八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

「科学者の会」より国交省有識者会議へ公開討論申し入れ

2011年11月21日

 11月1日に「八ッ場ダム検証の抜本的なやり直しを求める声明」を公表した科学者11名が、新たに「ダム検証のあり方を問う科学者の会」を立ち上げ、11月18日に国交省の有識者会議に対して、公開討論会の申し入れを行いました。

 「科学者の会」から国交省有識者会議への公開討論申し入れの要請書と呼びかけ人11名、賛同者122名のお名前は、こちらに掲載しています。↓
 https://yamba-net.org/wp/38896/

◆2011年11月19日 読売新聞群馬版
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/gunma/news/20111119-OYT8T00098.htm

 -反対派学者有志呼びかけー

 八ッ場ダム(長野原町)再検証を巡り、国土交通省関東地方整備局の検証手法に異議を唱える学者有志が18日、「ダム検証のあり方を問う科学者の会」を結成し、検証手順を決めた「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」の委員9人に公開討論会へ出席するよう要請した。

 記者会見した同会共同代表の今本健博・京大名誉教授(河川工学)は「有識者としての良心と名誉を持って、かかって来てほしい」と“挑戦状”をたたきつけた。

 賛同者が132人に増えた同会は、今回の検証の問題点として、〈1〉水需要が増加するとの架空予測を容認〈2〉八ッ場ダムの治水効果を過大評価〈3〉想定以上の自然災害のリスクを無視――の3点を列挙し、委員側と公開で議論したいと主張。

 12月1日に設定した開催期日は、委員側の都合に応じて変更するが、今月25日までに出欠を回答するよう求めている。全員欠席で討論会が成立しない場合は、公開質問状を提出し、前田国交相に陳情する。

 今本氏は会見で、有識者会議が非公開で行われていることについて、「日本の河川をこれからどうするのかという大事な議論を密室で行って良いのか。公開して知恵を結集して行うべきだ」と批判した。

◆2011年11月19日 東京新聞群馬版 
http://www.tokyo-np.co.jp/article/gunma/20111119/CK2011111902000092.html

 八ッ場ダム検証の抜本的なやり直しを求める声明を先月末に発表した学者有志らが十八日、「ダム検証のあり方を問う科学者の会」を発足させ、ダム検証の枠組みを決めた国交省の「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」に対して公開討論会を要請した。

 同会の代表、今本博健・京都大名誉教授(河川工学)ら五人はこの日、国交省河川計画課を訪れ、公開討論会への参加を求める要請書を、有識者会議の委員九人に届けるよう申し入れた。

 公開討論会は十二月一日に予定。今本氏は記者会見で「科学者の良心に従って公開の場に出てきて議論してほしい」と呼び掛けた。 (伊藤弘喜)

◆2011年11月19日 東京新聞「こちら特報部」

 -八ッ場「脱ダム」どこへ? ”水膨れ”1兆4000億円 官僚主導 推進ありき 科学者の会「検証は恣意的、公開討論を」 利根川水系治水費込み ダムだけで6380億円 「既成事実化の狙い」 

 八ッ場(やんば)ダム(群馬県長野原町)の建設をめぐり、国土交通省が着々と前田武志国交相にゴーサインをもらう方向で手続きを進めている。民主党政権が当初「脱ダム」を掲げ、不要な事業の筆頭に挙げていたが、税金はどれほど投入されるのか。ダムの総事業費は約四千六百億円からさらに膨れあがることが判明。関連する利根川水系の治水事業費を合わせると、何と一兆四千億円近くに上る見通しだ。 (小倉貞俊、秦淳哉、前橋支局・伊藤弘喜)

 完成までに必要になる費用は、本年度以降だけでも治水、利水合わせて「八千九百億円」-。これは、国交省関東地方整備局が八月に公表した「八ッ場ダム建設事業の検証に係る検討報告書(素案)」で明らかになった数字だ。
 八ッ場ダムの総事業費は四千六百億円だ。同整備局によると、着工から二〇一〇年度末までに投じられたのは、総事業費の八割弱に当たる三千四百八十億円。となると本年度以降の残額は千百二十億円になるはずだが、どうしてこんな金額が出されたのか。
 まず、八ッ場ダム関連で新たな経費が派生したためだ。ダム湖周辺の地滑りの恐れが指摘されてきたが、その補強工事と地元住民が移転する代替地の安全対策で、約百四十九億円。また、民主党がダム事業を凍結し、工事が遅れたことに伴う人件や事務費など約百五十五億円が追加されることになった。=一覧参照

 【八ッ場ダムと河道改修などにかかる総事業費】

八ッ場ダム事業費 4578.3億円

新たな負担内容
 地すべりや代替地の対策工事費 149.3億円
 工事遅延(3年)に伴う人件・事務・維持費、猛きん類の継続調査費など 55.3億円
 代替地整備費 約100億円

利根川水系の治水関連費
 河道改修・ダム再編・烏川調節池(堤外)・調節池機能アップ 約7600億円

水源地域整備事業費 997億円

利根川・荒川水源地域対策基金 249億円

東京電力の水力発電の補償費 1兆3978.9億円

 加えて、ダム建設と合わせて整備されることになる、利根川水系の河道改修費など約七千六百億円が計上される。
 この工事は、利根川に烏川が合流する周辺(高崎市)に遊水地「烏川調整池」を新設し、利根川の堤防を高くしたり、河道を掘削したりするという内容。上流にあるダムの容量も再編する。洪水時の目標流量を安全に流すのが目的だ。
 同整備局河川計画課の小宮秀樹・建設専門官は「ダム建設のほか、堤防整備などにより洪水が抑えられる。両者はセットになる」と説明する。
 この利根川水系の治水関連費が工事の具体的な計画とともに示されたのは今回が初めて。金額は十分な議論や精査がなされたとは言いがたい。
 ほかに、八ッ場ダム事業費以外の周辺環境整備のための費用もある。小中学校の建設費や生活再建のために国や流域の一都五県が負担する「水源地域整備事業費」が九百九十七億円。これでも賄えない分として「利根川・荒川水源地域対策基金」の二百四十九億円も充てられることになる。
 
 「これだけではすまない。もっと膨らむ可能性はある」と懸念するのは水源開発問題全国連絡会の嶋津暉之共同代表だ。
 そもそも八ッ場ダムは当初の総事業費が二千二百十億円だったが、〇三年に突然、倍以上に増額された経緯がある。嶋津氏は「今回、追加の費用が分かった地滑り対策費などは、もっと増える可能性がある。工期も延びているのも心配だ」。
 またダム湖に水をためれば、下流にある東京電力の水力発電所の水量が減り、発電量が落ちる。このため、国が東電に支払う「減電補償金」もある。同整備局は金額を明らかにしていないが、嶋津氏の試算では、約二百五十億円に上るという。
 利根川分を除く八ッ場ダムの総事業費は関連を含め約六千三百八十億円にも及ぶ。嶋津氏は「『小さく産んで大きく育てる』という、悪しきダム事業の典型パターンと警戒する。

 あまりにも官僚ペースで進む検証結果に対し、専門家から疑問の声が上がっている。「ダム検証のあり方を問う科学者の会」(代表・今本博健京都大名誉教授)は十八日、国交省を訪れ、ダム事業の検証を行った有識者に公開討論会を求める要請書を出した。検証が正しいかどうか公開の場で決着をつけようと「挑戦状」をたたきつけた形だ。
 同会メンバーは今月一日にも国交省に検証のやり直しを要求。しかし何の進展もなく、「このままでは無視されてしまう」と危機感を強め、あらためて要請した。
 要請書では「ダム検証の目的は『できるだけダムに頼らない治水』への政策転換が趣旨。しかし、八ッ場ダムは内容が恣意的で非科学的な検証となっている」と指摘。
 その上で、利水面で水需要が今後も右肩上がりで増えるという架空の予想を認めている▽治水面では代替案の事業費が跳ね上がるように、八ッ場ダムの効果を過大に評価しているーなどと主張する。
 今本氏は「有識者会議は非公開で議事録を見ても誰が発言したか分からない。委員もマスコミとの接触を絶つよう要請されるなど密室性が高い。むしろ今後の日本の川をどうするかの議論を公開し、知恵を結集することが必要だ」と話す。
 大熊孝・新潟大名誉教授は「検証は八ッ場ダムの建設を進めた場合の残事業費と、八ッ場ダムと同じ効果を持たせた事業を最初からやった費用を比較している」と前提条件を疑問視して語る。
 「ダム検証は全国的に同じ方法だが、ある程度進んだ事業では残事業費は少なく、別の方法を採用すれば高額になる。どうしてもダムを造りやすい仕組みになっている」
 八ッ場ダムと利根川水系関連の総事業費は、先に見たとおり予想を超えて膨大だ。大増税を控えて、河川事業はまさに「金食い」の感もある。

 八ッ場ダムの問題を追及してきたジャーナリストのまさのあつこ氏は「河道改修などの予算負担は、ダムに関係する一都五県の合意さえ取れていない。国交省が事業拡大を既成事実化するため、この機会に意図的に数字を膨らませた」と批判し、こう続けた。
 「事業推進者側が主体となった有識者会議の検証結果は、最初から結論がダム推進になることが分かっていた。(有識者という)根っこが腐っていれば、(検証結果という)花も腐るということだろう」