八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

八ッ場ダム本体工事現場の脇を通る国道の災害防除工事(その1)

 八ッ場ダム事業では、ダム予定地を走る吾妻川沿いの国道145号線が水没するため、付替え国道がつくられました。この国道は、ダム予定地の上流にある草津温泉や嬬恋村と首都圏を結ぶ地域の主要道路で、八ッ場ダム本体工事現場の脇を通過しています。付替え国道は標高597メートル付近にあり、造成前より約30メートルの切土を行っています。

付替え国道対策工事 付替え国道は完成後の2010年12月17日、施工した国交省から群馬県へ引き渡されたのですが、2014年、八ッ場ダム本体工事現場から100メートル余りの地点で、付替え国道の縁石に5センチメートルを超える亀裂が生じ、法面が変形していることが明らかとなりました。群馬県は地質調査及び地すべり等解析業務を行い(調査期間:2014年9月5日~2016年3月15日)、調査結果を踏まえて現在、対策工事を行っています。
 道路の変形は周辺一帯に広く分布している酸性熱水変質帯による地すべりが原因と考えられます。
(写真右=変形した国道法面の対策工事現場。2016年11月22日撮影)

群馬県の情報開示資料(2016年4月25日情報開示)(全78ページ)
 https://yamba-net.org/wp/wp-content/uploads/2013/02/REPORT01.pdf
 単独道路維持修繕事業(道路災害防除)地質調査及び地すべり解析等業務委託(川原畑工区)報告書 
 平成28年3月 日本工営株式会社

 3月14日の群馬県議会・産経土木委員会において、本郷高明議員(リベラル群馬)がこの問題について質問しました。県の道路管理課長の答弁の要旨は以下の通りです。

付替え国道における地すべり対策・(吾妻渓谷を走る)国道145号の茂四郎トンネル西側の道路法面については「道路災害防除工事」として、全体工事費約1億5,000万円で実施している。平成28年7月に着手しており、平成29年上期完成を目指している。
(写真右=道路脇に柵と塀を設け、二車線通行のまま工事を行っている。2016年11月16日撮影)

・今回の対策は、道路の法面表層部が雨水によって体積が変化する膨張であり、地すべりとは考えていない。

・八ッ場ダム事業により完成した国道や県道について、県管理区間とする場合は、法面の点検を行い、必要であれば国に安全対策を実施させた上で合同現地立会を行い、合意できた場合のみ、県で管理するための手続を始めることとしている。県が管理することになった道路区間については、県が維持管理を行うことから、(基本的に)維持管理にかかる経費は県の負担になる。


 上記の答弁について群馬県道路管理課に問い合わせたところ、以下の説明がありました。

・「道路災害防除工事」は3期に分かれていて、2期は2月28日に契約した。3期は29年度に契約する。工事終了は29年度上期である。1期が6000万円、2期が5700万円、3期が残りで、合わせて1億5000万円である。

・工事区間は100mで、法面を下から3段に分けて工事を行っている。

・(県が管理する)3桁国道では一般的な補修(舗装など)は県が全額負担である。県議会ではそのことを答弁したが、今回の工事は国交省の交付金制度を使っているので、県負担が1/2、国負担が1/2である。

 群馬県の説明は以上です。

付替え国道の段差7センチ 国交省も群馬県も付替え国道の変形の原因を地すべりだとは認めていませんが、群馬県が実施した地すべり調査の結果報告書を読むと、明らかに地すべりと考えられる状況が発生しています。
(写真右=縁石の亀裂。2015年6月17日撮影)

 付替え国道が走る川原畑地区の代替地一帯には、酸性熱水変質帯が広く分布しており、付替え国道の工事の段階から、複数個所で法面崩落が発生していました。
 群馬県は県議会での答弁で、国から県へ道路の管理が移されるときは、法面の点検を行うとしていますが、今回対策工事を行っている箇所は、その時に問題が判明していなかった場所です。山が切られ、地質断面が空気に触れることによって変質が進行しますので、更なる対策が必要になる可能性を否定できません。付替え国道や代替地の安全性について、今後も厳しく監視する必要があります。
 八ッ場ダムは事業費が増額を繰り返していることが問題になっていますが、今後、ダム事業でつくられた膨大な施設の維持管理費が重い負担となるのは必至です。

 群馬県による工事個所の調査報告書(平成28年3月、日本工営)には、「今後の課題」として次のように書いてあります。

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観測結果は、降雨との相関は不明瞭であるが、今後も従来行って来た地表観測(地盤伸縮計、定点、測量鋲)とボーリング孔内観測(歪計、孔内傾斜計、地下水位)により斜面変状の急激な拡大が起こらないことを確認する事が必要である。なお、対策工を実施する場合は、細心の注意を払いながら施工すると共に、状況を正確に把握するため、施工中・施工後も観測を継続することが重要である。
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*地すべり(付替え国道変形)の発生箇所と本体工事現場との位置関係
 国交省による発破作業の図に地すべり発生個所、トンネル、代替地名の文字を加筆。川原畑地区の代替地にある八ッ場ダム本体工事で発破をかけた箇所から100メートル以内の土地が赤いラインで囲まれている。ラインのすぐ外側に付替え国道の地すべり箇所(今回の「道路災害防除工事」箇所)がある。
キャプチャ

 川原畑地区の代替地は、酸性熱水変質帯が広く分布している。下の写真は川原畑代替地の三平地区。「道路災害防除工事」が実施されている地点より上流側。山を切って、酸性熱水変質帯の地質断面が見えている箇所は、現在は付替え国道の法面になっているが、付替え国道をつくる工事を行っていた時に複数個所で法面崩落が発生していた。2005年11月25日撮影。
05年11月川原畑三平代替地造成中

★参考記事:「八ッ場ダムの付替国道の変形に関する公開質問への国交省回答について」 
      「八ッ場ダム本体工事現場の脇を通る国道の災害防除工事 その2」