八ッ場ダム建設で発電量減少

2011年5月13日

 福島原発1号機のメルトダウン、3号機の温度上昇、周辺海域の放射能汚染など、深刻なニュースが伝えられる一方で、浜岡原発停止による今夏の電力不足が盛んに報じられています。八ッ場ダムを水力発電に生かすべき、という声も相変わらず聞かれますが、下記の記事にもあるように、現在の八ッ場ダム計画は、発電量を減少させる前提で成り立っています。

◆2011年5月11日朝日新聞群馬版
http://mytown.asahi.com/gunma/news.php?k_id=10000581105110001

 -ダム湖貯水で水量減少 水力発電能力は低下―

 東日本大震災による電力不足への懸念とともに、建設するか検証中の八ツ場ダム(長野原町)で計画されている水力発電への関心も出てきた。ただ、ダム計画は下流域で水力発電に使ってきた水を減らす前提で成り立つ。ダム建設で、吾妻川水系の発電能力はむしろ低下する見通しだ。

 八ツ場ダムは2008年の計画変更で、治水と利水が主だったダムの用途に発電が加わり、県企業局が発電所をつくることになった。流量の維持や洪水調整、利水の補給のために放流される際にのみ水を使う。

 県によると、最大出力は一般家庭4千世帯分にあたる1万1700キロワットを予定している。

 「電力不足のいま、発電もできる八ツ場ダムの必要性は高まった」。ダム推進派からはそんな声が出る。

 だが計画では、ダム湖に水をためる代わりに、既存の水力発電所を動かしてきた水を減らす。

 ダム予定地下流の東吾妻町や渋川市には、東京電力の川中、松谷、原町、箱島、金井、渋川の6カ所の水力発電所がある。大正時代から戦後復興期に運転を開始した6発電所の最大出力は計11万3200キロワット。ダム予定地上流の吾妻川や白砂川から取水し、本川とは別の導水路を経由させた水を利用している。

 この発電用の取水とダムの関係について、04年12月、政府は「(八ツ場ダムの)必要な水量を確保するため、東電に対する減電補償を行い、これまで水力発電に使用されてきている吾妻川及び白砂川等の河川水の一部を貯水池(ダム湖)に流入させることとしている」と、共産党議員の質問主意書に答えている。

 導水路を流れている水は最大で毎秒30トン。ダム予定地直下の吾妻川(東吾妻町岩島)での国土交通省の03年の観測では、流量はおおむね毎秒0・79トン~11・73トン。本川の3~30倍程度の水が発電に使われていることになる。

 発電用の水をどの程度、ダム湖に回すかはっきりしないが、水力発電所の発電能力は低下する。国が東電に支払う減電補償金は数百億円規模との指摘も出ている。

 水源開発問題全国連絡会の嶋津暉之共同代表は「年間発電量の試算では、八ツ場ダムが出来て発電するようになっても、その5倍の電力が失われる」と指摘している。

 今のところ発電所計画はダム本体工事と連動して止まったままだ。(菅野雄介)

(写真)上流からの水をためている東京電力の鍛冶屋沢ダム。ここから松谷、原町、箱島などの発電所へ水が送られる。=東吾妻町の岩櫃山周辺

 ~~~転載終わり~~~

 吾妻川には大正、昭和の初めから流れ込み式の水力発電所が数多く設置されてきました。これは、吾妻川流域が第四紀火山岩層という新しい地層であるため、雨水が浸透しやすく、ゆっくりと流出することにより、吾妻川の流量が安定していることによるものです。

 同じ利根川でも流域の地層が古生層である神流川と比べると、吾妻川は単位流域面積当たりの晴天日の流量が数倍以上あります。
 
 利根川の基本高水流量を検証する日本学術会議に国交省が新たに示した洪水流出計算モデルでも、吾妻流域は飽和雨量を無限大に、つまり、雨水がいつまでも浸透し続けるように設定せざるを得なくなっています。(そうしないと、計算結果を実績流量に近づけることができないため。)

 すなわち、吾妻川流域は雨水の浸透性がよく、流域全体が天然のダムのようになっており、それによって現状において安定した水力発電が行われているのです。

 八ッ場ダム計画は発電量を減少させるという批判をかわすためか、国は2009年の政権交代を前に導水路計画を模索中であることを、当時、地元紙が一面トップで伝えました。
https://yamba-net.org/wp/modules/news/index.php?page=article&storyid=600
 2009年5月27日 上毛新聞 
 「吾妻川 発電量確保へ前進 八ッ場ダムで東電と国交省 導水路建設を協議」

 この導水路計画によれば、八ッ場ダム直下に設置する従属発電用の八ッ場発電所と下流の東京電力・松谷発電所を結ぶ長さ2キロの導水路が実現すれば、「かなりの(従来の)発電量が維持されるとみられる」ということです。
 けれども、この計画には多くの矛盾があり、「発電量減少」の問題解決には程遠いものです。主な矛盾は以下の通りです。

 ・八ッ場ダムから放流される水量は、通常は毎秒2.4トンだけです。この毎秒2.4トンは、吾妻川の名勝・吾妻渓谷の流量を維持するために流すものですから、吾妻川に並行して設置する導水路にまわすことはできません。
 渇水時にダムから利水補給のある場合、またはダムが満水の場合は、毎秒2.4トンを上回る流量が流れますが、水力発電には安定的な水量が必要とされます。このような不安定な条件では、現状のかなりの発電量を維持するのは無理です。

 ・ダム直下の八ッ場発電所の放水口の標高は470m、導水路で結ぶ予定という東京電力の松谷発電所の標高は480m以上あります。八ッ場発電所の放水口は吾妻渓谷の深い谷間に造られるので、下流の松谷発電所より標高がはるかに低くなるのです。標高の高い方に逆流させるためには、新たなエネルギーが必要とされるという矛盾が生じます。

 ・標高の高い地点から低い地点に導水路を設置して水を自然に流下させるためには、吾妻渓谷の自然景観をさらに破壊する高い建造物を造ったり、高額な建設費用を新たに発生させるという問題が生じます。また、たとえそのようにして導水路を設置できたとしても、このような導水では発電に必要な落差がとれませんので、導水路で送った水を使って松谷発電所で発電を行うことは不可能です。

 
 八ッ場ダムは「利根川の洪水調節」、「都市用水の供給」を主目的としており、ダム計画では「治水容量」、「利水容量」があらかじめ定められています。八ッ場ダムの目的を水力発電に特化すればよいという意見もありますが、このことはダム事業の前提である八ッ場ダムの基本計画そのものを白紙に戻すことを意味します。