八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

八ッ場ダムの安全性をめぐる議会質疑

2012年3月19日

 八ッ場ダムの本体工事の予算計上にともない、地元の長野原町議会、群馬県議会では八ッ場ダムの安全性の問題がクローズアップされています。

 関連記事を転載します。

◆2012年03月17日 朝日新聞群馬版
http://mytown.asahi.com/gunma/news.php?k_id=10000581203170001

 -国に危険場所の安全確保要請ー

 八ツ場ダムをめぐって、長野原町の高山欣也町長は16日、「国に対しては(予定地や代替地の)地滑りの安全性確保と一日も早いダム完成を求めていく」と述べた。町議会で、牧山明議員の一般質問に答えた。

 地滑りなどの危険場所について国土交通省は長年、3カ所としてきたが、建設是非の再検証で8カ所を追加。安全対策で149億円の増額と試算した。政府の建設再開決定後も危険性を指摘する専門家がおり、地元にも不安の声がある。

 高山町長は「町と地域住民はダム湖を前提とした生活再建を求めてきた。水をためた際に代替地の安全性がなければ生活再建できない。安全性確保は国の責任だ」と強調。ダム本体工事の早期着工とあわせ、安全性の向上を国に求める考えを示した。

◆2012年03月17日 東京新聞群馬版
http://www.tokyo-np.co.jp/article/gunma/20120317/CK2012031702000073.html

 -八ッ場ダム周辺 安全対策は国で 長野原町長ー

 八ッ場(やんば)ダム(長野原町)の水没予定地周辺や住民が移り住む代替地の安全対策について、同町の高山欣也町長は十六日の町議会一般質問で「国に担保してもらうしかない。私たちが検討してもしょうがない」と答弁した。

 質問した牧山明氏は「どこが危険か町で把握し、町として積極的に安全対策を」と要望。高山町長は「国の責任において十分にしてもらう」と町の関与に難色を示した。

 国土交通省関東地方整備局は、八ッ場ダムに水をためることに伴う地滑り対策や代替地の補強対策は計十六カ所で必要とし、工事費は約百五十億円と算定している。

 政府は十三日、同ダム本体工事の予算執行の二条件の一つだった「ダム事業廃止特定地域振興特別措置法」案を閣議決定している。 (伊藤弘喜)

~~~転載終わり~~~

 八ッ場ダム事業については、「地元はダム推進」とされていますが、一般の地元住民の間ではダムの安全性を不安視する声が少なからずあります。八ッ場ダム事業による大規模な地形の改変は、これまでの地元の経験では対処しきれない様々な問題を引き起こしており、今後、ダムに水をはることになれば、危険性が高まることは必至です。
 
 昨年、国交省は八ッ場ダム事業について、約110億円の費用をかけて新たに10地区で地すべり対策を実施する見込みであることを公表しました。また、代替地の安全対策にも5ヶ所について約40億円を見込むとしています。これらの対策は、八ッ場ダムの検証作業の過程で明らかにされたため、八ッ場ダムの検証で新たに事業費が増額されるかのような誤解が広がり、知事らが自民党の支援を受ける関係都県は民主党政権のダム検証による事業費の増額は認められないなどと主張しています。
 しかし、これらの対策は、民主党政権のダム検証とは関係なく、国交省河川局治水課によって作成された「貯水池周辺の地すべり調査と対策に関する技術指針」に基づいて調査した結果、必要となった対策です。
 近年のダム事業では、奈良県の大滝ダム、埼玉県の滝沢ダムなど、地質が悪い地域で無理なダム建設を進めてきたため、湛水試験によって地すべり事故が発生するケースがしばしば見られます。このため、国交省では対策を考えなければならなくなり、政権交代直前の2009年7月に新たな技術指針を公表しました。八ッ場ダムの安全対策をこの指針に照らした結果、これまでの安全対策では不十分であることが明らかになったのです。

 「貯水池周辺の地すべり調査と対策に関する技術指針」 http://www.mlit.go.jp/river/shishin_guideline/dam2/pdf/tyosuitigijukaisetu.pdf 
 
 八ッ場あしたの会では、地質の専門家らが「八ッ場ダム事業は安全対策によってさらに事業費が増額され、工期が延長になる」と予測していることを学習会、ホームページなどで紹介してきましたが、国交省はこれを否定してきました。国交省関東地方整備局による地すべり対策と代替地の安全対策についての説明は、同局によるこれまでの安全対策の不備を認めたものです。
 けれども国交省八ッ場ダム工事事務所のホームページには、2012年3月19日現在、これまでの地すべり対策が正しいという記述がいまだに掲載されています。
 ↓
 http://www.ktr.mlit.go.jp/yanba/faq/jisuberi.htm

 群馬県議会では、ダム予定地周辺の住民の安全対策のための増額を群馬県が認めないのはおかしいのではないか、との質問がありましたが、群馬県はダム検証の過程で示された事業費増額と工期延長は試算であって、コスト縮減の要素が加味されたものではないとして、この問題に正面から答えていません。

 新たな地すべり対策、代替地の安全対策については、国土交通省関東地方整備局のホームページに掲載されている「八ッ場ダム建設事業の検証に係る検討報告書」の中の、以下の部分に説明が載っています。

http://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000050264.pdf

 しかし、国交省はこれらの安全対策について、どのような対策をいつとるかという具体的な内容は未定としています。一年間の調査により対策箇所の選定はしたものの、詳細設計のための調査をいつするのかも明らかになっていません。民主党の国会議員が地すべり対策の根拠資料を提出するよう求めていますが、国交省の担当者は仕事が山積していることを理由に資料の提供を先延ばししています。これでは、地元住民が不安や不信を抱くのは当然です。

 長野原町議会では、八ッ場ダム推進の議員が大勢を占めていますが、その中でかねてより八ッ場ダムの安全性に疑問を投げかけてきた牧山明町議は、3月9日、町議会の「八ッ場ダム対策会議」において、地すべり対策、代替地の安全対策について具体的な内容を問い質しました。しかし、会議に出席した国交省、群馬県の職員は、質問に真摯に答えなかったといいます。
 この会議は非公開です。長野原町の八ッ場ダム対策特別委員会の浅沼克行委員長のブログには、この日の会議で八ッ場ダムの安全性の問題が取り上げられたことは触れられていません。↓
http://blogs.yahoo.co.jp/katsuki1231asanuma/66315922.html

 3月5日の群馬県議会八ッ場ダム対策特別委員会では、昨春完成する筈だった付け替え県道がいまだに未完成であることが取り上げられました。群馬県は付け替え県道の工事が遅れている理由は、政権交代によりダム事業に協力しない地権者が出てきたためと説明しました。これに対して、伊藤祐司県議(共産)が、「地権者は安全性に不安があるので、不安を解消する説明を聞けないうちは協力できない、と言っており、県の説明とは違う」と問い質しました。さらに角倉邦良県議(八ッ場ダムを考える1都5県議会議員の会会長)がこの問題を取り上げようとしたところ、萩原渉県議(八ッ場ダム推進議連事務局長)がこれを否定し、委員長(自民党)の取りなしによってこの日の質疑は打ち切られました。

 3月13日の群馬県議会八ッ場ダム対策特別委員会では、改めて角倉県議が川原湯地区の代替地の安全性と住民の不安の問題を取り上げました。県の特定ダム対策課長は国交省現地事務所から聞いた説明であるとして、「地元住民は了承しており、問題はない」と答弁しました。しかし、これは事実ではありませんでした。

 3月16日の長野原町議会での牧山町議の質問は、こうした状況を踏まえたものでした。
 今後、八ッ場ダムの安全性の問題は、さらに顕在化することが予想されます。