八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

10月の群馬県議会における八ッ場ダム問題に関する質疑(角倉議員)

 10月3日、群馬県議会産経土木委員会で角倉邦良議員、加賀谷富士子議員(いずれもリベラル群馬)が八ッ場ダム問題について質問しました。
 八ッ場ダム本体工事現場の左岸側では地すべりに起因する付替え国道の変状が顕在化しており、右岸側では新たに環境基準を超えるスラグが投棄されていたことが発覚しました。これらの問題を取り上げた角倉議員の質疑について、概略をお伝えします。

1. 付替え国道145号の修復工事について
 八ッ場ダムで水没する国道145号線の代替として建設された付替え国道では、道路の修復工事(災害防除工事)が昨年(平成28年)7月から始まり、現在も続いています。
 吾妻渓谷の左岸側を貫通する付替え国道の長いトンネル(茂四郎トンネル)を抜けると、水没住民の移転代替地(川原畑地区)へ出ます。(写真右=9/26撮影)

 川原畑地区の代替地には酸性熱水変質帯が広く分布しており、その影響で付替え国道の変状が問題となっています。
 付替え国道は完成後の2010年12月17日、施工した国交省から群馬県へ引き渡されたのですが、2014年、八ッ場ダム本体工事現場から100メートル余りの地点で、縁石に生じた亀裂が次第に広がり、法面全体が変形していることが明らかとなりました。群馬県は地質調査及び地すべり等解析業務を行い(調査期間:2014年9月5日~2016年3月15日)、調査結果を踏まえて現在、対策工事を行っています。
 (県が管理する)3桁国道では、一般的な補修(舗装など)は県が全額負担して行いますが、今回の工事は国交省の交付金制度を使っているので、県負担が1/2、国負担が1/2です。

今回の質疑で確認されたこと
(右写真=工事個所で片側通行。11/14撮影)
*当初工期は今年9月であったが、作業工程の変更により工期が延長され、11月末完成予定となった。
*付替え国道の修復工事は、地質の膨潤により法面と路面が変状したことに対応。
*国交省は3年前、付替え国道の当該箇所で路盤材として鉄鋼スラグが使用されたことを公表し、その後、鉄鋼スラグを除去する改良工事を行った。
*鉄鋼スラグも水を含むと膨潤する性質があるが、今回の路面の凹凸は鉄鋼スラグの影響によるものではない。
*今回工事を行っている箇所は鉄鋼スラグが使用された箇所であるため、法面下の側溝布設替え工事で発生した残土は、群馬県が環境部局の助言を得ながら処理する方針。

〇角倉委員
「付替え国道145号では、地すべりに対応する工事を進めている。
今年度上期で終わる予定だったが、当初工期を過ぎた今も工事が続いている。
工期が遅れているのはなぜか。工事費用は1億5千万円でおさまるのか?」
(写真右=工事を始める前の法面。2014年10月28日撮影)

〇町田道路管理課長
「第一回定例会では本年度上期に工事が終了すると答弁した。現在、鋭意工事を進めているが、工事の完成は11月下旬の見込み。
国道の8メートルの法面にアンカー工と小段の排水工の工事を行っている。
9月完成予定としたのは、アンカー工と排水工を同時に施工する工程を組んだからであるが、安全確保のため法面工事の後に排水工の工事を行うことになり、作業工程を変更した。
事業費は1.5億円以内で完成を予定している。

〇角倉委員
「アンカー工を行っている法面に隣接する路面は凹凸が激しく、車両がバウンドする。ここでは何度も舗装が繰り返されているが、(水を含むと膨張する)鉄鋼スラグを路盤材として使った影響か?」

〇町田道路管理課長
「今回、法面対策工事を行っている箇所は、地質的に、掘削後に膨潤という膨れ上がりやすい地質である。
アンカー工は膨潤により変状した法面への対策であり、路面の凹凸も膨潤が原因と考えられ、鉄鋼スラグの影響ではない。」

〇角倉委員
「路盤材に鉄鋼スラグが使われていたかどうかの調査を行ったうえでの判断か?」

〇町田道路管理課長
「法面工事区間は、過去に国土交通省が改良工事を施工した部分であり、鉄鋼スラグが含まれていることは国交省の公表資料により承知している。
このため、現在実施している法面下の側溝布設替え工事から発生した残土は、鉄鋼スラグ処理方針に基づき、環境部局の意見を踏まえて敵性に処分する予定である。」
(写真右=法面下の工事個所。9/26撮影)

〇角倉委員
「この区間に鉄鋼スラグが使われているという認識はあるのか」

〇町田道路管理課長
「平成26年度に国交省が公表している箇所である。」

~~~質疑終わり~~~

(参考)
★八ッ場ダム本体工事現場の脇を通る国道の災害防除工事(その1) 
 https://yamba-net.org/wp/?p=20385

★八ッ場ダム本体工事現場の脇を通る国道の災害防除工事(その2)
 https://yamba-net.org/wp/?p=20898

2. 川原湯地区の代替地に不法投棄された有害スラグについて

 八ッ場ダムの移転代替地など、群馬県内の公共工事現場に(株)大同特殊鋼渋川工場の有害スラグが不法投棄された問題は、2014年8月5日、毎日新聞が一面トップニュースで報じたことで注目されました。
 その直後に八ッ場ダム本体工事の開札を行った国交省関東地方整備局は、八ッ場ダム事業用地で環境基準を超えるスラグが確認された場所では、スラグの撤去作業を行ってきましたが、今も地表にスラグが落ちている場所がいくつもあります。
 今年になって国交省八ッ場ダム工事事務所は、川原湯地区の水没住民が移転した打越代替地において、環境基準の10倍超のフッ素が検出されたことを公表しました。
(写真右=環境基準を超えるスラグが検出された場所は、打越代替地の山裾を走る付替え県道の脇、吾妻渓谷を抜ける長いトンネルの上流側。9/8撮影。)

今回の質疑で確認されたこと
*環境基準を超えるフッ素を含有する鉄鋼スラグは、当該箇所の土壌の75センチメートルの深さまであった。
*有害スラグの撤去作業は約1か月行われ、9月末で終了した。
*代替地で現時点で新たに環境基準を超えるスラグが確認されたのは、今回撤去作業を行った場所だけであると、国交省は群馬県に説明している。
*群馬県は代替地住民の安全確保を国交省へ申し入れする方針である。

〇角倉委員
「川原湯地区の打越代替地で環境基準を超えるスラグが今になってみつかった理由は何か?」

〇小林特定ダム対策課長
「鉄鋼スラグは工事の受注者によって撤去されたと国から聞いている。
スラグ撤去後、県環境森林部の指示により、(株)大同特殊鋼が土壌調査を行ったところ、一部でフッ素の溶出量が環境基準値を超えているとの報告を群馬県環境森林部が受けた。基準値を超過した表層から75センチメートルの範囲の土壌を(株)大同特殊鋼が県環境森林部の指導を受けて、今年9月4日から撤去作業を始め、9月30日に完了したと、国から聞いている。」

〇角倉委員
「表面だけでなく、深いところまでスラグがあったということだが、スラグが残されている場所は、本当に今回撤去作業が行われた箇所だけなのか。
住民には代替地の他の場所は大丈夫なのかという不安がある。実際、今回の場所だけであるかどうか、本当に心配だ。これ以外にも同じようなところがあるのではないか?」
(写真右=シャベルカーで75センチの深さまで掘った土を大量の黒い袋に詰める撤去作業。9/8撮影。)

〇小林特定ダム対策課長
「現在のところ、国からはこの箇所のみと聞いている。」

〇角倉委員
「代替地を利用する住民が土地を耕作することもあるだろう。相当慎重に、土壌汚染の問題が解消したかどうか、地元住民の安心・安全をサポートすることが必要である。しっかり行っていただきたいと思うが、どうか?」

〇小林特定ダム対策課長
「大変だいじなことなので、県としても国に安全確保を申し入れたい」

〇角倉委員
「申し入れと同時に、安全だという何らかのしっかりとした数値・指標を出していただくよう、国へ要望していただきたい。」

~~~質疑終わり~~~

(参考)
「水没住民の移転代替地、土壌からフッ素基準の10倍検出」
 https://yamba-net.org/wp/?p=22561

3. 川原湯地区の地域振興施設について
 八ッ場ダム3事業の一つ、「八ッ場ダム建設に係る利根川・荒川水源地域対策基金事業」では、八ッ場ダムで水没する長野原町五地区のそれぞれに、利根川流域一都四県の負担金によって地域振興施設をつくることになっています。すでに三地区で地域振興施設が完成していますが、最も水没住民の多い川原湯地区では今も地域振興施設の計画が進んでいません。群馬県の開示資料によれば、川原湯地区の地域振興施設整備事業の予定額は20億5110万円です。

今回の質疑で確認されたこと
*JR川原湯温泉駅が移転した川原湯地区の上湯原代替地には、基金事業による地域振興施設としてグランピング(グラマラス・キャンピングの略)をつくる案が浮上している。
*川原湯地区の打越代替地には川原湯温泉の新源泉が引湯されているが、上湯原代替地にも引湯する計画がある。
*現時点では上湯原代替地に共同湯を作る計画はない。
*グランピングの中にグランピング利用者が入れる小規模な温浴施設をつくり、川原湯温泉をこの温浴施設に引湯する案が出ている。

〇角倉委員
「川原湯地区の地域振興施設として、新たな共同浴場が設置されると聞いたが、どのようなものを検討しているのか?」

〇小林特定ダム対策課長
「川原湯地区の地域振興施設について地元と話し合いをしている中で、グランピング施設というキャンプの豪華版のような施設を検討している。その中に温浴施設も検討している。」

〇角倉委員
「その中に共同浴場はあるのか?」

〇小林特定ダム対策課長
「共同湯ではなく、施設利用者が使う温浴施設である」

〇角倉委員
「小さいものか?」

〇小林特定ダム対策課長
「それほど大きくない」