2012年11月16日
利根川・江戸川有識者会議に関する質問主意書と政府答弁書の解説
国土交通省関東地方整備局は八ッ場ダム本体工事費の予算執行の条件となっている利根川河川整備計画を策定するため,9月下旬から利根川・江戸川有識者会議を急ピッチで開催しています。今年度中に八ッ場ダム本体工事費の予算を何としても執行しようという関東地方整備局の思惑によるものです。
しかし、関東地方整備局が策定しようとしている河川整備計画は、利根川本川・江戸川だけであり、官房長官裁定が求める水系全体の河川整備計画ではありません。また、本川の計画を先に策定し、支川を後回しにするというのは、治水における科学的見地からも考えられないことであり、河川整備計画策定の基本ルールを逸脱したものです。
また、有識者会議では議論を十分につくさなければならないにもかかわらず、事務局である関東地方整備局が委員の意見は聞きおくだけでよいとする露骨な姿勢を見せており、審議会の類いとしては前例がない、常軌を逸した運営がされています。
このような国土交通省の理不尽な整備計画策定の進め方が看過されていてよいはずがありません。
今回、この問題に関して政府に対して衆議院で質問主意書が10月30日に提出されました、これに対する政府答弁書が11月9日が出ましたので、それらの要点と解説をお伝えします。
質問主意書の提出者は三宅雪子衆議院議員(国民の生活が第一)です。
(質問主意書と政府答弁は末尾に掲載しています。)
質問に対する政府答弁の解説
1 官房長官裁定が求めている利根川水系全体の河川整備計画の策定について
【質問】
官房長官の裁定が求めているのは、あくまで「利根川水系に関わる河川整備計画」、すなわち、利根川水系全体の直轄区間の河川整備計画の策定である。ところが、現在、開催されているのは、利根川と江戸川という本川関係を審議する利根川・江戸川有識者会議のみである。利根川・江戸川という本川だけの河川整備計画を策定するのでは、官房長官裁定の条件をクリアしたことにならないことは言うまでもない。
官房長官の裁定にそって、利根川水系全体の直轄区間の河川整備計画をいつ策定する予定なのか、政府の見解を明らかにされたい。
【答弁】
御指摘の 「官房長官の裁定に沿って、利根川水系全体の直轄区間の河川整備計画をいつ策定する」の意味するところが必ずしも明らかではないが、利根川水系の直轄管理区間における河川法第十六条の二第一項に規定する河川整備計画については、関東地方整備局長が平成十八年から、学識経験を有する者等の意見を聴く場である利根川・江戸川有識者会議等を設置して利根川水系利根川・江戸川河川整備計画等として策定を進めており、それらの策定の予定時期はいずれも現時点で未定である。
なお、八ツ場ダム建設事業については、官房長官裁定を踏まえ、国土交通大臣が適切に対処することとしている。
【解説】
この答弁において見るべきところは、
「利根川・江戸川有識者会議等を設置して利根川水系利根川・江戸川河川整備計画等として策定を進めており、それらの策定の予定時期はいずれも現時点で未定である。
なお、八ツ場ダム建設事業については、官房長官裁定を踏まえ、国土交通大臣が適切に対処することとしている。」です。
不明瞭の答え方ですが、「利根川・江戸川有識者会議等」、「利根川水系利根川・江戸川河川整備計画等」と、「等」をつけており、他の有識者会議の開催、支川の河川整備計画の策定にも言及しています。
他の有識者会議をいつ開くのか、支川の河川整備計画をいつ策定するのかの時期は未定としているけれども、この答弁書では、利根川・江戸川有識者会議だけを開いて、利根川・江戸川河川整備計画だけを策定すれば、官房長官裁定の条件を充たすとは答えていません。そして、官房長官の裁定を踏まえることを付け加えています。
以上のことから考えると、おそらく、国土交通省の中でも、官房長官裁定の解釈を捻じ曲げて、利根川・江戸川有識者会議だけの現在の強行路線で行くのか、あるいは官房長官裁定に忠実に沿って利根川水系全体の整備計画を策定するように路線を変更するのか、議論が分かれているのではないかと推測されます。
利根川・江戸川有識者会議が10月25日、11月6日、15日と3回中止になりましたが、上記のことが会議中止と関係している可能性があります。
2 河川整備計画の策定の基本ルールについて
利根川には大きな支川がいくつもあり、それらの支川も含めて、河川整備計画を策定しなければなりません。支川と本川は相互に関係しており、特に支川の状況が本川に影響するので、両者を切り離して河川整備計画を策定することは、科学的見地から見てあってはならないことです。そこで、全国の水系でそのような事例があるかを確認するための質問がされました。
【質問】
ア 全国の一級河川の直轄区間で河川整備計画が策定されてきている。一級河川の直轄区間で今までに河川整備計画が策定された水系の数、及びそのうち、水系一体ではなく、水系を支川と本川に分離して河川整備計画を策定した河川についてその水系名を明らかにされたい。
イ 支川と本川に分離して直轄区間の河川整備計画を策定した河川について、各支川、本川のそれぞれの策定時期を明らかにされたい。
【答弁】
平成二十四年十一月五日時点で、一級河川の直轄管理区間について河川整備計画が策定されている水系の数は七十六、このうち、一級河川の直轄管理区間を分割して複数の河川整備計画が策定されている水系は石狩川水系であり、同水系に係る個々の河川整備計画の名称及びその策定年月日は、それぞれ次のとおりである。
石狩川水系
支川(千歳川、幾春別川、豊平川、空知川、雨竜川)平成17年4月~19年5 月本川(上流、下流) 平成19年9月
【解説】
河川整備計画が策定された76水系のうち、石狩川を除く水系は水系全体の河川整備計画を策定しており、河川整備計画とは水系全体で策定するものであることがあらためて確認されました。
そして、唯一の例外である石狩川も支川の整備計画を先に策定してから、本川の整備計画を策定しています。支川の状況が本川に影響するから、これは当然の順序です。
現在、利根川水系で進められているように、利根川・江戸川という本川の整備計画を支川のそれよりも先に策定することは整備計画策定の基本ルールを逸脱するものであり、あってはならないことです。
3 有識者会議の役割と運営について
質問主意書では、事務局が有識者会議の役割を軽視し、常識外れの運営を行っていることについても質問していますが、それに対する答弁は、「規約に基づいて適切に実施している」などといった、中身のない答えに終始しています。
しかし、今回の質問主意書がこの問題を指摘したことによって、国土交通省の常軌を逸したやり方に一定にブレーキがかかるのではないでしょうか。そのことを期待したいと思います。
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政府答弁と質問主意書(クリックすると開きます。)
これらの文書は質問番号13番として、衆議院ホームページにも掲載されます。
http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_shitsumon.htm