国交省の「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」は、民主党政権下で全国のダム検証のルールを定めるという重要な役割を果たしました。
昨夏にまとまったこのダム検証のルールにのっとって、八ッ場ダムは国交省関東地方整備局に検証作業が委ねられました。
ダム事業の主体がダム検証を行うというルールは、有識者会議によって定められましたが、実質的には有識者会議の事務局を務める国交省の河川計画課によって作成されたといわれます。国交省みずからが都合の良いルールを作ったというのでは世間に示しがつかないので、有識者会議の権威を借りたわけです。
有識者会議は関東地方整備局の検証結果をチェックする役割があるのですが、チェックの対象は、ルールにのっとっているかどうかということだけで、検証内容そのものではありません。有識者会議は本来、行政をチェックするために設けられるものですが、会議の構成メンバーは常に役所が人選しますので、役所にとって都合のよいメンバーが選ばれます。福島原発事故で有名になった”御用学者”がはびこる所以です。
「ダム検証のあり方を問う科学者の会」では、国交省の有識者会議に公開討論会を申し入れましたが、有識者会議の中川座長は国交省の河川計画課を通して、公開討論拒否の回答を伝えました。
公開討論会の日程は12月1日でした。「科学者の会」では、予定通り、ダムに懐疑的な学識者たちのみで公開討論会を開催しました。一方、国交省の有識者会議の方は、同日、八ッ場ダムを対象とした会議を開きました。公開討論会と有識者会議の開始時刻は1時間ずれていただけです。
有識者会議は12月1日の会議で、関東地方整備局の検証結果を了承しました。会議では、ダムの検証結果を問題視してきた鈴木雅一委員や森田朗委員が検証結果に対してかなり厳しい意見を述べたということですが、中川座長はこれを聞き置くだけで、八ッ場ダムの検証結果は問題なしとまとめました。
委員から出された疑問の声は、国交省のホームページに掲載された議事要旨ではカモフラージュされています。
http://p.tl/FLV0
国交省の本省が関東地方整備局から検証結果の報告を受けたのは、有識者会議の前日の11月30日でした。他のダム事業の場合は、検証結果を受けた本省が問題点を整理して、有識者会議の各委員に資料を提供し、資料を読み込む時間をとった後に会議が開かれるのですが、八ッ場ダムの場合は、そのような手順はすべてカットされました。
「科学者の会」では12月1日、有識者会議に対して抗議声明を発表しました。↓
https://yamba-net.org/wp/modules/news/index.php?page=article&storyid=1455
有識者の名簿は以下の通りです。会議は毎回非公開で、議事録は何ヶ月もたたなければ公表されません。公表された議事録でも、発言者の名前が伏せられています。どの委員が官僚におもねり、国民の利益に反する発言をしているかは巧妙に隠され、責任を問われることのない仕組みになっています。
座長 中川博次京都大学名誉教授
委員
宇野尚雄岐阜大学名誉教授
三本木健治明海大学名誉教授
鈴木雅一東京大学大学院農学生命科学研究科教授
田中淳東京大学大学院
情報学環総合防災情報研究センター長・教授
辻本哲郎名古屋大学大学院工学研究科教授
道上正規鳥取大学名誉教授
森田朗東京大学公共政策大学院教授
山田正中央大学理工学部教授 (敬称略、五十音順)
◆2011年12月1日 日本経済新聞
http://p.tl/m5r9
-八ツ場ダムで有識者委初会合 国交省ー
国土交通省は1日、八ツ場ダム(群馬県長野原町)の建設の是非を巡り、有識者会議を開いた。
国交省は関東地方整備局が「建設続行が妥当」とした検証結果について、有識者委は検証作業が適切に行われたと評価した。
来週の会合では東日本大震災を踏まえたダムのあり方を議論する。有識者会議や民主党の議論を踏まえ、前田武志国交相が年内にも建設継続か中止かを最終判断する。
1日の会合では、河川改修などの代替案に比べて、ダム建設が利根川流域の治水や利水で最も効果的として、建設を続行すべきだとした整備局の報告について議論。有識者会議が昨年まとめた手法で正しく検証がなされていると判断した。
◆2011年12月2日 上毛新聞
http://www.raijin.com/news/a/2011/12/02/news02.htm
-八ツ場建設継続問題なし 国交省有識者会議が認定ー
八ツ場ダム建設の是非を決める検証作業で、全国のダム事業の検証手順を定めた国土交通省の有識者会議が1日、都内で開かれ、「建設継続が妥当」とする対応方針案をまとめた国交省関東地方整備局の検証手順に問題がないことを認定した。
次回、東日本大震災を踏まえた審議を行って検証の全工程が終了し、前田武志国交相が年内に建設の是非を最終判断する見通し。
水工学などの研究者ら委員8人と前田氏ら政務三役が出席。前田氏が冒頭、「八ツ場ダム問題は最終段階に近づいてきた」とあいさつし、審議を2回に分けることを説明した。
国交省側は整備局が1年かけた検証の経緯を報告した。委員側は治水面の検証の前提として整備局が設定した洪水規模、各自治体の水需要予測の妥当性などを確認。座長の中川博次・京都大名誉教授が「(検証手順の)基本的な考え方に沿って行われた」と認めた。
次回の審議は、前田氏が大震災後に追加した検証手順で、国交省の事務次官らでつくる専門チームが東日本大震災級の大災害がダムに及ぼす影響などに関する資料を提出し、委員の意見を聴く。
1日の審議でも、水没地区住民が移転する代替地の安全基準について、大震災を踏まえた見直しの必要性を指摘する声などが上がった。
◆2011年12月2日 朝日新聞群馬版
http://mytown.asahi.com/gunma/news.php?k_id=10000581112020001
-八ツ場ダム 建設、最終検討へ 有識者会議始まるー
八ツ場ダムの再検証で、国土交通省の「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」(座長=中川博次・京大名誉教授)が1日、始まった。年内とした前田武志国交相の最終判断に向け、建設是非の最終検討をする。
有識者会議は「建設継続が妥当」とした同省関東地方整備局の報告について、再検証の仕組みには沿っていると了承した。だが森田朗・東大大学院教授が「パブリックコメント(国民の意見)で水需要に対する疑問が相当出た」と述べるなど、疑問が続出した。
大震災や浅間山噴火についての議論は次回以降になった。
民主党の国土交通部門会議八ツ場ダム問題分科会も1日、4回目となる会合を非公開で開いた。座長の松崎哲久衆院議員によると、この日も出席議員は15人程度だった。座長が5日予定の次回会合までに分科会の意見をまとめることを申し合わせた。党執行部に提案したい考えだが、意見が幅広く、方向性は決まっていないという。
一方、前田国交相はこの日、参議院の国土交通委員会で、有識者会議の提言が次回にまとまる見通しを示唆した。分科会の議論には「重要視して慎重に見守る」と述べた。