図(ハザードマップ)の作成、避難情報広報などの付帯設備が必要である。
3.19~25ページ
川原湯地区の打越代替地では、すでに住民の移転が始まっていますが、専門家(湯浅欽史氏 元東京都立大学教授、土質力学)の分析によって宅地造成における安全性が確保されていない可能性が高いことが明らかになりました。
国土交通省八ッ場ダム工事事務所のホームページでは、「代替地の宅地防災マニュアル等指針等に基づき設計されており、十分な安全性を確保することとしています」とありますが、湯浅氏の分析結果によれば、打越代替地は現在の「宅地防災マニュアル」が求める許容安全率を満たしていない可能性が高いとみられます。現在の「宅地防災マニュアル」に基づいて、代替地の安全性を改めて検証する必要があります。
(参考)国土交通省八ッ場ダム工事事務所のホームページ
http://www.ktr.mlit.go.jp/yanba/faq/answer5_0.htm
「八ッ場ダムQ&A Q5 代替地は安全ですか?」
ア 代替地の造成が開始された後、新潟中越地震の経験を踏まえて宅地造成に関する法改正が行われ、「宅地防災マニュアル」が改定された。八ッ場ダムの代替地は現在の「宅地防災マニュアル」による検証がなされていない。
イ 国は代替地の安全確保について、委託調査で安全計算を行っているが、この報告書の内容を検討したところ、データの改竄、地下水の存在無視、広大な代替地の中で僅か2断面だけの計算など、杜撰な検証しか行われていない。
ウ 湯浅氏が改めて安定計算の試算を行ったところ、ダムあり、ダムなし、暫定法面、完成法面、いずれの場合においても、打越代替地は「宅地防災マニュアル」の許容安全率を下回ることが明らかになった。
八ッ場ダム計画では、ダム湖の水位が人工的に上下することになっており、ダムありの場合、水位の急降下時、地震時に安全率を下回る。ダムなしの場合、常時でも安全率を下回るが、地震時(中規模地震を想定)には安全率が1を下回り、極めて危険性が高いことを示唆する結果となっている。
*上記文中の学習会配布資料等を下記ページにアップしました。↓
https://yamba-net.org/wp/modules/genchi/index.php?content_id=18