八ッ場ダムが完成すると、東京都多摩地域などの関係自治体では、これまで水道用水として使用されてきた地下水が利根川からの水に切り替わります。ダム計画を前提として過大な水需要予測を立て、地下水切捨てを進める水行政は、大きな矛盾を孕んでいます。
以下に転載する新聞記事は、水質がよく安上がりな地下水の活用が進み、自治体は「水需要の減少」に悩んでいることを伝えています。
◆2011年1月23日 朝日新聞社会面より転載
http://www.asahi.com/national/update/0123/OSK201101230004_02.html
-地下水人気、自治体困った 病院やホテル、次々乗り換え―
地下水をくみあげて水道に利用する病院や企業などが、ここ数年、急増している。災害時の断水への備えになるとともに、コストダウンにもつながるからだ。一方で、自治体の水道事業は大きな減収となり、影響は深刻だ。
■ろか技術向上で「専用水道」
「断水しても診療に必要な水を確保でき、地域住民も利用できる。水道料金の節約にもなり、『一石三鳥』」。神戸大医学部付属病院(神戸市中央区)の担当者は言う。新年度から地下水を導入し、年間水道使用量の6割程度を切り替える。年間200万~300万円ほどの削減になる見込みだ。国立大学法人の付属病院では、東京大、大分大、山形大などが導入し、三重大も今春切り替える。
ホテルオークラ神戸(同)は2003年、地下約200メートルまで掘り下げた地下水プラントを約2億円で設置した。使用水量の約8割をまかない、年間約8千万円だった水道料金の約4割を節減した。「経済性に加え、災害時の備えという付加価値がある」と担当者。プラントを受注した東洋アクアテック(神奈川県相模原市)によると、施設は震度6強に耐えられ、災害時、地域住民に直接給水できるバルブも備える。
地下水の専用水道は、水道法の水質基準を満たして保健所に給水開始を届け出れば利用できる。地下水利用が急増している背景には、不純物をとりのぞく「膜濾過(ろか)」技術の向上があるという。
厚生労働省によると、公共水道とは別に、膜濾過による地下水の「専用水道」を導入した施設は、04年の283カ所から08年は933カ所と4年で3.3倍に増えた。
日本水道協会が08年に実施したアンケートでは、03年度以降に地下水に切り替えた大口利用者(回答676施設)の内訳は、病院(33.3%)、販売業(15.4%)、ホテル・旅館(15.1%)の順に多かった。
■料金割引や利用規制で対抗
地下水の専用水道の増加は、公共水道を運営する自治体にとって大きな打撃だ。大阪市では2010年度までに、病院など30施設が公共水道に加えて地下水の専用水道を併設したため、約7億円の減収となった。神戸市でも09年度までに少なくとも20施設が導入し、年間約4億5千万円の減収となった。
ただ、公共水道の料金制度にも課題はある。水道事業者の約3分の2は、使用量が多いほど単価が高くなる料金制度。使用量が増えるとダム建設などの負担が生じるため、利用を抑制させる狙いだ。
こうした料金制度がもとで大口利用者に逃げられないよう、割引制度を導入する自治体もある。佐賀市や京都府長岡京市、前橋市は、一定水量までは使用料に応じて単価が高くなるが、それを超えると単価が安くなっていく仕組みに変えた。滋賀県草津市は03年に条例を改正して料金制度を変えるとともに、大口利用者が地下水を導入しようとする場合に市長が中止を指導できるようにもした。
環境省によると、地下水は土地の所有権に属する「私水」との位置づけだ。ただ、1件あたりのくみあげ水量が少なくても、件数が増えれば地盤沈下などの影響が出る可能性も指摘されている。東京都は地下水利用について、工業用水法など国の規制より厳しい規制を条例で定め、地盤沈下に対応してきた。
昨年2月に発足した超党派の国会議員連盟は、地下水を「公共水」と位置づける「水循環基本法」の原案を昨年10月にまとめた。今後、法案の上程を目指すという。
神戸市では昨年3月、学識者らの審議会が「地下水水道の設置者に適正な負担を求めることが必要」との答申をまとめた。だが、対応はこれからだ。市水道局の担当者は「公共水道を使うか使わないかは利用者の自由。法律の規制がないのに、収益が下がるから地下水を使うのをやめてくれとは言えない」と話す。(日比野容子)
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〈地下水の専用水道〉水道法では、101人以上の居住に必要な水を供給するか、1日の最大給水量が20トンを超える自家用の水道を、自治体による公共水道と区別して「専用水道」と定める。地下水だけでなく、公共水道を大型の受水槽にためる施設も含まれ、08年時点で全国に7957カ所ある。地下水の不純物を取り除くには、沈殿させて濾過する方法もあるが、近年は膜を通して濾過する方法が一般的。公共水道との併用がほとんど。