2011年10月2日
前田国交大臣が10月8日に八ッ場ダム予定地を視察するとのニュースが流れています。
八ッ場ダム予定地では、地元民のダム計画への反発が激しかった長い歴史がありますが、地元がダムに反対している間、大臣が地元を訪れることはなく、ようやく建設大臣が現地を訪れたのは1992年、ダム基本協定の調印式に出席した時でした。
その後、自民党の国交大臣は、八ッ場ダムが政争の具として注目されるようになった政権交代直前に現地を視察していますが、国策の犠牲になってきたダム予定地に対しては、概してきわめて冷淡であったといえるでしょう。
一方、八ッ場ダムの建設中止を2009年総選挙のマニフェストに掲げた民主党政権では、新大臣が就任するたびに国交大臣が現地を訪れ、地元町長らに頭を下げる映像が全国に流れます。こうした映像は、ダム中止政策が住民を苦境に陥れているとの印象を視聴者に与え、ダム計画そのものが地元を犠牲にしているという問題の本質をカモフラージュしてきました。国交大臣が謝罪の姿勢を示す間、随行する国交省の職員らは、無表情で頭を下げる大臣の様子を傍観しているだけです。地元では、ダム行政を仕切っているのは官僚組織であって民主党の大臣ではない、官僚組織の意向が変わらない限りダム中止はありえないともいわれ、大臣のみが頭を下げる光景は事実を裏付けるものと見られています。
実際のところ、ダム予定地では至る所で矛盾が噴き出しているのですが、これまでの大臣視察ではそうした問題には一切触れられることなく、ダム関連事業による道路や橋を国交省現地事務所の担当者が何事も問題ないかのように案内する光景がテレビに大きく映し出され、地元有力者のダム推進要請が前面に出されてきました。こうしたマスコミの断片的な情報は、八ッ場ダム事業には何ら問題はなく、八ッ場ダムがこのまま推進されることこそ地元住民の願いだという、八ッ場ダム事業を推進する行政にとって都合のよいメッセージを発信してきました。
報道の本来の使命は、泥沼の国策事業と共に生きてこなければならなかった地元住民の救済こそ政治の役割であることを一般の人々に伝えることである筈ですが、大量に流される報道の中で問題の本質を捉えたものは極めて限られています。
今回の前田大臣の現地視察では、八ッ場ダムの本体建設是非の判断時期が焦点とされています。重要な政策判断について党の関与を示唆する民主党内の動きに対抗して、ダム推進を主張する群馬県知事と地元町長は前田大臣の早期判断を強く促すとしています。
今回の前田大臣の現地視察でも、国交省現地事務所のガイドによってダム事業のPRのみが行われるのでしょう。同じ現場がダム本体工事再開の困難さを露呈していることは、よく見ればわかる筈です。
◆2011年10月1日 読売新聞群馬版
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/gunma/news/20110930-OYT8T01508.htm
-国交相8日八ッ場視察 首長らと面談知事、結論時期ただす方針ー
前田国土交通相は30日の閣議後記者会見で、10月8日に長野原町の八ッ場ダム建設予定地を視察し、大沢知事や地元首長らと面談すると発表した。9月2日の国交相就任以来、初めて地元に入る。国交省関東地方整備局が八ッ場ダムの再検証で、ダム建設が「最も有利」と評価する中、地元に対してどのようなメッセージを出すのか注目される。
前田国交相は会見で「1都5県の知事からも『早く現場を見ろ』と(言われていた)。現地にご迷惑をかけてきており、率直な話を聞かせていただこうと思っている」と語った。
再検証を巡っては、前田国交相が結論を出す時期について「『秋までに』というのは前任者までの話」と述べて、最終判断が遅れる可能性を示唆しており、大沢知事は真意をただす方針。知事は30日、現地視察決定について「工事が進む現場を見てもらえれば、ダムの必要性は必ず理解してもらえるはずだ」と語った。
一方、民主党政調会の下部組織で、政策決定に関与する「国土交通部門会議」が30日開かれ、座長の松崎哲久衆院議員は八ッ場ダムの再検証について、「前原政調会長から部門会議で議論するよう指示があった」と明かした。「国交相が最終判断する」とする政府側に対し、政調会も関与していくとみられる。
◆2011年10月1日 朝日新聞群馬版
http://mytown.asahi.com/gunma/news.php?k_id=10000581110010001
-住民対話ない見込み 国交相8日八ツ場入りー
八ツ場ダム(長野原町)問題で、前田武志国土交通相が8日に現地入りすることになった。国交省や県によると、予定地視察後に知事や長野原町長らと会談する方向で調整しており、住民との直接対話の場はない見込みだ。
民主党政権での国交相は4人目で、いずれも就任1カ月前後で八ツ場入りした。前田国交相は30日の閣議後の会見で「早く現場を見たかった。現地に迷惑をかけているので、率直にお話を聞かせて頂きたい」と話した。
歴代国交相が「今秋」としてきた建設是非の判断時期に入り、前田国交相の言動は注目を集める。国交相は最近、東日本大震災の被害も踏まえ判断時期が遅れる可能性を示唆。大沢正明知事は、現地会談であらためて早期の検証終了と工事着工を求める構えだ。
長野原町の高山欣也町長は「前田国交相には、党内の意見に惑わされず、早期に本体工事に着手するよう要望する」と話した。
◆2011年10月1日 上毛新聞
http://www.raijin.com/news/a/2011/10/01/news02.htm
-国交相、8日に八ツ場ダム視察 最終判断の時期焦点ー
前田武志国土交通相は30日の会見で、10月8日に就任後初めて長野原町の八ツ場ダム建設予定地を視察することを明らかにした。
大沢正明知事や同町の高山欣也町長らと会談する予定。前田氏は今秋とされてきたダム建設の是非を決める検証の結論が遅れる可能性を示唆しており、最終判断の時期や手法に関する発言が焦点となりそうだ。
前田氏は会見で「現地にご迷惑をかけているので、率直にお話を聞かせていただこうと思っている。なるべくなら多くの方に会いたい」と話した。国交相としては、前任の大畠章宏氏が2月に訪れて以来となる。
26日に大沢知事らと会談した後、前田氏は記者団に「『秋までに』というのは前任者(前国交相)までの話」と発言。
最終判断の場についても、国交相時代に中止表明した前原誠司民主党政調会長らが入る「政府・民主三役会議」が関与する可能性が浮上し、早期建設を求める本県など関係6都県などが反発している。
高山町長は上毛新聞社の取材に「現地の進捗(しんちょく)状況をよく見てほしい。間違っても(検証の結論が)遅れることのないように確認したい」と答えた。