八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

河川行政を追認する日本学術会議

2011年6月15日
 現在、日本学術会議によって八ッ場ダムの検証作業と深い関わりのある利根川治水(基本高水)の検証が行われています。

 ★日本学術会議のサイトより
 河川流出モデル・基本高水評価検討等分科会 議事次第
  http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/bunya/doboku/giji-kihontakamizu.html

 この検証内容について、今月8日に開催された第9回会議に検証のあり方を批判する意見書が提出されました。↓

※クリックするとPDFファイルでご覧になれます。
大熊孝氏による
意見書
関良基氏による
意見書その1
関良基氏による
意見書その2
嶋津暉之氏による
意見書

 大熊孝氏(新潟大学名誉教授)は、利根川治水の専門家として八ッ場ダムに懐疑的な意見を表明しており、日本学術会議による今回の検証では、3月29日の第4回会議において参考人として意見を述べています。
 同じく3月29日に参考人として意見を述べた関良基氏(拓殖大学准教授)は、2009年の政権交代後、利根川上流の森林保水力が過少に設定されているとの問題提起により、国交省が八ッ場ダムの前提となる利根川治水のデータ検証を改めて行うきっかけとなりました。
 また、八ッ場ダム推進論者らが「嶋津理論」と名づけるダム反対論を展開してきた嶋津暉之氏(元東京都環境科学研究所研究員)は、八ッ場ダム事業の見直しを求める市民運動の理論的支柱でもあります。

 これらの識者が提出した意見書に共通しているのは、日本学術会議による利根川治水の基本的な数値(基本高水)の検証が、実態にそぐわず、科学的ではない、ということです。

 大熊氏は上記意見書で、八ッ場ダムを推進する根拠とされてきた基本高水の数値が、実際の洪水被害と一致しないことを指摘しています。机上で計算された数値と、実際に利根川流域の住民に聞き取り調査をした結果とが食い違っている、という根本的な問題です。
 ダム計画においては、洪水被害を過大に予測して、事業を推進するという手法が全国各地で行われてきました。八ッ場ダム計画のきっかけとなった昭和22年9月のカスリーン台風では、利根川の氾濫と共に、大雨による土石流や地すべりなどが多発しました。八ッ場ダムによる防災が語られる時、実際には八ッ場ダムを造っても防げない赤城山麓の土石流や地すべりの被害が語られることがしばしばあります。

 関氏は意見書で、国交省による「貯留関数法モデル」には限界があり、カスリーン台風洪水に当てはめても正確な流出計算は不可能であることを指摘しています(意見書その1)。さらに、第9回会議を受けて、第10回会議にも意見書を提出しています(意見書その2)
 以下、第10回会議に提出された意見書の冒頭部分を引用します。

 第9回会議では、貴分科会は森林の生長による山の保水力の向上を否定するとともに、昭和22年9月洪水の再来流量は国交省の計算値で問題がないとして、利根川・基本高水流量の従前の数字を容認する方向を示しました。
 しかし、貴分科会で今までに明らかになった事実に基づいて科学的に判断すれば、結論は全く逆です。山の保水力の向上によって洪水ピーク流量は低減してきており、昭和22年9月洪水の再来流量21,100 ?/秒はきわめて過大であって、基本高水流量は従前の数字よりはるかに小さい値が妥当であるという結論が導かれます。
 貴分科会が事実に基づいて科学的な判断をされることを強く望みます。

 —引用終わり—

 嶋津氏は上記の意見書において、総合確率法という計算手法が科学性において基本的に問題があり、計算結果は意味を持たないとしています。

 こうした議論を垣間見ただけで、日本学術会議の検証が専門用語が多く、一般の人々には身近に感じられないものであることがわかります。「治水」は本来、私たちの生活に関わりが深く、命を守るにはどうすればよいか、という利根川流域住民の防災意識の上に成り立つはずのものですが、国交省のダム計画も、日本学術会議の議論も、机上の計算に終始しています。

 東日本大震災では、専門家が想定した防災計画による津波対策の堤防が役に立たず、大きな犠牲をもたらしたことから、国交省は津波対策の方針転換を行うことが昨日のニュースに流れました。堤防などハード面の整備に偏たっていた対策を見直し、避難ルートの整備、災害に強いまちづくりなどのソフト面を組み合わせる対策に転換するということです。津波災害の苦い教訓が河川行政に反映される気配は、今のところありません。

 これまでの河川行政では、ダム計画にとって都合の良い計算式が絶対的な権威をもつとされ、実際の川の流れや森林の状態を把握することが疎かにされてきました。こうした行政のあり方は、この分野の学問の発展を阻害するほどの力を持つとされ、天下りやワタリで批判されてきた近藤徹氏が国交省河川局長から土木学会会長となったケースが引き合いに出されることがよくあります。↓
 http://www.jsce.or.jp/president/president2009.shtml
 土木学会ホームページー近藤徹会長プロフィール

 日本学術会議の最終会議は、6月20日に行われる予定です。これまでの会議ですでに方向性は示されており、国交省の基本高水流量の数字を容認し、緑のダムを否定する結論となることが明らかになっています。ダム計画に疑問を持つ多くの人々が学者の良心にかすかな望みを託したのですが、残念ながら期待外れでした。
 原発問題について、御用学者と官僚機構、業界が一体となった原子力村という言葉が最近よく使われますが、同じような強固な利権構造がダム行政を支えています。取り返しのつかない災害を引き起こしつつある原発は、遅きに逸したとはいえ見直しの機運が生まれつつありますが、ダム行政の方は何も変わっていません。

 日本学術会議の議論を受けて実施される八ッ場ダムの検証は、国交省関東地方整備局によって進められます。ダム計画を推進してきた組織が自らの過ちを自発的に認めるとは考えにくいことです。
 
以下、日本学術会議の検証について、参考になるブログです。

★まさのあつこさん(ジャーナリスト)のブログ

 http://dam-diary2.cocolog-nifty.com/blog/2011/06/post-9830.html
 「利根川の基本高水の検証 出口か振り出しか」

 http://dam-diary2.cocolog-nifty.com/blog/2011/06/post-a114.html
 「計算結果を巡る不可解な解釈」

 http://dam-diary2.cocolog-nifty.com/blog/2011/06/post-e9ac.html
 「以上を要約すると(要約になっていないが)」

★ 河野太郎衆院議員のブログ
 http://www.taro.org/gomame/cat13/
 「国交省スキャンダル」

★ 関良基さんのブログ
 http://blog.goo.ne.jp/reforestation