八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

八ッ場ダムの検証はどうなっているのか?

2011年5月4日

 2009年の総選挙で「八ッ場ダム中止」をマニフェストに掲げた民主党は、政権奪取後、八ッ場ダム事業の検証を改めて行い、2011年秋までに本体工事に着工するかどうかの結論を出すことになりました。わが国のダム計画の象徴的な存在となっている八ッ場ダム事業の検証は、全国のダム事業に及ぼす影響が大きいだけに注目されています。
 しかし、以下の記事にもあるように、東日本大震災の影響もあるのか、検証作業は不透明な状況にあります。

◆ 2011年4月9日 東京新聞群馬版より転載
http://www.tokyo-np.co.jp/article/gunma/20110409/CK2011040902000094.html
―八ッ場ダム再検証 本会議開催めど立たず 6都県など事務レベル 大震災対応を優先-

 八ッ場(やんば)ダム(長野原町)の是非を再検証する機関として国が設置した「検討の場」のうち、検証主体の国土交通省関東地方整備局とダム流域六都県の知事などが協議を行う本会議の開催のめどが立っていないことが分かった。同整備局と六都県が事務レベルで話し合う検討の場の幹事会についても、東日本大震災の対策業務が国交省内で優先される中、次回日程が未定のままとなっている。 (中根政人)

 検討の場は、同整備局が再検証作業の経過を報告し、各都県から意見を聴く目的で発足。設置された協議組織のうち、各都県の部局長級が出席する幹事会は、昨年十月から今年二月までに計四回開催されている。
 だが、ダム流域の知事や市町長などが参加して議論するとされた本会議は、昨年十月からの半年間で一度も開かれていない。八ッ場ダム建設の是非を国が判断する上で、ダム事業に参画する六都県の知事から再検証の内容評価を聴く作業は不可欠だ。
 幹事会で、同整備局は「現状のダム建設案と代替案を比較検討して、建設の是非に関する結論を出す」とする検証の手法を説明したのみ。利根川流域の実情を踏まえたダム以外の具体的な治水・利水案は提示していない。
 本会議を開催しない理由について、同整備局は「検証作業の初期段階は、事務レベルの幹事会の開催が妥当との認識を、各都県との間で共有しているため」と説明。震災がダム再検証に与える影響には「あくまで別個の問題。今秋をめどに検証を完了するという目標は変わっていない」と強調している。

 ~転載終わり~

 根深い利権構造が横たわるダム計画の見直しには多くのハードルがあります。福島原発事故の発生により、利権を守る「原子力村」の存在がクローズアップされていますが、ダムにおいても状況は驚くほど似通っています。
 八ッ場ダム事業の検証の中で、事業の主目的である「治水」の検証は、馬淵国交大臣(2010年9月17日~2011年1月14日)の指示により、現在、日本学術会議による議論が重ねられています。八ッ場ダムの建設根拠である「治水」に関する数値は、これまで国土交通省河川局によって密室で決定され、いわゆる御用学者がお墨付きを与えてきた経緯があります。
 政権交代後、こうした状況に風穴を開けたのが東京新聞「特報部」の記事でした。同紙は、八ッ場ダムにおける「治水」の建設根拠に疑問を投げかける専門家らの指摘を継続して取り上げ、前原国交大臣(2009年9月16日~2010年9月17日)が諮問した有識者会議においてこの問題がクローズアップされるきっかけとなりました。これを受けた河野太郎衆院議員(自民党)が昨秋、国会で追及した結果、馬淵大臣が改めて科学的検証を日本学術会議に委ねる決定を下しました。
 その後、自民党による不信任決議により馬淵前大臣は更迭となりましたが、大臣交代の当日(2011年1月14日)、国交省河川局長は日本学術会議への依頼文を公表することとなりました。この依頼文は、「治水」における検証そのものは国交省自らが行うとした上で、「学術的な観点からの評価をいただくことが重要」としています。はたして日本学術会議による検証は、期待されるように科学的中立性、透明性を確保したものとなるのか、また仮にそのようにして検証結果が導き出された場合、検証主体の国交省河川局がどのように対処するのか、いまだ未知数の部分が少なくありませんが、5月末には日本学術会議としての方針がまとまる予定で、早くも議論は大詰めを迎えています。
 日本学術会議の会議は公開されており、7回目の会議が今月5月11日に開催される予定です。

 日本学術会議 土木工学・建築学委員会 河川流出モデル・基本高水評価検討等分科会(第21 期・第7 回)
http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/bunya/doboku/pdf/kihontakamizu-sidai21-07.pdf

1.日時 平成23 年5 月11 日(水)14:00~17:00

2.場所 日本学術会議6階 6-C会議室

 日本学術会議のサイトには、これまでの議事要旨や配布資料などの情報が掲載されています。

http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/bunya/doboku/giji-kihontakamizu.html

 3月29日の第四回会議では、専門家からのヒアリングが行われました。招致された4人の専門家には、これまで八ッ場ダムの「治水」効果を疑問視してきた大熊孝氏、関良基氏らも含まれていました。専門家らの資料(パワーポイント)も日本学術会議の以下のページからご覧になれます。

http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/bunya/doboku/takamizu/haifusiryou04.html

 東京新聞はこの間の検証過程を以下のように報じています。

◆ 2011年4月3日 東京新聞「こちら特報部」より転載

―「八ッ場」建設根拠 利根川最大流量 保水力引き上げ再計算へ― 
 
 八ッ場ダム(群馬県長野原町)建設根拠となってきた利根川の最大流量(基本高水)について、国土交通省が土壌の保水力を示す係数を大幅に引き上げて再計算する方針であることが分かった。保水力を上げれば、一般的に基本高水は小さくなる。ただ計算するのはダム建設を推進してきた同省側だけに、専門家による監視・点検が不可欠だ。(篠ケ瀬祐司)

 三月二十八日に開かれた日本学術会議の「河川流出モデル・基本高水評価検討等分科会」。ここで示された国交省の基本高水再計算のための新モデル(計算式)案では、利根川上流部の「飽和雨量」(土壌の保水力を示す係数)は一三〇~二〇〇㍉に設定されていた。
 これは従来の飽和雨量と比べ、約三~四倍の値だ。同省の「八斗島上流の流域定数表」によると、同省はこれまで約五千平方㌔㍍の上流部を五十四流域に分け、全流域で飽和雨量を四八㍉としてきた。
 「こちら特報部」は昨年一月から「四八㍉」は小さすぎると指摘してきた。利根川上流部には森林が広がる。森林の飽和雨量は通常一〇〇~一五〇㍉。四八㍉は水田並みだ。都市化が進んだとしても、一律に四八㍉とするのは不自然だ。
 飽和雨量が小さければ、ただちに川に流れる水量が増える。「ダム建設ありき」で保水力を小さく設定し、過大な基本高水をはじき出してきたのではないか。そんな指摘が専門家や市民団体から絶えなかった。
国交相だった馬淵澄夫氏も昨年十一月に「飽和雨量などが適切だったか、十分な検証が行われていなかった」と明言。基本高水の再計算を同省に指示し、日本学術会議が、新しい計算式が正しいか評価することになった。
 同省が示した新たな飽和雨量などについて、同分科会の小池俊雄委員長(東大教授・水文学)ら、専門家メンバーから異論は出なかったことから、従来の約三倍以上の飽和雨量を使って基本高水が再計算されることになる。
 ただ、気掛かりは残る。計算主体が国交省だからだ。
 同省は今年一月、関係自治体でつくる八ッ場ダム検証の「検討の場」に、「従来の計算式で飽和雨量を四八㍉から一二五㍉にしても、基本高水は約3%しか減らなかった」との「中間報告」を提出した。
 拓殖大学の関良基准教授(森林政策)の計算では、9%減少するとの結果が出ているが、国交省が詳しい分析に必要な資料を非公開にしており、なぜ減少幅に違いが出るのか不明のままだ。
 また同省は「中間報告」で突然、上流部の地質ごとの面積などを出してきた。これは基本高水の決定にかかわった同省社会資本整備審議会などにも出さなかった資料だ。
 これからも“後出しじゃんけん”のように非公開資料を小出しにしながら「大きな飽和雨量を使って再計算しても、基本高水はわずかしか下がらなかった」との結果を出してくる可能性がある。
 四月一日の同分科会では、今月末までに新たな計算式の妥当性を判断することが確認された。その過程では、国交省のモデルや計算結果を追認するのではなく、分科会メンバー自ら基本高水を計算するという、積極的な検証作業が期待される。

【利根川の基本高水】国土交通省は1980年の「利根川水系工事実施基本計画」で、47年のカスリーン台風並みの雨(3日間で319㍉)が降った場合、治水基準点の八斗(やった)島(群馬県伊勢崎市)に最大毎秒2万2000立法㍍の水が流れると試算。これを前提に二〇〇六年策定の「利根川水系河川整備基本方針」で、八ッ場ダムを含む上流ダム群などで毎秒5000立方㍍を調整すると説明してきた。

◆2011年4月27日 東京新聞群馬版より転載
http://www.tokyo-np.co.jp/article/gunma/20110427/CK2011042702000072.html

 ―八ッ場ダム建設根拠の数値 有識者会議も再計算へ―

 八ッ場(やんば)ダム建設の根拠となっている利根川の最大流量(基本高水)を検証する有識者会議が二十六日、東京都内で開かれた。会議委員長の小池俊雄東大教授は、焦点となっている一九四七年のカスリーン台風並みの雨が降った場合の最大流量について「ダム建設主体の国土交通省とともに、有識者会議でも新たな計算モデルでデータを再計算し、両者の内容を比較検討する」との考えを示した。 (中根政人)

 国交省は従来、利根川上流部の飽和雨量(土壌の保水力を示す指標値)を四八ミリと設定してきた。だが、三月二十八日に行われた有識者会議で、基本高水計算の新たなモデルを提示。四八ミリの数値設定が「森林の保水力を考慮せず、ダム建設ありきの過小な数字だ」との批判を受けた中で、飽和雨量を約三~四倍の一三〇~二〇〇ミリに引き上げた。
 カスリーン台風並みの降雨を想定した場合、利根川の治水基準点となっている伊勢崎市八斗(やった)島の最大流量は、従来の計算で毎秒二万二千立方メートルとされており、再計算の結果によってはダム建設の根拠が揺らぐ可能性もある。
 基本高水の検証について、有識者会議は五月末ごろを目標に内容評価をまとめる方針。

 ~転載終わり~

 日本学術会議の会議を継続して取材しているジャーナリストのまさのあつこさんは、ブログ上でリアルなレポートを精力的に発信しています。学者らの良心が試される状況が続く中、何がポイントとなっているかがわかり易く書かれています。

★まさのさんのブログ『ダム日記』

・3月29日 机上の計算委員会(結論の一つ)
http://dam-diary2.cocolog-nifty.com/blog/2011/03/post-7e60.html

・4月1日 基本高水の計算手法を変える説明はまだ
http://dam-diary2.cocolog-nifty.com/blog/2011/04/post-8015.html

・4月2日 流量解析ソフト Common MP というブラックボックス
http://dam-diary2.cocolog-nifty.com/blog/2011/04/post-a07c.html

・4月7日 Common MP の続き
http://dam-diary2.cocolog-nifty.com/blog/2011/04/common-mp-a1fe.html

・4月7日 基本高水の無謬と誤謬
http://dam-diary2.cocolog-nifty.com/blog/2011/04/post-7e53.htm

・4月23日 コメントの共有
http://dam-diary2.cocolog-nifty.com/blog/2011/04/post-0593.html

・4月27日 「公開」という民主主義のインフラ
l http://dam-diary2.cocolog-nifty.com/blog/2011/04/post-7145.html

・4月27日 疑惑データ未提出で、机上論続行
http://dam-diary2.cocolog-nifty.com/blog/2011/04/post-2bda.html

 また、森林政策学の専門家として、日本学術会議のヒアリングを受けた関良基拓殖大准教授もブログで問題の論点を伝えています。

★ 関良基さんのブログ「代替案のための弁証法的空間」より

・4月8日 【日本学術会議への提出資料】基本高水の再計算にあたっていくつかの要望事項
http://blog.goo.ne.jp/reforestation/e/275fd19a8cf0d1f8c49dc83360348a7b
(日本学術会議のサイトには掲載されていない3月29日のヒアリングの際の配布文書も掲載されています。)

・5月1日 河川技術者を更正させる最後のチャンス? 学術会議の議論いよいよ大詰め
http://blog.goo.ne.jp/reforestation/e/275fd19a8cf0d1f8c49dc83360348a7b