八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

「八ッ場ダム事業の工期と事業費についての公開質問書」への国交省の回答

2011年5月2日

 八ッ場あしたの会が2月に提出した公開質問書に対して、国交省から回答がファックスで送られてきましたので、この回答についての当会の見解をお知らせします。

 2月に提出した公開質問書全文は、以下に掲載しています。
 https://yamba-net.org/wp/modules/news/index.php?page=article&storyid=1156

 この公開質問書は、国土交通省関東地方整備局が八ッ場ダム事業の検証にあたり、関係地方公共団体からなる検討の場の第三回幹事会(2011年1月14日開催)において配布した資料に基づいて質問したものです。
 国土交通省関東地方整備局は配布資料の中で、八ッ場ダム事業をこのまま継続してダム本体工事に着工した場合、現在の八ッ場ダム計画における工期(八ッ場ダムの完成予定年度)と事業費が変更される可能性を示唆しました。
 公開質問のもとになった国土交通省関東地方整備局の配布資料は、同整備局のホームページに掲載されています。
 ↓
http://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000018897.pdf
 国土交通省関東地方整備局 八ッ場ダム建設事業の関係地方公共団体からなる検討の場 第三回幹事会(平成23年1月14日開催)配付資料より
 資料-1 八ッ場ダムの検証にかかる工期及び総事業費の点検の考え方(案)

 国土交通省関東地方整備局による今回の回答によって、八ッ場ダムの本体工事に着工する場合、工期の更なる延長、事業費の更なる増額は不可避であり、八ッ場ダム計画は一層混沌とした状況になることが確実な情勢であることが明らかになりました。
 本日、群馬県庁記者クラブにおいて公表した当会の見解は以下の通りです。
 (当会の見解の後に、国土交通省関東地方整備局の回答を転載します。)

 2011年5月2日

 「八ッ場ダム事業の工期と事業費についての公開質問書」への国土交通省関東地方整備局の回答について

 八ッ場あしたの会 (代表世話人 野田知佑ほか)

 去る2月8日に提出した「八ッ場ダム事業の工期と事業費についての公開質問書」に対して別紙のとおり、4月26日に国土交通省関東地方整備局から回答がありました。

 この回答についての当会のコメントは次のとおりです。

1 八ッ場ダム事業を仮に継続した場合の完成時期について

(1) 完成時期の見通しについて
 国土交通省関東地方整備局の回答では、検討の場で示した工期と事業費は「現在保有している技術情報等の範囲内で、今後の事業の方向性に関する判断とは一切関わりなく、現在の事業計画を点検したものです。」と述べ、明言を避けていますが、事業を再開しても完成時期が2018(平成30)年度末へと、3年遅れになることは下記のとおり、すでに大畠国交大臣が国会で答弁していることです。

 衆議院予算委員会 平成23年2月4日の会議録
 「○大畠国務大臣 仮定の話でございますが、もしも建設を進める、こういう判断になった場合には、平成三十年ぐらいをめどにダムを建設するように進めていきたい、こういう事務方の話を聞いております。」

 八ッ場ダムの完成時期と事業費を遵守するという約束のもとに、関係都県が同意して基本計画の変更がされてきている経過を踏まえれば、検証の結果、仮に事業を継続することになっても、工期が2018年度末へと、3年遅れになることはその約束を反故にするものですから、関係都県の同意を得ることは容易ではありません。その点でも八ッ場ダム事業は先の見通しがつかない様相を呈してきていることは明らかです。

(2) 完成時期の遅れの本当の理由について
 検証の結果、仮に事業を継続することになっても、工期が2018年度末にずれこむことは不可避ですが、公開質問書では工期遅れの本当の理由を確認するための質問を行いました。
 八ッ場ダムはダムサイト予定地を現鉄道と現国道が通っているため、ダム本体の本格的な掘削工事を始める前にそれらを廃止する必要があり、その前に付替鉄道と付替国道を完成させる必要があります。ところが、これらは政権交代後も従前どおりに工事が行われてきたにもかかわらず、工事が大幅に遅れており、いまだに完成していません。したがって、政権交代がなくても、付替鉄道等の遅れで八ッ場ダムの2015年度末完成はもともと無理な情勢にありました。
 この点に関して、国土交通省の回答から言えることは次のとおりです。

① 付替国道
 回答「残る未聞通区間である東吾妻町の「雁ヶ沢」より東側約1. 4 km(群馬県施工)は、JR吾妻線に仮設の踏切を設置して、本年秋の開通を目指して関係機関と調整をしているところであると群馬県から聞いています。」 

 踏切がある状態では、現国道に代わる付替国道になるかどうか疑問ですが、仮に代わりになったとしても、当初の完成予定からは約1年の遅れです。

② 付替鉄道
 回答「現在のところ付替鉄道工事については、一部、用地取得の難航により、工程が遅延している状況ですが、引き続き、一刻も早い完成に向け、地権者の方にご理解頂けるよう努力して参ります。」

 今なお用地取得が難航しているため、その取得終了の見通しが示されませんでした。第3回「検討の場」の資料(別紙)では、付替鉄道の終了は事業再開27カ月後で、当初の完成予定2010年度末から約3年の遅れになりますが、その程度の遅れにとどまるかどうかも明らかにされませんでした。

③ 関連工事と本体工事との関係について
 回答「本体工事については、付替道路や用地補償が完了しなければ着工できないものではありません。」

 理由を説明することなく、関連工事の遅れは本体工事の着工には影響しないような書き方になっていますが、付替鉄道との関係は否定していません。「検討の場」の資料(別紙)には、付替鉄道について「天端以下掘削(左岸)開始までに付替完了」と明記されていますので、少なくとも、付替鉄道が本体工事に影響することは認めています。

 したがって、政権交代による八ッ場ダム中止方針がなくても、付替鉄道の遅れにより、本体工事が遅れることは必至でした。そして、付替鉄道の完成時期が用地取得の難航でいまだに明らかにされないのですから、3年より更に遅れ、それに伴って、仮に事業を継続することになっても、八ッ場ダムの工期が2018年度末より更に先にずれこむ可能性があることになります。

(3)地元住民ことっての工期遅れの問題
 仮にダム事業が継続に切り替わっても、ダム湖ができるのは今から8年以上先のことですから、ダム湖観光に期待して将来の生活設計を立てている地元の方々にとっては工期の遅れは重大な問題です。ダム湖観光の実現性には危ぶまれる点が多々ありますが、その問題をさておいても、将来の生活設計にかかわる問題なのですから、関東地方整備局は八ッ場ダムの工期が大幅に遅れる事実を地元に早く知らせる責務があります。ところが、このことについて、回答は「できるだけ早期に結論を得るよう努力する」と答えるのみで、その責務を果たそうとしていません。

2 事業費について

(1)三つの要因による事業費増額の可能性について
 第3回「検討の場」の資料「総事業費の点検結果」(案)の(注2)で、「堆砂計画の点検、追加的な地すべり対策の必要性の点検、追加的な代替地の安全対策の必要性の点検の結果、事業費の変動があり得ます。」と、事業費増額の要因が目立たない形で書かれていますので、公開質問書で確認のため質問したところ、回答は次のように三つの要因によって増額される可能性があることをはっきりと認めました。

 「堆砂計画については現在点検中ですが、点検した結果、何らかの対策が必要となる場合には所要額を見込むこととしています。」

 「追加的な地すぺり対策の必要性の点検の結果、何らかの対策が必要となる場合には、所要額を見込むこととしていまず。」

 「将来の代替地整備後の形状やダムによる湛水があるという水位条件を仮定した上で、代替地の安定性の確認を行い、その結果、何らかの対策が必要となる塀合には、所要額を見込むこととしています。」

 これらの三つの要因はすでにダム建設計画において検討され、事業費に織り込み済みであるはずのものです。それにもかかわらず、その見直しを改めて行うということは、三つの要因の検討が非常に不十分だとする市民らの指摘を無視できなくなったことによるものと推測されます。
 追加的地すべり対策の実例としては、奈良県の大滝ダム(国土交通省近畿地方整備局)があります。湛水開始後に大きな地すべりを起こし、その後、308億円の予算を投じて地すべり対策工事が行われてきており、現段階の完成予定は2013年度末で、10年近く遅れる見通しです。八ッ場ダムの場合は地すべり対策がそれ以上の規模になる可能性があり、そのことによって事業費の増額だけでなく、工期の更なる延長が必要となることが予想されます。

(2)代替地の整備費用
 八ッ場ダムの事業費のもう一つの増加要因は代替地の整備費用です。第3回「検討の場」の資料「総事業費の点検結果」(案)の(注6)、(注7)の記述から、平成21年までの代替地整備費は約95億円にもなり、それは八ッ場ダムの事業費4,600億円に含まれていないことがわかります。
 代替地の整備はまだ途中ですから、その整備費用は総額で百数十億円の規模になり、一方、代替地の分譲収益は分譲戸数、分譲価格からみて、数十億円程度にとどまると予想されますので(1軒当たり平均100坪、分譲価格を坪単価平均15万円としても、移転予定戸数134世帯×100坪×15万円≒20億円)、とても分譲収益では賄うことができません。この点について回答は「代替地整備費については、国から地権者への売却による収入で賄うことを基本としています。」と、原則論を述べているだけです。
 しかし、八ッ場ダムの代替地は山を切り崩したり、谷を埋め立てたりして造成するもので、その整備費が法外に嵩んできていますので、この原則論で済ませることはできません。整備費の大半,100億円程度をダム事業費に上乗せせざるをえなくなると予想されます。

 八ッ場ダムの検証の結果がどのようなものになるのか、予断を許しませんが、仮に事業継続になっても、上述のように工期の大幅延長と事業費の大幅増額は避けられません。工期の大幅延長と事業費の大幅増額は今までの経過を踏まえれば、関係都県が同意できることではありませんので、その面でも今後の八ッ場ダム事業は混沌とした状況になってきていることは明らかです。

—-

◆国土交通省関東地方整備局より当会への回答

平成23年4月26日
八ッ場あしたの会 御中

                   国土交通省関東地方整備局 河川計画課

「八ッ場ダム事業の工期と事業費についての公開質問書」に対する回答について

 平成23年2月8日に送付された「八ッ場ダム事業の工期と事業費についての公開質問書」について、別紙のとおり回答します。

はじめに
 八ッ場ダム建設事業の関係地方公共団体からなる検討の場(第3回幹事会)においてお示しした「八ッ場ダム建設事業 工期の点検結果(中間的な整理)(案)」及び「八ッ場ダム建設事業 総事業費の点検結巣(中間的な整理)(案)」は、今回の検証のプロセスに位置づけられている「検証対象ダム事業等の点検」の一環として行っているものであり、現在保有している技術情報等の範囲内で、今後の事業の方向性に関する判断とは一切関わりなく、現在の事業計画を点検したものです。
 また、予断を持たずに検証を進める観点から、ダム事業の点検及ぴ他の冶水対策(代替案)のいずれの検討に当たっても、さらなるコスト縮減や工期縮減などの期待的要素は含まないこととしています。
 なお、検証の結論に沿っていずれの対策を実施する場合においても、実際の施工に当たってはさらなるコスト縮減や工期短縮に対して最大限の努力をすることとしています。
 地すべり対策及び代替地の安全対策に係る経費については、「貯水地周辺の地すべり調査と対策に関する技術指針(案)・同解説(平成21年作成)」及び「宅地造成等規制法(平成18年改正)」を踏まえ、その対策の必要性も含め現在調査・検討中であり、堆砂計画についても最新の技術的知見に基づき点検中であることから、工期及び総事業費は今後の検証作業において変動する可能性があります。

1 工期について
1-1 付替鉄道の工期の遅れの理由と今後の見通し
 「八ッ場ダム建設事業の関係地方公共団体からなる検討の場(第3回幹事会)」においてお示しした工期については、資料「八ッ場ダム建設事業 工期の点検結果(中間的な整理)(案)」の注2に記述している「補償等の工程は、本体工事等へ影響しない最大限の工期を表したものであり、実際の工程は短縮される可能性があります。」との考えに基づき、設定したものです。
 現在のところ付替鉄道工事については、一部、用地取得の難航により、工程が遅延している状況ですが、引き続き、一刻も早い完成に向け、地権者の方にご理解頂けるよう努力して参ります。

1-2 付替国道の完成の見通し
 残る未開通区間である東吾妻町の「雁ヶ沢」より東側約1. 4 km (群馬県施工)は、JR吾妻線に仮設の踏切を設置して、本年秋の開通を目指して関係機関と調整をしているところであると群馬県から聞いています。

1-3  八ッ場ダム事業の工期遅れの本当の理由
 今回、「八ッ場ダム建設事業の関係地方公共団体からなる検討の場(第3回幹事会)」においてお示しした工期については、資料「八ッ場ダム建設事業 工期の点検結巣(中間的な整理)(案)」の注1に記述している「今回の検証のプロセスに位置づけられている「検証対象ダム事業等の点検」の一環として行っているものであり、現在保有している技術情報等の範囲内で、今後の事業の方向性に関する判断とは一切関わりなく、現在の事業計画(工期)を点検」との考えに基づき、設定したものです。また、ご指摘の付替鉄道、付替国道等の「補償等」の工程は、同資料の注2において「本体工事等へ影響しない最大限の工期を表したものであり、実際の工程は短縮される可能性があります」と記述しているとおりです。
 なお、現行の基本計画における工期においても、基本計画作成時点において、本体工事の完成予定年次に支障がないように必要な用地補償や道路、鉄道の付替等を計画的に進めるとの考えに基づき設定しています。
 また、本体工事については、付替道路や用地補償が完了しなければ着工できないものではありません。
 本体工事の契約手続きの設定に当たっては、平成21年1月9日に一般競争入札に係る入札公告(政府調達)を行った「八ッ場ダム本体建設工事」の契約手続は、同年10月2日をもって取りやめておりますので、再度、本体工事等の入札・契約手続を行う際は、入札公告から契約までは平成21年に行った契約手続と同期間が必要と考えられることから、今回の工期の点検においても必要な期間を見込んでおります。
 なお、転流工は、ダム本体工事に本格約に取りかかる前に吾妻川の洪水を迂回させる仮排水トンネルと流水を堰き止める仮締切工を含む一連の工事を称するもので、八ッ場ダムの場合、既に仮排水トンネルは平成21年7月に完成していますが、仮締切工は未施工のため、この施工期間を見込んでおります。

1-4 地元住民にとっての工期遅れの問題
 八ッ場ダムの検証に係る検討については、今年の秋までに結論を得るとの目標を示しつつ、できるだけ早期に結論を得るよう努力するとともにその結論に沿って速やかに対応することとしています。
 なお、点検結果についでは、引き続き、検討の場等を通じ、お示しすることとしています。

2 事業費について
2-1 三つの要因による事業費増額の可能牲
 八ッ場ダム建設事業の関係地方公共団体からなる検討の場(第3回幹事会)資料「八ッ場ダム建設事業 総事業費の点検結果(中間的な整理)(案)」では、堆砂計画の点検、「貯水地周辺の地すべり調査と対策に関する技術指針(案)・同解鋭」の作成に伴う追加的な地すべり対策の必要性の点検、「宅地造成等規制法」の改正に伴う追加的な代替地の安全対策の必要性の点検の結果、事業費の変動の可能性があることをお示ししております。

2-2 堆砂計画の点検による増額
 堆砂計画については現在点検中ですが、点検した結果、何らかの対策が必要となる場合には所要額を見込むこととしています。
 なお、点検結果についでは、引き続き、検討の場等を通じ、お示しすることとしています。

2-2 追加的な地すべり対策の必要性の点検による増額
 「貯水池周辺の地すべり調査と対策に関する技術指針(案)・同解説(平成21年作成)に沿った追加的な地すぺり対策の必要性の点検の結果、何らかの対策が必要となる場合には、所要額を見込むこととしています。
 なお、点検結果については、引き続き、検討の場等を通じ、お示しすることとしています。

2-3 代替地の安全対策の必要性の点検による増額
 「宅地造成等規制法(平成18年改正)」の改正においては、既に整備された造成宅地について判断権者により安定性の確認が行われることとなっておりますが、今回実施する点検においては、将来の代替地整備後の形状やダムによる湛水があるという水位条件を仮定した上で、代替地の安定性の確認を行い、その結果、何らかの対策が必要となる場合には、所要額を見込むこととしています。
 なお、現在整備を進めている代替地は、河川砂防技術基準等の設計基準を満たすように設計しでおります。
 また、点検結果については、引き続き、検討の場等を通じ、お示しすることとしています。
 いずれにしても、国土交通省として、地元の方々に対して法令上適正な代替地を提供していく考えに変わりありません。

2―4 代替地の整備費用
 分譲する宅地等の整備に要する代替地整備費については、国から地権者への売却による収入で賄うことを基本としています。

2-5 八ッ場ダム事業費の大幅増額
 点検結果については、引き続き、検討の場等を通じ、お示しすることとしています。