八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

公聴会

 八ッ場ダムに関する国交省関東地方整備局の検証結果について、公聴会が関係都県の四ヶ所で開催されています。いずれの会場でも、検証結果への批判意見が圧倒的に多く、賛成意見を述べる公述人の中には、行政関係者も含まれている実態が明らかになりつつあります。
 公聴会は八ッ場ダムの検証作業の中の一つの手続きです。ダム推進を前提としている国交省関東地方整備局としては、反対住民のガス抜き、ダム検証の手続きを踏んだとのアリバイ作りでしかないとも言われます。

 ダム予定地域の会場でも、参加住民は僅かで、傍聴者の大半は行政と報道の関係者です。ダム推進を望む住民にすれば、行政が望ましい方向で進めてくれていることについて意見を言う必要はないわけですし、反対意見の住民にとっては、表立って行政を批判することは地域でのバッシングに繋がりかねませんから、いずれの人々も参加にブレーキがかかるのは頷けます。
 今回は、公聴会そのものの告知が記者発表だけであったため、ダム予定地ですら公聴会の開催を知らなかったという声が少なからずあります。国交省はこれまで、八ッ場ダムの広報のために大量の印刷物を関係地域に配布してきましたが、なぜ公聴会のお知らせを配布しなかったのでしょう。

 一方、下流域の住民の間でも、今回の公聴会は不評でした。公聴会の対象となる行政文書は300ページにおよび、お役所用語の羅列で一見、一般住民を遠ざける形式ですが、内容自体は説得力のない八ッ場ダムのPRでしかありませんでした。
 「こんなひどい検証結果を見ると、納税するのが馬鹿らしくなる」、「国交省のルールにのっとって意見陳述に時間を費やすのは本当に腹立たしい」という批判が少なからずありました。また、公聴会の募集期間がわずか数日という短期間で、生活を抱えている一般住民の立場に配慮がないことへの批判、関係住民(利根川流域1都5県の住民)以外の一般国民の応募が許されなかったことへの批判の声もありました。
 とはいえ、50名におよぶ流域住民が15分という制限時間の中で発表した意見は、一つ一つが意味のあるものです。行政の声を代弁しただけの埼玉会場における行政関係者による意見陳述などは論外としても、ダムの賛否に関わらず一人ひとりの住民の声に国交省は真摯に向き合うことが求められます。
 公聴会では撮影も録音も禁止され、国交省関東地方整備局のみが記録のためという名目で録音しました。流域住民はもとより、八ッ場ダム事業に税金を納めることを強制されている一般国民が公述内容を知ることの出来るよう、国交省関東地方整備局は速やかに公述内容を公表するべきです。

 関連記事を転載します。今回の公聴会は各紙の報道内容にかなりの隔たりがあります。各紙の記事を比較すると、どの視点で公聴会の内容を切り取ったかによって、全く違う印象を与えることがわかります。

◆2011年11月7日 上毛新聞
http://www.jomo-news.co.jp/news/a/2011/11/06/news01.htm

 -八ツ場ダム是非 住民の意見聴取・国交省ー

八ツ場ダム建設の是非を決める検証作業の一環として、国土交通省関東地方整備局は6日、利根川流域住民から意見を聴く「意見聴取の場」を、本県と埼玉、千葉の流域3県の4会場で開いた。ダム案を「最も有利」とした整備局の総合評価などに対し、21人がダム推進、見直しなどさまざまな立場から意見を述べた。

 本県では長野原町の国交省八ツ場ダム工事事務所川原湯総合相談センターで開かれ、6人がそれぞれ15分間程度、意見を発表した。報道陣を含む約30人が傍聴した。

 長野原町の70代の男性は「一日も早く本体工事に着手してほしい。(中止の場合)ダムのために移転した人を帰らせてくれるのか。人の気持ちも入れて検証してもらいたい」などと早期完成を求め、国に注文を付けた。

 一方、「(ダム本体や代替地周辺の)地質災害の安全性がほとんど検証されてない」(渋川市の50代男性)、「危険なダムを次の世代に渡せない。原点に返って必要性を検討してほしい」(長野原町の40代女性)などと検証の問題点を指摘したり、やり直しを求める意見も出された。

 このほか、「ダムの規模を縮小する案が検討されず残念。予定通りの期間と予算で完成できる、災害の不安がない案を希望する」(前橋市の50代男性)などと語る出席者もいた。

 住民からの意見聴取は国交省の有識者会議が定めた検証手順の一つ。流域6都県の住民が対象で、8日までに3県4会場で計50人が意見発表する予定。

 整備局は今回の意見や、4日に実施した学識経験者の意見聴取、一般市民から募ったパブリックコメントなどを参考に、継続か中止かの対応方針案を決め、国交省に正式な検討報告書を提出する。

◆2011年11月7日 朝日新聞社会面 
http://www.asahi.com/special/minshu/TKY201111060320.html

 -八ツ場ダム賛否、住民が意見 1都5県21人思い出交えー

 群馬県の八ツ場(やんば)ダム建設の是非を検証する国土交通省関東地方整備局は6日、事業費を負担する1都5県の住民を対象に初めて直接意見を聴いた。群馬、埼玉、千葉各県の会場で応募した21人が発言。幼いころの思い出も交え、賛否両方の立場から意見を述べた。

 整備局が9月に公表した、河川改修などの代替案よりダム建設が効果的とする総合評価を受けて実施。昨秋始まった検証は最終段階を迎えており、前田武志国交相は年内に建設するかどうか判断する考えだ。

 「東日本大震災の後に、ダムに巨額の税金を使っていいのでしょうか。地元にも疑問に思っている子育て世代は少なくない」

 建設予定地の群馬県長野原町の会場。町内で雑貨店を経営する小林ミツ江さん(46)は静かに訴えた。

 小学生から20歳まで3人の子の母親。「ダムへの賛否で大人が争うのを見ながら育った」小林さんが、公の場でダムに対する意見を述べるのは初めてだ。

 ダムができれば水没する地区で暮らしてきた70代の両親は今夏、高台に転居した。転居先や建設予定地は活火山の浅間山から20キロ。火山灰でできた地盤の危険性も指摘される。「危険なダムと隣り合わせでは暮らせない。原点に返って必要性を検討して」と訴えた。

 行政と交渉している連合対策委員会事務局長の篠原憲一さん(70)はダム建設推進の立場から、「国交省の検証は、私たち素人には何をやっているのか理解できなかった」と言った。

 埼玉県久喜市の会場では、同県加須市消防団大利根団長の石塚昭英さん(67)が建設を求めた。

 1947年のカスリーン台風で利根川の堤防が決壊した恐ろしさを母から聞かされて育った。八ツ場ダム計画のきっかけになった、約1100人が亡くなった災害だ。「東日本大震災で、一つの安全策では対応できないことが明らかになった。安全に暮らすためにダムは必要」と話した。

 さいたま市の会場では、同県三郷市の水問題研究家の嶋津暉之さんが生活様式の変化などで水需要は減ったとし、「従来予測に基づく需給計画を容認した検証はおかしい」と指摘。

 「八ツ場ダムをストップさせる東京の会」の深沢洋子代表は「(事業主体の)国と都県で行った検証の合理性は疑問」と訴えた。

 千葉県香取市の会場では3人がいずれも建設反対で、「利根川の河川改修が後回しになっている」などと訴えた。

 意見聴取は8日までで、計50人が発言予定。整備局は国交省への報告書を作る際の参考にするという。

◆2011年11月7日 朝日新聞群馬版
http://mytown.asahi.com/gunma/news.php?k_id=10000581111070001

 --住民意見聴取 発表・傍聴 数える程度ー

八ツ場ダムの建設是非を再検証している国土交通省関東地方整備局は6日、長野原町など流域の4会場で関係住民から意見聴取を始めた。国に地元の意見を届ける絶好の機会だが、長野原町では発表者も傍聴者も数える程度。背景には、国への根強い不信感がある。

 国交省川原湯総合相談センターの座敷で行われた長野原町の意見聴取。住民は座って、国交省の3人に意見を15分ずつ述べた。会場の外は紅葉が見ごろで観光客でにぎわったが、会場内は傍聴者28人の大半が行政と報道の関係者だった。

 「計画通りの期間と予算で完成させて欲しいが、地滑りや自然災害の不安が指摘されている」。最初に発表した前橋市の若林正人さん(51)は県職員。約5年前に町内で勤務し、ダム問題に興味を持ったという。取材に「国交省の再検証は、ダムの有無の二者択一。地域再建に重点を置くべきだ」と話した。

 渋川市の元高校教諭中村庄八さん(59)は「吾妻川の中流に計画されている八ツ場ダムは川沿いに大きな断層が二つある。地盤ももろく、水をためると決壊のおそれがある」と、地質研究者の立場から現行計画を見直すよう主張した。

 水没関係5地区連合対策委員会で事務局長をつとめる篠原憲一さん(70)は「ダム建設の早期実現」を求めた。川原湯地区と前橋市に自宅がある岩佐明彦さん(59)は、昭和40年代からの地区の賛否をめぐる歴史を紹介。「八ツ場ダムを政治の道具に使うのはやめてもらいたい」と訴えた。

 見直しの立場で活動している高崎市の女性フリーライターと、町内の雑貨店経営女性も意見発表。8日の4人も含めて計10人の意見が整備局の検討報告書に匿名で掲載される。ただ流域全体の発表者は50人で、「地元の声」は2割にとどまった。(小林誠一)
     ◇
 「意見聴取で何を言っても仕方ない」

 川原湯温泉で老舗旅館「山木館」を営む樋田洋二さん(64)は地区のダム対策委員長だが、意見聴取に関心がない。関東地方整備局は9月に「八ツ場が有利」と総合評価を公表した。樋田さんは「その通り粛々とやってもらいたい」と話す。

 温泉街で飲食店を営む水出耕一さん(57)も、意見聴取に「地元は言うべきことはもう言った」と冷めている。前田武志国交相は年内の最終判断を示唆したが、民主党や学者グループには、再検証やり直しを求める声もある。「約束は守れ。地域や観光が疲弊しているのに、また議論を繰り返す気か」と憤る。

 温泉街に住む高齢女性は「『八ツ場ダムが最善』と(総合評価で)出たのだから、すぐ建設が始まるものと信じていた。裏切られた思いだ」と話す。野田政権に聞きたいことがあるという。「仮にダムを造らないなら温泉街をどうするのか。代替地に移らないなら『街』は壊れるが、先祖代々守ってきた人間の思いは、どうなるのか」

 一方、老舗旅館「高田屋」を休業して約1年になる豊田明美さん(46)は、地元参加が少なかったことについて「整備局の文書は専門的で、住民が読み込んで意見を言うのは難しいから」と理由を推測する。前半だけ傍聴し、万が一の自然災害が起きた際に国に補償させるための参考にしたいと思ったという。

 水没地区の林地区に住む町議の星河由紀子さん(69)は、参加の考えはあったが、日程が合わなかった。町議会でも「言うべきことは言ってきた。今さら主張することはない」という声は大きいという。

 いま訴えたいことは一つだけだ。「一日も早く、結論を出して欲しい。国や政党は、住民生活を政治の道具にしないで欲しい」(泉野尚彦、木村浩之)

◆2011年11月7日 朝日新聞埼玉版 
http://mytown.asahi.com/saitama/news.php?k_id=11000001111070001

 ー八ツ場ダム、県内でも意見聴取ー

◇「安全のため再開を」「堤防補修に予算を」

 利根川水系の八ツ場(やんば)ダム(群馬県)の建設の是非をめぐり、「有効性あり」とした国土交通省関東地方整備局の検証案に対する関係自治体住民の意見聴取が6日、県内でもさいたま市と久喜市であった。カスリーン台風の被災経験から建設を求める声や、前提となる利水・治水効果の数値への疑問など賛否が分かれた。

 建設では、流域の埼玉など6都県が負担金を支払うことになっている。同局があるさいたま市中央区のさいたま新都心合同庁舎の会場では6日、10人が15分ずつ意見を述べた。

 建設推進の立場では、環境NPO法人理事長ら3人が出席した。

 現在の加須市にあたる旧大利根町地域では1947年、カスリーン台風で利根川の堤防が決壊した。当時の洪水を経験したという女性は「堤防から一里離れた家までゴーゴーと音が響いた」と被害の様子を語り、治水の必要性を訴えた。

 柿沼トミ子・元町長は「堤防強化とダムは両輪。異常気象が続く中で、安心・安全のための手は全て打った方がいい。『有効』と明確になったからには、早期再開を」と求めた。

 一方、根拠となるデータへの疑問も相次いだ。

 市民団体「水源開発問題全国連絡会」の嶋津暉之共同代表=三郷市=は、節水型機器の普及などで水需要が減り、東京都の予測の年間約600万トンに対して実際は昨年500万トンを切ったと指摘。治水効果についても「過大に算定された」と批判し、「財政難だからこそ、放置されている危険な堤防の補修に予算を振り向けるべきだ」と訴えた。

 市民団体「八ツ場あしたの会」メンバーの河登一郎さん(76)=所沢市=は、「推進派は『検証で有効性が確認された』と言うが、前提条件がきちんと検証されていない。情報公開や意見交換で正しい認識を持つべきだ」と呼び掛けた。

◆2011年11月7日 毎日新聞埼玉版
http://mainichi.jp/area/saitama/news/20111107ddlk11010145000c.html

 -八ッ場ダム建設:国交省の検証結果、さいたまで公聴会 /埼玉ー

 建設の是非を検証している八ッ場(やんば)ダム(群馬県)について、代替案と比べて「ダム建設が有利」とした国土交通省関東地方整備局の検証結果に対する流域6都県の住民公聴会が6日始まった。

 県内2会場のうち、さいたま新都心合同庁舎(さいたま市中央区)では、10人が約15分ずつ意見を述べた。

 旧大利根町長の柿沼トミ子さんは「絶対的な解決策ではないが、国民の命を守るためあらゆる手立てを尽くして」と述べ、ダムの早期完成を求めた。

 一方、NGO団体の嶋津暉之共同代表は、水の使用量が減少傾向にあると指摘。「前提のデータが時代遅れで、形だけの検証」と主張した。【林奈緒美】

◆2011年11月7日 東京新聞群馬版
http://www.tokyo-np.co.jp/article/gunma/20111107/CK2011110702000061.html

 -割り切れぬ思い 八ッ場ダム公聴会ー

 八ッ場(やんば)ダム(長野原町)建設をめぐる公聴会が県内を含む三県の四会場で始まった六日。長野原町の会場では、地元住民らが賛成、反対では割り切れない複雑な思いや、ダム建設予定地の地質への不安を吐露した。 (伊藤弘
喜)

 同町の会場、国交省八ッ場ダム工事事務所川原湯総合相談センターでは六人がそれぞれ十五分の制限時間で発表し、うち二人が町内在住だった。水没予定地からの発表者はいなかった。

 八ッ場ダム水没関係五地区連合対策委員会の篠原憲一さん(70)=同町林=は「一日も早く本体工事に着手を」とダム建設を要望する一方で「仮にダムが中止になったら故郷から出ていった人たちは戻れるのか。買い取られた土地を売ってくれるのか」と問い、「(反対派は)岩盤が弱い、水が悪いと言うが、私たちも長い間反対してきた。もっと早ければ一緒になっていた」と振り返った。

 水没予定地出身の町内の女性(46)は、ダム建設予定地の地質の危険性を主張する専門家の言葉を引いて、「こんな危ないダムの近くで幸せに暮らせるのか。吾妻渓谷ほどの自然を壊していいのか」と疑問を表明した。

 意見聴取の後、女性は報道陣にダムの賛否を聞かれ、「どちらかというと否だ。ほかの人もそう思っていても言えず、隠れキリシタンみたいなところがある。最後の機会だと思った」と発表に踏み切った動機を語った。

 ほかにはダム計画の縮小を提案する県職員やダム予定地の上流で検出されたヒ素を問題視するフリーライターらが発表した。

 同会場での意見聴取は八日午後二時からも開かれ、四人が発言し、傍聴できる。寄せられた意見は後日、関東地方整備局のホームページで公表される。

(写真)意見聴取を終え、取材に応じる篠原憲一さん=長野原町で

◆2011年11月7日 読売新聞群馬版
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/gunma/news/20111106-OYT8T00959.htm

 -八ッ場推進派「着手いつ」 地元公聴会反対論、冷めた声もー

 八ッ場ダム再検証の一環で6日から始まった利根川流域6都県住民から意見を聴く公聴会。地元・長野原町の会場では、県内の6人が意見陳述を行ったが、推進派の多くが参加を見送った。一方で、地元では建設反対を口にしにくい雰囲気があるとされる中、町内の自営業女性(46)がきっぱりとダム反対を表明。継続か中止か、国の検証作業が佳境に入り、推進派と反対派の双方がダム問題の行く末に気をもんでいる。

 公聴会は、水没予定の川原湯温泉街にほど近い国土交通省八ッ場ダム工事事務所川原湯総合相談センター(長野原町)など、群馬、埼玉、千葉3県の4会場で開かれ、初日は21人が参加。同センターを訪れた6人は、推進(1人)、反対(3人)、中立(2人)の立場から、それぞれの思いをぶつけた。

 推進派から唯一、参加した水没関係5地区連合対策委員会事務局長の篠原憲一さん(70)は、「一日も早く本体に着手してほしいのが住民の気持ちだ。ダムが出来ないなら、町を出た人を帰らせてくれるのか、そういう人の気持ちも入れて検証してほしい」と訴えた。

 建設反対の立場で活動し、八ッ場ダムに関する著作もある鈴木郁子さん(63)(高崎市)は、ダム建設を「最も有利」と評価した国交省関東地方整備局の検証報告の素案に対し、「現地の実態が書いておらず、ダムありきの机上の空論」と批判。代替地は地滑りの危険性があると主張し、「住民には不安がある。経費もさらに増えるのではないか」と指摘した。

 また、自営業女性も「地滑りで危険なダムの近くでは安心して暮らせない」と不安を訴え、「温泉や渓谷をダムに沈めれば、川原湯は、草津温泉や万座温泉の通過点になる。そこまでして建設の意味があるのか。若い世代の方が自然を残したいという意見が多い」と述べた。

 一方、「中立」として参加した県職員、若林正人さん(51)(前橋市)は、これまでダム事業とは無縁の部署で勤務し、「ダムはあっても無くてもいい」という立場。公聴会では「八ッ場ダムは、利根川を総合的にコントロールする目的で始まったが、総貯水量が大きすぎる。ダムの規模を縮小する方向への検討があってもいい」と提案した。

 傍聴した農業小池房丸さん(79)(東吾妻町)は、ダム事業に伴う道路建設で大切な農地を供出した一人。「長野原町の友人と一緒に苦しい決断をした」だけに、一言も聞き漏らすまいと会場に一番乗りした。しかし、反対派がダム事業を徹底的にこき下ろす様子に「勝手なことばかり言っていた。自分たちをアピールしたいだけではないか」と憤っていた。

(写真)公聴会を迎えた6日、ふだんはひっそりとしている川原湯温泉街も、紅葉目当ての客の姿が見られた(長野原町で)

◆2011年11月7日 読売新聞埼玉版
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/saitama/news/20111106-OYT8T00850.htm

 -「八ッ場」意見の溝大きく 建設巡り県内でも公聴会ー

 政府が建設継続の是非を検討している八ッ場(やんば)ダムについて、国土交通省関東地方整備局は6日、流域6都県の住民らを対象にした公聴会を、群馬、埼玉、千葉各県の計4会場で開いた。継続と中止の意見の溝の大きさが、改めて浮き彫りとなった。

 さいたま市中央区のさいたま新都心合同庁舎では、1人15分を目安に、計10人が意見を述べた。埼玉県は利根川中流域に位置しており、ダム整備による治水効果や、渇水時の利水機能としての必要性が論点となった。

 出席者からは「時間はかかったが、水源地の協力が得られた。やっとここまで来たのに、なぜやめなければならないのか。(建設棚上げの)2年間に深い憤りを感じる」「利水上、本当に必要なのか。節水トイレなどの普及で、首都圏の給水量は減り続けている。計画は現実性がない」などの意見が出た。

 今後、同整備局は、流域6都県の知事などの意見も聞く。上田知事は治水効果などを期待し、建設中止に反対している。

 一連の意見聴取を受けて、前田国交相は、2012年度予算編成作業が大詰めを迎える年末までに判断する見通しだ。

 八ッ場ダムは、住民が建設予定地からの移転を済ませ、本体工事が目前となった2009年、民主党が衆院選マニフェスト(政権公約)で無駄な公共事業と指摘。同年、当時の前原国交相が建設中止を表明した。

これに立地自治体が反発。国交省は、ダムによらない治水方法の検証を始めたが、大臣交代もあり、結論が遅れていた。関東地方整備局は今年9月、コストなどの面から「ダム建設が最も有利」とする検討報告書素案を公表した。

◆2011年11月6日 毎日新聞
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20111106-00000032-mai-soci

 -<八ッ場ダム>住民の参加低調…素案まとまり公聴会ー

 建設の是非について検証中の八ッ場(やんば)ダム(群馬県長野原町)を巡り「ダム建設がもっとも有利」とする国土交通省関東地方整備局の報告書素案がまとまったことを受け、同整備局は6日、同素案への意見を求める住民公聴会を始めた。

 8日までの3日間、群馬、埼玉、千葉の3県4会場で、事前に応募した計50人が意見を述べる。

 初日は4会場で計21人が意見陳述した。このうち地元・長野原町の会場になった国交省八ッ場ダム工事事務所川原湯総合相談センターでは6人が参加。ダム推進派を代表し、ダム水没関係5地区連合対策委員会の篠原憲一事務局長(70)が、反対闘争など半世紀以上の歴史を振り返り「ダムができなければ、ダム建設に協力し、思い出深い故郷を去った住民の苦労や時間が無駄になる」と訴えた。

 一方、水没予定地出身の女性(46)は匿名で発言。ダムが建設されれば国指定名勝の吾妻渓谷の一部が水没するとして「この自然を私たちの世代で壊していいのか」と計画に疑問を投げかけた。

 発言資格があるのは関係1都5県在住者で発言時間は1人15分以内。地元会場では3日間で計72人分を確保していたが応募したのは10人と低調だった。

 水没予定地内で飲食店を営む男性(56)は「報告書素案が既にまとまった後で、住民が何を言っても変わらないと思ったからではないか」と話した。【奥山はるな】