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槇尾川ダム中止の理由(大阪府知事のメッセージ)

 大阪府の橋下知事が槇尾川ダム中止を決断したことはマスコミでも取り上げられました。このような政策決定をした理由について、大阪府のホームページに知事メッセージが掲げられています。
 大阪府では、槇尾川ダム建設が最も治水上効果があり、事業費も河川改修などより安く済むと、ダム計画を推進する力が強かったものの、それらの科学的な根拠が希薄であり、御用学者以外の有識者から問題の指摘が多々あり、利権構造を維持するためのダム事業を批判する府民の世論が橋下知事の決断を後押ししました。東京都知事選が迫っていますが、少なくともダム行政に関しては、関東は関西よりはるかに遅れています。
 橋下知事のメッセージは、ダムが流域住民の生命を守る、というこれまでの行政の公式見解に本質的な疑問を投げかけるものです。
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〇大阪府ホームページより 平成22年度第23回大阪府戦略本部会議 議事概要
http://www.pref.osaka.lg.jp/kikaku/senryaku/222301giji.html

槇尾川の治水対策について(私の判断)

橋下知事のメッセージ
1 これまでの経緯

(1) ダム本体工事休止
 ・槇尾川ダムについては、平成20年6月の財政再建プログラム案において、府の財政状況に鑑みて一旦本体着工を見送り、21年5月、議会の議決を経て工事契約を締結、21年9月の現地着工に至りました。しかし、民主党政権がスタートし、環境への影響を含め「できるだけダムにたよらない治水」への政策転換、八ツ場ダムの建設中止などの方針が示される中、今後の治水対策のあり方として、現実の治水の安全レベルをどのように確保すべきか、ダム以外の手法はとり得ないか、私なりに改めて考えを巡らせました。そして、「やはり、一旦休止し、再考しよう」と思い至り、22年2月にダム本体関係工事を休止させました。

(2) 大阪府河川整備委員会
 ・ただし、治水対策は、府民の生命・財産の安全に直結するため、一足飛びの政治判断ではなく、専門家による十分な検証と議論が必要と考え、建設事業評価委員会や有識者会議、そして、河川整備委員会でご議論いただき、私自身もその場に加わってきました。
 ・従来の府の治水対策は、府域すべての河川で「時間雨量80ミリ程度」へ対応することを治水目標と設定し、治水施設の整備を進めてきました。これには全体の完成まで多大な費用(1兆400億円)と長い期間(約50年)を要します。このままで本当に府民の安全を現実のものにできるのか、河川整備委員会で専門的見地から議論していただいた結果、22年6月、「今後の治水対策の進め方」をとりまとめることができました。

(3) 府の治水対策の転換
 ・その肝は、これからは、財政制約の下、限られた時間で実施可能な治水対策を講じ、多くの府民がその効果を実感できることが重要だということです。そのため、近年集中豪雨が頻発している状況にも鑑み、「様々な降雨により想定される河川氾濫・浸水の危険性から、人命を守ることを最優先する」ことを基本理念に、地先の危険度を評価しています。そして、「時間雨量50ミリ」での床下浸水、少なくとも「時間雨量65ミリ」での床上浸水を発生させないことを前提に、河川毎に当面の治水目標を設定した上で、総合的・効果的な治水対策を講じることとしました。これにより、「床下浸水」までは受忍の範囲として府民の皆さんにご理解をお願いすることになりますが、治水効果の出現は20~30年のスパンに早めることができます。まさに、府の治水対策の大転換です。

(4) 槇尾川の治水対策への適用
 ・槇尾川は、従来、将来の治水目標は「時間雨量80ミリ」対応、当面の目標は「時間雨量50ミリ」対応としていました。河川整備委員会において、治水対策の新たな方針を槇尾川に適用した結果、将来の「時間雨量80ミリ」対応を放棄したわけではありませんが、今後20~30年の目標としては「時間雨量65ミリ」対応に設定し、治水施設は「時間雨量65ミリ」で「床上浸水以上」が発生しないよう整備を進めることが妥当とされました。
 ・そして、その治水手法については、河川改修案(「河川改修+局所改修」)とダム案(「河川改修+ダム」)の2案に絞り込んでいただきました。しかし、両案とも「時間雨量65ミリ」で「床上浸水以上」が発生しないという当面の治水目標を達成できることから、治水効果面ではほぼ同程度、事業費面は河川改修案が低いことが検証されたものの、同委員会としては、どちらかの手法を選択するという判断にまでは至りませんでした。

2 私の判断

(1) 判断の前提
 ・行政や専門家による検討の結果は、「府の治水対策を大転換すること」「その方針を槇尾川にも適用すること」、そして、槇尾川の治水手法としては、「河川改修案とダム案は、治水効果面で、いわば“五分と五分”」ということでした。これが、今回の私の判断の前提です。

(2) “真に水害に強いまち”
 ・私はこの間、現地の状況について、幾度となく図面や写真で確認し、専門家の報告を収集し、自分なりに精査を重ねてきました。いよいよ最終局面を迎え、去る1月28日、改めて現場を歩きました。極端に曲がりくねり、部分的に切り立った崖のような護岸のある上流部で、川に張り付くように建ち並ぶ家屋。これらをつぶさに見て、私は、「このまちの状況を放置したままではダメだ。ダムをつくって水を止めるというやり方だけでは、いつまでたっても住民の安全への不安は消えない。やはり、ダムに頼るのではなく、“真に水害に強いまち”として、次の世代に引き継いでもらいたい」と確信するに至りました。
 ・そのためには、「治水の王道は河川改修である」という原点に立ち返ります。まちの状況に応じて、可能な限り河川の拡幅を行い、河川直近の家屋には、セットバックしてもらい河川から遠ざける。地形に応じて河床掘削による局所的な改修を行う。様々な降雨パターンに対応して、雨による増水量を円滑に流すことができるよう、河川の流下能力そのものを上げ、治水施設の維持管理を適切に行う。実際の河川の状況や地先の危険度に応じてきめ細かく危険を回避する手立てを講じていく。さらには、日頃から、いざというときの避難ルートや体制を確立しておく。これが、確実に住民の安全の向上につながります。まさに、“真に水害に強いまち”。
 ・ただし、私は、単純な「脱ダム派」でも、「環境保護絶対主義者」でもありません。治水工学上の計画高水の考え方とそれに基づく治水対策を尊重します。もちろん、今回、河川整備委員会で議論された河川改修案とダム案も、計画高水の考え方に基づくものです。そして、その中では、「ダムは、想定された降雨量、降雨域、降雨時間の中であれば、安全性は十分に確保されるが、流域全体で降雨が長時間続く場合などにはリスクがある」「河川改修では、時間当たり大きな雨を流せない」等々、のべ25時間にも及ぶ喧々諤々の議論が行われました。そして、そこでの結論は出されず、両案は治水効果面で、いわば“五分と五分”。言い換えると、治水工学上はどちらを選択しても合理的だということになります。
 ・そうであるならば、これは、計画高水を越えるケース、数値化されないリスクに対してどう対応するかということです。“真に水害に強いまち”を次世代に引き継ぐために、河川工学上の計画高水の考え方を基本としながらも、それだけにとどまらず、それぞれのまちの状況に応じて何をすべきかを総合的に判断しなければなりません。これは、治水の専門家の領域を越え、政治家としての知事の責任の範疇にあります。
 ・ただし、白紙の状態ではなく、すでにダム本体工事に着工している中での方針変更です。ダム建設を推進してきた立場からは、「なぜ今さら」ということになります。また、“五分と五分”という前提なら、これまでの経過やこれからの工事期間を考えると、ダム案を選択するという判断もあり得ます。
 ・私は、コストや時間効率を越えて、あくまでも、「今の住民、次の世代の住民にとって、より安心していただける手法はどちらか」を判断の拠り所としています。机上の一般論ではなく、前述のとおり、このまちの状況を見て、「ダムで水を遮断するだけではダメだ。“真に水害に強いまち”になるためには、まちのかたちそのものを変えなければならない」と実感し、「ダムに頼らない河川改修」を選択することとしました。政治家として悩み抜いた末、決断しました。

3 法的リスク

・府の顧問弁護士からは、今回の私の判断には、多くの法的リスクが伴うものであることが指摘されています。その主なものに対する私の見解は次のとおりです。
(1) 治水手法の変更の合理性
 ・前述した府の治水対策の転換は、河川管理者である大阪府に委ねられた裁量の範囲内であり、河川整備委員会での議論というプロセスを経たものである。槇尾川についても、この方針に従って、当面の治水目標を「時間雨量65ミリ」対応へと水準を設定した。
 ・槇尾川の治水手法については、大阪府河川整備委員会では、ダムか河川改修かの2案に絞り込まれ、「治水効果面ではほぼ同等」という評価まで行われた。今回の私の判断は、こうした専門家による評価を踏まえ、上記のような理由で「河川改修」を選択したものである
 ・なお、すでにダム本体工事着工の中での変更であるため、行政の継続性の観点から、正当性・合理性がより厳しく問われる。だからこそ、この間、府の治水対策の方針転換と槇尾川への適用というプロセスをきちんと踏み、私自身、可能な限り専門家の意見を聴取し、現場に何度も足を運んで住民の皆さんと話し合い、悩みながらも治水対策のあるべき姿を真摯に追求してきた。
 ・このプロセスを経て得られた今回の治水手法の変更の判断は、それ自体、適正な手続きに則った「合理的な政策選択」であり、次の世代も含め多くの府民に支持されると確信している。

(2) 訴訟リスク
 ・今回の治水手法の変更に伴い、一連の判断変更に伴う経費の支出に対する違法性、さらには、工事期間中に水害が発生した場合の国家賠償責任などを問うための訴訟が提起されることが予想される。しかし、私は、以上述べたように、今回の治水手法の変更は、「合理的な政策選択」を基本に据えた判断であると確信している。仮に訴訟提起があった場合でも、司法には、こうした考えを踏まえた大所高所からの判断を期待する。

4 今後の対応

 ・地元住民の皆さんには、まずは、判断に多くの時間を要したこと、そしてその結果、これまでの経緯や積み重ねとは異なる、大きな政策変更をお願いすることについて、心からお詫びを申し上げます。そのうえで、ぜひとも、“真に水害に強いまち” をつくっていくことの大切さをご理解いただくようお願い申し上げます。
 ・このまちの今の状況では、水の流れを一時的に遮断するダムだけをつくっても、決して安心はできません。川と正面から向き合い、川の危険個所にひとつひとつ丁寧に対応していきます。ソフト面も含めた総合的な治水対策を速やかに講じます。府と地元市、地元住民の皆さんが連携して、“真に水害に強いまち”をめざします。槇尾川には、溢水による被害を低減させるため、古来先人が叡智を施してきた足跡が随所にみられるという専門家の指摘もあります。後世に引き継ぐ“まちのすがた“を決めるのは、今を生きる世代の責任です。私は、これこそが、次の世代、そのまた次の世代に引き継ぐことができる、このまちの安全への王道だと確信しています。地元住民の皆さんが理解し受け入れていただくことを切に願います。
 ・大阪府河川整備委員会には、まずは、私の今回の判断を報告させていただき、改めて、河川改修による事業評価の検証をお願いしたい。府議会には、一昨年の5月定例府議会で一旦ご議決をいただいたダム本体工事を中止させていただくことになります。この2月定例府議会では、改めて、今回の私の判断をご説明申し上げ、槇尾川ダム中止に必要な経費と河川改修に踏み出すための経費を予算案として提出させていただきます。私の意のあるところをご理解いただき、ぜひともご議決を賜りたいと存じます。