●2010年6月3日 上毛新聞より転載
-八ッ場問題 路線修正期待も冷静 首相交代で地元「予断ない検証を」ー
鳩山由紀夫首相の退陣表明に八ッ場ダム中止問題で揺れる長野原町では、人事刷新で中止路線が修正されることへの期待と、「政策変更は期待できない」とする慎重な見方が交錯した。
「首相が代わることで民主党のマニフェストが変わり、ダムが実現できれば」。水没予定地の住民でつくる水没関係5地区連合対策委員会の篠原憲一事務局長は力を込めた。
前原誠司国土交通相はダム中止表明に対する地元や関係自治体の反発を受け昨年10月、八ッ場ダム事業の是非を「予断なく再検証する」と表明したものの、「中止の方向」との姿勢は崩していない。地元住民は検証が本当に「予断なく」行われるか不安を強めている。
高山欣也町長は、首相が交代することを「同じ民主党の政権ならダム政策に大差はないだろう」と冷静に受け止めながらも、「ダム検証で推進に変わる可能性はある」とし、新首相の誕生で「予断なく」検証が行われることを期待する。
水没予定地区の農業、町田文雄さん(68)は、今後、政局が混迷する可能性もあるとし「解散、総選挙でダム推進の政権ができればいい」と話した。
慎重な見方も多い。5地区連合対策委の萩原昭朗委員長(78)は「新しい政権も結局は民主政権。今後もわれわれはダム建設を訴えていく。それ以外にない」と言葉少なに語った。
一方、八ッ場ダム建設の見直しを訴えてきた「八ッ場ダムを考える1都5県議会議員の会」の関口茂樹代表世話人は、「道半ばだったが、八ッ場ダムを含め公共事業の在り方を大きく改革する方向性を示したことは意味があった」と鳩山政権を評価。次の内閣に対して「中止は民主党がマニフェストに掲げた基本路線。継承しなければおかしい」とくぎを刺す。
大沢正明知事は「これだけ混乱していると、八ッ場ダム問題に新内閣がどう取り組むか想像できない。新しい人が来ても問題を理解するまで時間がかかる。前原国土交通相とは人間関係が出来ており、出来れば変わらない方がいいと思っている」と話した。
●2010年6月3日 読売新聞群馬版より転載
-参院選へ 新戦略模索ー
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/gunma/news/20100603-OYT8T00062.htm
鳩山首相の退陣表明で
「退陣を再出発にして戦いたい」「解散総選挙を実施すべきだ」――。鳩山首相の退陣表明を受けて、参院選を控えた立候補予定者は2日、事態の急展開に新たな戦い方を模索し始めた。民主党議員は新体制に期待を寄せ、野党議員らは政権批判のトーンを強めたが、八ッ場ダム(長野原町)の地元からは、「民主党政権が倒れない限り、何も変わらない」と冷ややかな声も上がった。
■候補予定者
号外が配られ、足を止める人たち(2日午後1時37分、JR前橋駅前で) 民主党の富岡由紀夫参院議員は2日午後、電話取材に対し、「勇気ある重大な決断に敬意を表したい」と首相の退陣表明を評価。小沢幹事長の辞任についても「代表が人事を行うので当然の結果だ」と語った。
与党の強みから一転、政治とカネの問題などの逆風を受け、参院選に向けた集会や街頭演説では支持者への謝罪と説明に追われる防戦一方の日々だった富岡氏。2日の両院議員総会では、鳩山首相から、クリーンな政治など民主党の原点に立ち返ることを求められたといい、「総理の意志を受け継ぎ、初心に戻って再出発し、政策本意の民主党を強調していきたい」と、巻き返しを図る構えだ。
自民党の中曽根弘文元外相は、退陣表明を受けて「予想されていたので驚かないが、このタイミングは明らかに選挙目当て。国政を混乱させ、国際社会の信用を失った責任は非常に大きく、解散総選挙で国民の信を問うべき」とのコメントを出した。2日は、予定通り太田市や大泉町など東毛地区を中心に企業や支援者回りに専念した。
留守を預かる事務所には時折、「参院選は予定通りあるのか」という問い合わせの電話があった程度。「選挙戦術に大きな変更はない」(事務所関係者)として、今後も、あいさつ回りなど地道な活動を続ける。
共産党の店橋世津子氏は、退陣表明を受け、急きょ午後2時からJR前橋駅北口で街頭演説を行った。「数々の公約を公約ではなかったかのような言い逃れを繰り返し、国民の思いを踏みにじってきた。辞任をすれば済む問題ではない」。普段にも増して、民主党攻撃を強めた。
■民主党
鳩山首相の決断に対する民主党議員の評価は割れた。
県連会長代行の中島政希衆院議員は「政権交代の成果を失わないための大局的判断」と首相を擁護。「支持率は多少は好転すると思うが、参院選は厳しい状況が続く」と語り、新代表について「菅副総理の昇格がベスト。国会会期中なので、法案審議に影響がないようにするべきだ」と主張した。
宮崎岳志衆院議員は「任期途中の退陣は残念だが、政権交代を果たした歴史的功績は残る」と首相をかばったが、新代表選に向けて、「内閣も全員やめるべき」と人事の刷新を切望。柿沼正明衆院議員も「新代表の下、体制を一新して参院選に臨んでほしい」と語った。
一方、県連幹事長の久保田務県議は「今辞めるべきではなかった。野党時代、民主党は看板の掛け替えを批判してきた。参院選は鳩山首相、小沢幹事長の2人で戦ってほしかった」と退陣に否定的で、「新代表は、清新なイメージで実行力、決断力がある前原国土交通相がふさわしい」と話した。
■野 党
野党からは厳しい意見が相次いだ。
山本一太参院議員(自民)は「自民党でころころ首相が替わったと非難しておきながら、無責任で筋が通らない」と非難し、「衆参同日選で国民の信を問うべき」と興奮気味に語った。
小渕優子衆院議員(自民)は「普天間問題に職をかけていたわけで、当たり前の結論だ」と指摘。中曽根氏の選対本部長として、「どんな総理が誕生するかにもよるが、必ず勝てる態勢を整えたい」と気を引き締めた。
加藤修一参院議員(公明)は「表紙を替えるだけでは駄目。母親からの提供資金の使途を明らかにし、説明責任を果たすべきだ」と語った。直前まで与党だった社民党県連の土屋富久代表は「日米共同声明を出す前に辞めるべきだった。そうすれば、社民党も連立政権の中で、(米軍普天間飛行場の)県外、国外移設を求めて一緒に努力できた」と悔しそうに話した。
■知事、八ッ場
大沢知事は「退陣表明はやむを得ない。総理の発言に国民が信頼感を失ったのは不幸なこと。1日も早く新しいスタートを切ったほうがいい」と感想を述べ、鳩山政権の8か月間余りについては「八ッ場ダムなど、地方主権と言いながら地方の声を聞かず、一方的に国で決めてきたものが多々あった」と総括。民主党新代表に前原国土交通相を推す声があることに対し、「いいね」と好意的に受け止めながらも、「新大臣になれば、人間関係を作るまで時間がかかる。替わらないほうがいい」と続投を望んだ。
一方、長野原町の高山欣也町長は「首相が替わっても、民主党である以上、八ッ場ダムには直接関係がないだろうから、特段のコメントはない」と冷めた見方を示し、「マニフェストも半分ぐらい守られていないので、八ッ場もやがて推進に変わると期待している」と皮肉った。後任については「どなたでも期待はしていない。ただ、内閣が替わったら、次の国交相は前原さん以外がいい」と語った。
●2010年6月3日 東京新聞群馬版より転載
-八ッ場住民ら 『何も変わらず』ー
http://www.tokyo-np.co.jp/article/gunma/20100603/CK2010060302000068.html
鳩山政権の誕生直後から、八ッ場ダムの建設中止問題に揺れ続けている長野原町。辞任表明に、建設推進を求めている住民や町関係者は「総理が代わっても何も変わらない」と冷ややかに受け止めた。高山欣也町長は「鳩山政権には振り回され続けてきたが、前原誠司国土交通相が以前よりも多少は地元の意見を聞く耳を持つようになってきていたので、夏には出る見込みのダム検証の結果に期待していた」と話した上で、「それだけに現在の内閣で、ダム問題への対応を続けてほしかった」と複雑な胸中をのぞかせた。
水没が予定されていた地区の住民で組織する「八ッ場ダム水没関係五地区連合対策委員会」の萩原昭朗委員長は「鳩山さんが辞任しても、民主党がダム建設中止という考え方を変えなければ同じ。地元には何の関係もない」と淡々と語った。
一方、同ダムの建設中止を求める市民団体「八ッ場あしたの会」の渡辺洋子事務局長は「地元住民が建設反対から賛成に転じた過去の経緯など、八ッ場の問題は複雑な要素を多く抱えている。次の政権では、専門の政策チームを発足させるなどして、全面解決のために相当な覚悟で臨んでほしい」と要望した。 (山岸隆、中根政人)
●2010年6月4日 日本経済新聞より転載
http://www.nikkei.com/news/category/article/g=96958A9C9381949EE2E6E2E1888DE2E6E2E4E0E2E3E2E2E2E2E2E2E2;at=ALL
-前原国交相、八ツ場ダム「一朝一夕で解決できるものではない」ー
前原誠司国土交通相は4日午前の閣議後記者会見で、群馬県の八ツ場ダムの問題について「現場の方々には何の罪もなく、申し訳なく思っている。ただ、57年間かけてやろうとしてできなかったことを、方向転換して8カ月半で解決できるものではない」と述べた。その上で、「なぜ中止にしたのかという方向性は明確で、今までのような河川計画ではいくらお金と時間があっても足りない。一朝一夕でできるものではない」と強調した。
沖縄の米軍普天間基地移設問題については「日米合意を着実に実行していくことが沖縄県民の負担軽減につながる。引き続き沖縄の振興や経済発展をどうやっていくのか、基地問題とは別に考えていかなければならない」と述べた。〔NQN〕
●2010年6月5日 朝日新聞社会面より一部転載
ー「菅さん、聞く耳を 揺れる政策の現場」
八ッ場ダムの建設中止問題に揺れる群馬県長野原町。
「地元の事情を知る菅氏なら話が前に進むのではないか」。水没関係5地区
連合対策委員会の事務局長、篠原憲一さん(68)は語る。菅氏は2004年11月、現地を視察。地元は地域コミュニティーが崩壊している現状を訴えた。「政府から中止以外の声が出てくるかもしれない。新首相は、もっと議論して欲しい」
一方、川原湯地区の牛乳製造販売業、豊田武夫さん(58)は、本体工事が止まってもほかの関連工事が進んでいる現状に不満だ。「早く水没を前提としない計画に切り替えてほしい」と話した。
*新首相となる菅直人氏が八ッ場ダム予定地を訪ねた2004年当時の記事を参考までに転載します。
●2004年11月24日 毎日新聞群馬版
-八ッ場ダム 菅氏ら8人現地視察 民主党国会議員 町長や住民と意見交換ー
長野原町に建設予定の八ッ場ダムについて、菅直人・民主党前代表ら同党国会議員8人が23日、同町を現地視察に訪れ、田村守・同町長や地域住民と意見交換した。
今月同党で発足した『八ッ場ダム検証プロジェクトチーム』による初の視察。同党の「次の内閣」で国土交通を担当する菅前代表と環境を担当する佐藤謙一郎衆院議員、同チームのメンバーや富岡由紀夫参院議員らが参加した。
意見交換で田村町長は、建設構想から50年以上になる歴史や、治水、利水の面から建設の必要性を説明。一方で代替地の分譲が遅れているため住民の地区外移転が進んでいることなどを挙げ、現地での生活再建の重要性を強く訴えた。終了後、菅前代表は記者団に「今の時代にそれだけのダムが必要なのか、地域の皆さんの問題と同時に水を利用する首都圏の住民の負担でもあるから、全体として判断しなければならない」と話した。【山田泰蔵】