2011年11月13日
利根川流域の四ヶ所で開催されてきた八ッ場ダム検証に関する公聴会が11月8日に終了しました。
公聴会についての新聞報道は、地元の群馬版ではそれなりのスペースが割かれたものの、全国版には僅かしか載りませんでした。
どの会場でも、意見陳述は八ッ場ダムの検証結果に批判的な見解が圧倒的に多かったのですが、新聞報道ではバランスに配慮したのか、行政に遠慮したのか、同じ比重で取り上げています。
行政に反対意見を述べるということは勇気の要ることです。かつて地元がダム反対闘争一色であった頃、行政は地元の見解など一切おかまいなしでした。ダム事業に異を唱える人々は、昔も今も行政にとっては邪魔な存在です。政権交代後、民主党政権を批判する地元住民の声が大きくクローズアップされるようになりましたが、地元では、行政にとって都合がよいからマスコミが取り上げるのだという冷めた見方もあります。
今回の公聴会についての紙面では、新聞によっては「傍聴席に陣取る反対派」などの表現も見られますが、ダムに反対の考えを持った人々が示し合わせて会場に行ったわけでも、同じ考えの人々が「陣取っていた」わけでもありません。それぞれの人が自らの意思で会場に足を運んだものの、「反対派」といわれる人々の数も数人でしかありませんでした。
新聞報道は一様に地元住民の参加が少なかったことを報じていますが、ダム賛成派にすれば思い通りの「働き」をしてくれている国交省関東地方整備局に「意見」することなどないでしょうし、ダムに反対の考えをもつ住民にすれば、国交省の会場に足を向けることすら気が重いことです。しかも受付では、職員がズラリと居並ぶ前で名前と住所を書かなければなりません。国家権力が行使される八ッ場ダム計画という国策の下で、一般国民がいかにプレッシャーを感じるものか、賛成、反対を問わず住民の心情は言葉に表せない複雑なものがあります。
群馬県内で唯一の会場であったJR川原湯温泉駅前の会場は、八ッ場ダムの地元住民の相談センターで、室内は畳敷きでした。8日の公聴会では、傍聴者から「推進」「反対」の双方の意見陳述に対して温かい拍手が送られました。
マスコミは「賛成派」と「反対派」という「二項対立」を好んで描き出す傾向がありますが、現実はそれほど単純ではありません。新聞報道と現場とのギャップを改めて印象づけられた公聴会でした。
◆2011年11月9日 読売新聞群馬版
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/gunma/news/20111109-OYT8T00027.htm
-「ダムやめ生活再建に」「中止なら全て水泡」 八ッ場町の将来で激論公聴会最終日 反対・推進町議が陳述ー
(写真)公聴会終了後、ダム問題について議論する推進派町議の豊田さん(右)と反対派の鈴木さん(左)(8日午後、長野原町で)
八ッ場ダムの再検証を巡り、利根川流域1都5県の住民から意見を聞く公聴会は8日、最終日を迎え、地元・長野原町の会場では、推進派と反対派の町議が、それぞれ町の将来を憂える立場から意見を戦わせた。
この日、国土交通省関東地方整備局がまとめた検証報告の素案に対し、意見表明したのは、町議2人と市民団体「八ッ場ダムをストップさせる群馬の会」のメンバー2人。ダム建設の是非については、推進1人、反対3人に分かれた。
口火を切った反対派町議の牧山明さん(54)は利水、治水の検証方法に疑問を示し、ダム湖に土砂がたまる堆砂(たいしゃ)の予想についても「専門家の試算では、50年後には夏季の利用水量が半減し、80年後にはなくなる」と指摘。「補償交渉妥結後、激しく人口流出したが、なすすべもなく至った行政の責任は重い。ダムをやめて全ての予算を生活再建に注ぐべきだ」と主張した。
ストップさせる会代表の真下淑恵さん(63)(沼田市)も「検証は、できるだけダムに頼らない治水への政策転換で始まったのに、素案は目的に沿っていない」と批判。3県4会場で行われた公聴会について、「意見陳述は反対の方が多く、これが国民の声。(ダムに)賛成の方はどうして意見を発表しないのか」と呼びかけた。
これに対し、推進派町議の豊田銀五郎さん(73)は「ダムは59年目。(住民は)ダムに疲れ、翻弄され続けた」と、会場に不在の推進派の気持ちを代弁。傍聴席に陣取る反対派に視線を向けて、「時間があれば、皆さんとも対話したいが、中止を言うなら20年前に言っていただきたい。(建設受け入れは)みんなよく考えての結論だ」と強調した。
「中止すれば、失われた59年の私たちの人生も、貴重な税金も含めてダム事業に費やした全てのものが水泡に帰す」。最後にそう語った豊田さんは、公聴会終了後も、会場の外で、反対運動の立場で八ッ場ダムの著作もある鈴木郁子さん(63)らと30分近く議論を戦わせ、ダムを受け入れた地元の決断の重みを訴え続けた。
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同整備局は、6~8日に開催した公聴会で計51人から意見を聴取。今後、1都5県など関係自治体、利水事業者から意見を聞き、公聴会などの結果と合わせて検証報告案を作成し、同整備局の事業評価監視委員会に諮った上で、本省に報告する。本省では、東日本大震災を踏まえた新たな検証と有識者会議の検討が加えられ、前田国交相の最終判断を待つことになる。
◆2011年11月9日 東京新聞群馬版
http://www.tokyo-np.co.jp/article/gunma/20111109/CK2011110902000092.html
-八ッ場ダム公聴会最終日 県内4人、賛否の意見ー
八ッ場(やんば)ダム(長野原町)建設の是非を検証する作業の一環として、三県の四会場で六日から開かれていた公聴会は八日、最終日を迎えた。長野原町の会場では同町議や市民グループのメンバーら県内の四人が意見を述べた。 (伊藤 弘喜)
水没予定地から二年前に移転した豊田銀五郎町議(73)=同町横壁=は「犠牲になった人生、費やされた金が水の泡になる。ダム建設を進めて」と主張。専門家が指摘する地滑りの危険性については「不安が解消されるまでは(ダムに)水をためさせない」と力説した。
このほかは反対意見が相次いだ。牧山明町議(54)=同町応桑=はダムを必要とする根拠が利水、治水の両面ともになく、ダム関連の予算は「すべて生活再建に注ぐべきだ」と主張。太田市の男性は「第三者機関で客観的な検証を」と訴えた。
「八ッ場ダムをストップさせる群馬の会」の真下淑恵代表(63)=沼田市戸鹿野町=は「人口減少や少子高齢化を踏まえ、税金の使い道を大きく変えるという本来の目的に沿った検証が行われていない」と批判した。
公聴会は埼玉、千葉を含む三県の四会場で計五十一人が発表。長野原町では六日と八日に計十人が発表した。
◆2011年11月9日 毎日新聞群馬版
http://mainichi.jp/area/gunma/news/20111109ddlk10010139000c.html
-八ッ場ダム建設:関心の低さ浮き彫り、最終日の傍聴10人--住民公聴会終了 /群馬ー
八ッ場ダム建設の是非を検証中の国土交通省関東地方整備局が、6日から3日間の日程で開催した住民公聴会は8日終了した。県内会場の長野原町ではこの日、4人が意見陳述したが、傍聴者はわずか約10人。今回の住民公聴会に対する地元住民の関心の低さが改めて浮き彫りになった。
住民公聴会は同整備局が「ダム建設がもっとも有利」とする報告書素案をまとめたことを受け、関係1都5県の住民から意見を求めるために行われた。県内会場の川原湯総合相談センター(同町川原湯)では6日に6人、8日に4人が意見陳述。ダム建設反対は5人、賛成2人で、残る3人は賛否を明言しなかった。
8日は「八ッ場ダムをストップさせる群馬の会」から真下淑江代表(63)ら2人が意見陳述し、真下代表は「地滑りの危険性など、ダムの負の側面を検証してほしい」と述べた。牧山明町議(54)は「速やかにダムを中止し、予算を生活再建に注ぐべきだ」と訴えた。一方、ダム推進の立場で豊田銀五郎町議(73)が「中止すれば、これまでかけた金も人的犠牲も水の泡になる」などと語った。
同整備局は今後、聴取した意見も参考にして報告書を作成し、国交省に提出する。前田武志国交相は建設の是非を年内に判断する考えを示しているが、民主党内の意見集約を困難視する見方も出ている。【奥山はるな】
◆2011年11月9日 朝日新聞群馬版
http://mytown.asahi.com/gunma/news.php?k_id=10000581111090001
-2町議ら4人も訴え 住民意見聴取ー
八ツ場ダムの再検証で、国土交通省関東地方整備局による関係住民の意見聴取が8日、長野原町川原湯の国交省施設であった。最終日は、町議2人と見直し派市民団体メンバー2人が発表。6日に発表した6人分と合わせ、整備局のホームページで公表するという。
牧山明町議(54)=同町応桑=は、町議会では数少ない建設反対派だ。八ツ場ダムをつくっても、砂がたまって約30年で利用できなくなるという研究者の主張を紹介。整備局職員に「川原湯温泉の寂れた実態を見て欲しい。すぐにダムをやめ、生活再建に全力を尽くすべきだ」と訴えた。
豊田銀五郎町議(73)=同町横壁=は、代替地に移転済みで賛成の立場。「直ちに検証を終え、着工を」と求めた。地滑りの危険性が指摘され、地元は揺れる。「不安を解消しなければ、水はためさせません」と注文も付けた。