八ッ場ダムと相称される川辺川ダム。両ダムとも、2009年総選挙の民主党マニフェストで中止が謳われましたが、その後のダム予定地をめぐる状況はかなり違います。
両ダムともダム本体工事には入っていません。ダム事業ではダム本体工事以外に膨大な関連事業があります。水没予定地の道路の付け替え、砂防工事、水没予定地住民の移転代替地造成などなどです。
八ッ場ダム予定地では、政権交代後も関連事業に巨額の予算がついて従前どおり工事が進められてきましたが、川辺川ダム予定地では関連事業の大半が2009年度から凍結されました。
これは、2008年9月に蒲島郁夫熊本県知事が川辺川ダム計画の白紙撤回を求める声明を発表したことが原因とされています。国交省が知事声明への報復措置として、2009年度からダム予算を大幅に減らして(2008年度34億円、09年度21億円、10年度16.5億円、11年度15億円)、関連事業の大半を凍結するようにしたからです。
2009年の政権交代で川辺川ダムは国の方針として中止することになりましたが、いまだに中止の手続きがとられていません。八ッ場ダムの場合は、東京都をはじめとする関係都県知事がすべてダム推進派で占められ、ダム予定地もダム推進派が実権を握っており、ダム中止に対して猛烈な逆風があったとされています。
川辺川ダムの場合は、外からの逆風はないものの、ダム建設を進めてきた九州地方整備局が中止手続きに抵抗しているといわれます。国と熊本県、地元は、関連事業をめぐって交渉を続けており、地元、五木村の再生は容易ではありません。
わが国では、ダム中止を前提とした法律がなく、国は事業が中止になった場合、法律上は長年のダム計画で疲弊したダム予定地に対して予算装置を講じる義務がありません。熊本県や五木村は国にダム中止後の法整備を求めていますが、国交省はそれに応じる気配がなく、民主党政権も政治主導とは名ばかりです。
◆2011年6月29日 熊本日日新聞
http://kumanichi.com/feature/kawabegawa/kiji/20110629001.shtml
-国が75%負担内諾 五木村の国道445号整備 県が説明-
国が建設中止を表明した川辺川ダム計画の水没予定地を抱える五木村の振興策として、県が単独施工することで国や村と26日合意した国道445号の未整備区間約1・4キロについて、県企画振興部の坂本基部長は28日、国から事業費の75%を負担する内諾を得ていることを明らかにした。県議会総務常任委員会で説明した。
坂本部長は「水源地域対策特別措置法に基づき、(国の)補助率のかさ上げをもらうことで内々話ができている」と明言した。同法に基づく事業の負担割合は国75%、県25%。これまで県は国直轄での整備を求めていたが、坂本部長は、国が川辺川ダムなど大型公共事業中止後の地元補償法を制定したとしても「県の財政負担はほとんど変わらない」として「名を捨て実を取った」と強調した。
県川辺川ダム総合対策課によると、国道445号の整備費は10~20億円で、県の負担は最大5億円。県が村振興のために準備する50億円から支出する。
総務常任委では、自民党の前川收氏(菊池市区)が「もともと民主党政権がダム計画を中止し、補償法の制定を約束した」と指摘。坂本部長は「民主党政権に補償法案をまとめる力があるのか疑問だが、約束を守るよう求める県の基本姿勢は変わらない」と答えた。
総務常任委は、国、県、村で26日に合意した生活再建事業の確実な実施や、補償法の早期成立を国に求める意見書案を全会一致で可決。定例県議会最終日の7月1日に提案することを決めた。(亀井宏二)
◆2011年6月29日 熊本日日新聞
http://kumanichi.com/feature/kawabegawa/kiji/20110629002.shtml
-「県拠出に交付金活用」 国交相-
国が建設中止を表明した川辺川ダム計画の水没予定地を抱える五木村の生活再建に関し、大畠章宏国土交通相は28日の閣議後会見で、国、県、村の三者協議の場で検討している村の振興策に、国の社会資本整備総合交付金を活用する考えを示した。
三者協議は26日に開かれ、国が頭地大橋整備など4事業を継続し、県は国道445号の整備などに着手することで合意。県は事業費として50億円を拠出する考えを表明した。
この県の拠出に対して、大畠国交相は自治体が使途を決める社会資本整備総合交付金を挙げ、「協議の場で出された(村の将来)ビジョン実現のため、交付金を生かし可能な限り支援していきたい」と言及。具体的な金額には触れなかった。
また大畠国交相は、村の生活再建に向け、農林水産省や文部科学省など関係省庁に協力を要請する意向を示した。三者協議を2010年11月以降開かなかった点を陳謝し、「新たな村をどう創造するかという協議には、国がもっと積極的に加わっていくことが必要」と強調した。(原大祐)
◆2011年7月2日 熊本日日新聞
http://kumanichi.com/feature/kawabegawa/kiji/20110702001.shtml
-五木村再建で3者合意 宙に浮くダム中止補償法案-
川辺川ダム計画に伴い、住民が移転した水没予定地。中央は建設が進む頭地大橋の橋脚=五木村 国が中止を表明した川辺川ダム事業で、水没予定地を抱える五木村の生活再
建事業が6月末、県による50億円の支出などを条件に前進することになった。国と県が役割分担でかみ合わなかった末、現行法の補助金などを活用する形になった。ダム中止後の補償法など国の責任や役割は依然不明確なままだ。
6月26日、村と国、県の3者協議が終わった五木村役場。田山淳士村議会議長に促され、和田拓也村長が国土交通省や県の担当者と手を握り合った。3者の握手はダム本体着工を調印した1996年以来。和田村長は「多少は肩の荷が下りた」とほっとした表情を見せた。
「なすり合い」
再建関連事業は11あり、水没予定地をまたいで川辺川の両岸を結ぶ「頭地大橋」の建設など4事業を、国がダム関連事業費で継続。3者協議は、残る7事業の役割分担をめぐり国と県の意見が対立、7カ月間開かれないままだった。「責任のなすり合いだ」との声も村民から上がった。
こうした批判に加え、2012年度政府予算の概算要求も迫る中、県は7事業のうち、「観光客誘致などにつながる」と地元の要望が強い国道445号の未整備区間1・4キロの単独施工などを確約。財源として50億円の支出を表明した。
県企画振興部の坂本基部長は、ダム関連事業が現行の水源地域対策特別措置法などに基づく事業である点を踏まえ、「50億円は残事業で県が負担する分と近い金額」と説明。
「ダム中止の補償法案がいつ成立するか分からない中、『補償法で実施すべきだ』と言い続けるのは難がある。現行法で国の補助金を使い、前に進めるのが現実的。名を捨て、実を取った方がお互いのため」と話す。
受け身
補償法案は、民主党政権発足直後の09年9月、当時の前原誠司国交相がダム中止を表明した際に浮上。前原氏は「川辺川ダムを公共事業を中止した際の全国モデルにしたい」と強調した。だが同法案は政局の混迷もあり、国会提出すら見送られ続けている。
大畠章宏国交相は「新たな五木村をどういう形で創造していくのか、国が積極的に加わることが必要だと率直に感じている」と述べたが、補償法案の見通しについて言及していない。
また3者合意で、国交省は4事業の継続に加え、新たな農地造成などを盛り込んだものの、村振興計画には「財政面や技術面で可能な限りで支援する」との文言にとどめた。住民が移転した後、更地になっている水没予定地の活用策についても、「村から具体的提案を受けて検討する」と国の主体性はうかがえない。
ダム計画発表の66年から丸45年。計画に伴う離村が相次ぎ、人口は1300人余りとピーク時の4分の1以下に減った。村の衰退は年々進む。「国道や農地造成などハード面の整備を、村民の所得向上や雇用確保、少子高齢化対策といったソフト面にどう結び付けるか」。和田村長の言葉に、山積する課題の難しさがにじむ。(臼杵大介、原大祐)