八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

八ッ場ダム検証の客観性

2011年5月9日

 昨日の上毛新聞で、八ッ場ダムの検証作業が遅れている問題が取り上げられていました。

◆2011年5月8日 上毛新聞より転載

 -八ッ場ダム 検証の進展見えず 「検討の場」幹事会3ヵ月開催なし 震災の影響か 県や地元 不安の声―

 東日本大震災後、八ッ場ダム建設の検証作業の進展が見えず、大畠章宏国土交通相が結論を出すとした今年秋に間に合うのか、県や地元住民から不安の声が上がっている。国と関係6都県が意見を交わす「検討の場」は、幹事会でさえ3、4月は開かれなかった。一方で、未曾有の大災害を受け、ダム推進、反対両派のダムの必要性をめぐる議論はさらに活発化している。
 「検討の場」幹事会が開かれたのは2月7日が最後。検証主体の国交省関東地方整備局は「できることはたんたんと進めている。震災後も秋に向けて努力することは変わらない」と強調する。ただ、次回の日程については「まだ決まっていない」という。
 県は「早く開くように再三申し入れているのに、国は『調整中』を繰り返すばかり。国交相が約束した秋に間に合わせるには検証工程の圧縮など工夫が必要だ」といら立つ。長野原町川原湯地区で飲食店を経営する男性(56)は「震災の復興はもちろん大切だが、ダムの検証結果が遅れるのは容認できない」と話す。
 同整備局によると、震災で利根川など関東の国直轄河川の906カ所(21日現在)で堤防などが損傷。本県でも館林、板倉、桐生、邑楽4市町の渡良瀬川などに6カ所の損傷があった。
 被害を受け県は「堤防への負荷を減らす八ッ場ダムの必要性は一層高まった。今回の津波で、想定外の大洪水に備えることの重要性も再認識した。いままで以上に必要性を主張していく」と強調する。
 一方、ダム建設見直しを訴える市民団体「水源開発問題全国連絡会」は26日に緊急集会を開き、国交省が本年度予算に計上しているダム事業費約2400億円を被災地復興に回すことを求める要請書を採択し、国交省に提出した。同会は、「大洪水に備えるには堤防の強化が大切。堤防の強度に問題が生じているなら、なおさら不必要なダムよりも堤防に予算を配分するべきだ」と反論している。

 ~~転載終わり~~

 記事で取り上げられている「水源開発問題全国連絡会」による要請書は、こちらに全文が載っています。↓
 http://snipurl.com/27tbxz
 「緊急要請書 2011年度ダム予算2,400億円を震災復興費へ丸ごとシフトしてください」

 八ッ場ダムの検証作業の中で、最も重要なポイントとされているのが、八ッ場ダムの主要目的である利根川の洪水調節の効果ーつまり、八ッ場ダムを建設すると、利根川の洪水の時に本当に役に立つのか、ということです。これまでの国土交通省河川局の説明によれば、200年に一度の大洪水が将来起こったとき、八ッ場ダムがなければ流域住民は甚大な被害を受けるとされています。
 そのような自然災害による被害をなくすために、国は半世紀以上かけて八ッ場ダム計画を推進してきたことになっています。ダム予定地の住民の何世代にもわたる多大な犠牲、国民の税負担も、八ッ場ダム計画に協力させられた結果です。

 ところが、昨年10月、馬淵国交大臣の国会答弁により、八ッ場ダムの建設根拠である利根川の治水計画の数字(基本高水)がおかしいことが明らかになりました。国策を推進するために、自然科学を捻じ曲げ、建設根拠をでっち上げたことが暴露された瞬間でした。これを契機に、国交省河川局は、客観的な検証が必要だとする政策に沿って、日本学術会議に「治水」の検証作業を依頼することになりました。
 けれどもジャーナリストのまさのあつこさんは、昨日アップしたブログ上で、日本学術会議の検証委員会はもともと客観性が疑われるメンバー構成であると、以下の具体例を挙げて解説しています。↓
 http://dam-diary2.cocolog-nifty.com/blog/2011/05/post-31eb.html
 「インチキ検証委員会の構図」

 ・委員会メンバーの池田駿介東京工業大学名誉教授は、(株)建設技術研究所の池田研究室室長である。
 ・(株)建設技術研究所は、いま問題となっているこれまでの利根川の治水計画における「基本高水」を策定する作業に関わってきた。

 八ッ場ダムを推進してきた国交省河川局のみが検証作業を行うのでは、検証結果が国民の理解を得られないとして第三者機関に依頼したはずが、検証委員会のメンバーに関係者が入っていたのでは、相変わらずのお手盛りの検証であろうと疑われてもしかたありません。

 現在、福島原発事故により、原発推進に御用学者たちが大きな役割を果たしてきたことがクローズアップされています。八ッ場ダムという国策も、御用学者らの権威によって支えられてきました。
 
 ちなみに日本学術会議の検証は、議論の場が公開され、配布資料もインターネット上で見ることができます。これまでと違う、民主主義的な手法で検証作業が行われていることになっていますが、公開されている議論は専門用語が多く、一般には大変わかりづらいといわれています。配布資料を見ても、専門用語の羅列で、一般国民やマスコミに理解を求める姿勢がないことが見て取れます。

 たとえば、3月28日の配布資料↓
http://snipurl.com/27t8ui
利根川水系の基準点八斗島上流における新たな流出計算モデルの構築(案)について 平成23年3月28日 資料5  【第3回分科会資料】

 この14ページには、八ッ場ダムの建設が予定されている吾妻川流域の地質特性が利根川の他の上流地域と違うことを示す図表が掲載されています。吾妻川流域は、火山活動による新しい地層からなっており、雨の浸透性が他の流域よりよく、大雨が降ってもその四割しか川に流れこまないことを説明しています。これは利根川の治水計画において、吾妻川にダムを造ることが効果があるかどうかを考える上で重要な事実を示しています。しかし、「f1、Rsaの設定」というタイトルからして、一般国民には不親切です。

 ダム計画に深い関わりのある「治水」政策は、こうした専門用語がふんだんに使われるために、専門家の提言を全面的に受け入れることが当たり前になってきました。上毛新聞にあるように、群馬県は今もその姿勢を変えていないようですが、行政の意のままに動く専門家の弊害を、私たちはうんざりするほど経験しています。

 日本学術会議による次回の会議は5月11日に行われることになっています。↓
http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/bunya/doboku/pdf/kihontakamizu-sidai21-07.pdf
 土木工学・建築学委員会 河川流出モデル・基本高水評価検討等分科会