2011年12月17日
八ッ場ダムが仮にできた場合は、どれぐらいの年数使えるものなのでしょうか。
ダムの寿命を左右する重要な要素の一つに堆砂の問題があります。ダム湖には上流域から流れ込んでくる土砂が次第に堆積していきます。ダム計画では100年分の堆砂見込み量をダム湖に確保することになっています。これを堆砂容量といいます。
堆砂がダム湖にたまってゆくとすれば、100年間は有効貯水容量が土砂の堆積で喰われることがなく、ダムの機能を維持できるという考え方です。八ッ場ダムの場合は、100年分の堆砂容量が1,750万立方メートルとされてきました。
ダムの堆砂の見込みが過少で、実際の堆砂量が計画量を上回る場合は、100年を待たずに有効貯水容量が堆砂で侵食され、ダムの機能に支障が生じるようになります。全国のダムの堆砂状況を見ると、堆砂実績量が計算見込み量を上回っているダムが多くなっています。
では、八ッ場ダムの場合はどうでしょうか。
八ッ場ダムの堆砂見込み量は明らかに過少です。これまで公表されてきた八ッ場ダムの堆砂見込み量は、土木研究所の方法など三つの一般式で求めた結果の平均値をベースにしており、利根川水系に建設されてきたダムの堆砂実績は反映されていません。
では、八ッ場ダムと同じ利根川水系にすでにあるダムの堆砂進行状況はどうなのでしょうか。ダムへの土砂流入量は、ダムの集水面積が広いほど大きくなるので、集水面積あたりの年平均堆砂量(比堆砂量と呼びます)で各ダムの堆砂速度を判断できます。利根川水系のダムの年平均堆砂量は集水面積1平方キロートル当たり511~677立方メートルですが、八ッ場ダムの年平均堆砂見込み量は247立方メートルで、前者の約三分の一から二分の一にすぎません。
八ッ場ダムと同規模の下久保ダムの比堆砂量は664立方メートルと、八ッ場ダムの堆砂見込み量の2.7倍にもなっています。ところが、下久保ダム上流は秩父古生層の硬い岩石が多いのに比べ、八ッ場ダム上流には浅間山、草津白根山などの活火山があり、未固結の土砂が多い地質です。こうした地質の差を考えれば、比堆砂量は下久保ダムより八ッ場ダムの方が大きくなると考える方が自然です。
国交省関東地方整備局が11月30日に本省に報告した八ッ場ダムの検証では、八ッ場ダムの堆砂計画量の再計算が行われました。国交省のホームページに掲載されている検証結果の報告書を見ると、堆積計画について説明と資料があります。しかし、それは現計画の1750万立方メートルに近い数値を出すために、あたかも科学的な計算をしたかのように装ったものにすぎず、むしろ、今回の検証の資料から八ッ場ダムの実際の堆砂量がはるかに大きくなる可能性が高いことが明らかになりました。
国交省関東地方整備局ホームページより
「八ッ場ダム建設事業の検証に係る検討報告書」
http://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000050264.pdf
堆砂計画の点検 4-7~4-8
http://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000050285.pdf
資料
今回の検証では、次の手順で現計画の1,750万立方メートルに近い約1,792.9万立方メートルが求められています。
① 近傍類似ダムとして,霧積(きりづみ)ダム(碓氷川の支流)、湯川ダム(長野県)、菅平ダム(長野県)を選定し、それから推定して八ッ場ダムの比流砂量を555立方メートル/k㎡/年とする。
(流砂量とはダムに流れ込む土砂量のことで、そのうち、ダムに堆積したものが堆砂量となる。)
② 八ッ場ダム貯水池の河床変動計算を100年間について行ったところ、100年後の堆砂量は1792.9万立方メートルとなった。(比堆砂量は252㎡/k㎡/年)
しかし、これはまことにおかしな計算です。
①では近傍の霧積ダム(比堆砂量717)では大きくなりすぎるので、堆砂実績量が小さい長野県の湯川ダム(比堆砂量201)、菅平ダム(比堆砂量290)をわざわざ入れて、八ッ場ダムの比流砂量を555㎡/k㎡/年としています。
さらに、②では複雑な河床変動計算によって、比流砂量555を比堆砂量の252まで下げています。
②では流入する土砂のうち、55%がダム湖から流出するというのです。総貯水容量が1億750万立方メートルもある八ッ場ダムで、流入土砂の55%(土砂捕捉率45%)もダム湖から流出するということは、実際にはありえないことです。
この検証では、霧積ダムなどの土砂捕捉率の推定計算も行われています。それによれば、総貯水容量がわずか250万立方メートルの霧積ダムでも土砂捕捉率は85%となっています。こうした実例から見ても、総貯水容量1億750万立方メートルの八ッ場ダムの土砂捕捉率が45%であるはずがありません。
八ッ場ダムの近傍類似ダムとしては、酸性河川の吾妻川の中和事業の一環として建設された品木ダムがあります。品木ダムの場合は中和生成物の沈澱があり、また、浚渫が行われてきていますので、それらを考慮して比堆砂量を求める必要があります。
品木ダム 2008年度の堆砂実績量(浚渫された量を除く、中和生成物を含む) 142万立方メートル
1987年度から年間約3万立方メートルの浚渫が行われてきているので、それを加算すると、約200万立方メートル
品木ダムのダム湖堆積物の成分分析結果(平成20年度)を見ると、カルシウム成分はCaOとして12%、中和生成物は一般にCaSO4・2H2Oの形態になっていると考えられるので、その形態としては37%となり、品木ダムの堆砂量に含まれる中和生成物は4割程度です。
したがって、中和生成物を除く品木ダムの比堆砂量は200万立方メートル×0.6÷30.7k㎡÷44年=890立方メートル/k㎡/年となります。八ッ場ダムの計画比堆砂量247立方メートル/k㎡/年の3.6倍です。
近傍ダムの堆砂実績を使って計画の3.5倍の速度で八ッ場ダムの堆砂が進行するとすれば、概ね50年後には八ッ場ダムの夏季利水容量が半分になり、渇水時の補給機能が半減します。
実際に堆砂はダム湖の上流部分の河床が浅い所にも堆積していきますので、利水機能の低下はもっと早く進行します。一方で、ダム湖上流側の堆砂の進行は、流入する吾妻川の河床を上昇させ、ダム湖予定地上流に位置する長野原町中心部で氾濫が起きる可能性を生じさせます。
【参考図書】『八ッ場ダムー過去・現在・未来』(岩波書店) P188~190
http://www.iwanami.co.jp/moreinfo/0023270/top.html
【参考ブログ】「どうする、利根川? どうなる、利根川? どうする、私たち!?」
http://blogs.yahoo.co.jp/spmpy497/2156760.html
「利根川のダム堆砂状況」と「計画堆砂量を超過したダム」のリストが掲載されています。