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鳥海ダムに関する環境アセス法に基づく環境大臣意見について

 国土交通省東北地方整備局が秋田県に建設を計画している鳥海ダムについて、環境大臣が環境影響評価法(略称:環境アセス法)に基づく意見を出しました。
 環境アセス法に基づく環境大臣の意見と言っても、ないよりはましという程度の意見です。環境アセス法はダム建設事業に対して無力です。
 
 環境問題への関心の高まりを受けて、環境アセス法が制定されたのは1997年のことです。環境に著しい影響を及ぼすおそれのある事業について、環境影響評価を行い、その結果を事業内容に関する決定(事業の免許など)に反映させることにより、事業が環境の保全に十分に配慮して行われるようにすることを目的とした法律です。しかし、八ッ場ダムのように法制定前に始まった事業は環境アセス法の対象外とされました。
 鳥海ダムは新規のダムなので、環境アセス法による手続きが取られてきました。しかし、環境アセスの手続きの過程で、住民が関われるのは、方法書の手続きと準備書の手続きでパブコメの意見を出すだけです。事業者と議論する場は全くありません。そして、パブコメで出した意見が反映されることはほぼなく、通過儀礼のパブコメでしかありません。

 環境アセス法は、欧米で実施されている戦略的環境アセスを導入するため、2011年4月に改正されましたが(2013年4月から施行)、ダムは実質的に対象外にされてしまいました。
 戦略的環境アセスは「計画段階配慮」という表現になりましたが、環境の観点から代替案との比較を行いながら、環境への影響が少ない事業となるよう検討を行い、その結果を公表することを義務づけたものです。これが正しく実施されれば、ダム以外の代替案が採用される可能性が十分にあります。ところが、環境省は国土交通省の主張を取り入れ、すでに河川整備計画(ダム計画の上位計画)が策定されている場合は、それを戦略的環境アセスの結果と見なすとことにしましたので、鳥海ダムはこのアセスをパスしてしまいました。環境面の視点が乏しい河川整備計画を戦略的環境アセスとみなすのは無茶苦茶です。
 
 環境アセスの制度が整備されてきても、ダム事業の抑制には何も寄与もしません。なんとも情けない話です。環境アセスはその膨大な調査資料をつくるために環境調査会社を儲けさせるものでしかないように思います。
 新たなダムが必要な時代ではないのですが、東北地方整備局は成瀬ダムに続く大型ダムとして、鳥海ダムの建設を強引に進めようとしています。

◆環境省公式サイトより 報道発表資料 平成30年4月5日
http://www.env.go.jp/press/105361.html
「子吉川水系鳥海ダム建設事業に係る環境影響評価書に対する環境大臣意見の提出について」

 環境省は、5日、秋田県で計画されている「子吉川水系鳥海ダム建設事業環境影響評価書」(国土交通省東北地方整備局)に対する環境大臣意見を国土交通大臣に提出した。
 本事業は、秋田県由利本荘市鳥海町百宅地先において、子吉川下流地域における洪水調節、流水の正常な機能の維持及び水道用水の供給を行うために多目的ダムを設置するものである。
 環境大臣意見では、(1)クマタカ等の希少猛禽類への重大な影響を回避するため、営巣期における工事は基本的に避けるとともに、工事が与えるクマタカの生息及び繁殖への影響を可能な限り低減すること、(2)貯水予定区域の一部は、鳥海国定公園の第一種特別地域と重複しているため、当該地域の改変については、関係機関と十分に協議・調整を行いつつ、風致景観への影響を回避又は極力低減すること等を求めている。

1.背景
 環境影響評価法は、湛水面積100ha以上のダムの新築を対象事業としており、環境大臣は、環境影響評価書※について、国土交通大臣等からの照会に対して意見を述べることができる。
 今後、国土交通大臣から事業者である国土交通省東北地方整備局に対して、環境大臣意見を勘案した意見が述べられ、事業者は意見を勘案し、必要に応じて評価書の再検討及び補正を行うこととなる。

※環境影響評価書:環境影響評価の結果について記載した準備書に対する意見等を踏まえて、必要に応じてその内容を修正した文書。

2.事業の概要
・事業者     国土交通省東北地方整備局
・計画位置    秋田県由利本荘市鳥海町百宅地先(湛水面積約310ha)
・形式      台形CSGダム
・目的      子吉川下流地域における洪水調節、流水の正常な機能の維持及び水道用水の供給

3.環境大臣意見

別紙のとおり。

(別紙)「子吉川水系鳥海ダム建設事業環境影響評価書」に対する環境大臣意見 [PDF 19 KB]
    http://www.env.go.jp/press/files/jp/108907.pdf

 「子吉川水系鳥海ダム建設事業環境影響評価書」に対する環境大臣意見
 本事業は、国土交通省東北地方整備局が、子吉川の下流地域における洪水調節、流水の正常な機能の維持及び水道用水供給を目的に、子吉川水系子吉川の秋田県由
利本荘市鳥海町百宅地先に多目的ダムを建設するものである。
 本事業においては、掘削から発生する河床砂礫や土砂等をダムの堤体材料として利用する型式を採用していることから、ダムを建設するために必要な材料を一から
採取する原石山を必要とせず、本事業の実施に伴う改変や建設発生土等の発生を低減する努力が見られる。
 一方、対象事業実施区域は、子吉川水系子吉川の上流に位置し、ブナ、ミズナラ等の落葉広葉樹が広く存在し、同区域周辺ではクマタカの複数ペアによる営巣が確
認されるなど、豊かな自然環境が維持されているほか、同区域周辺には秋田県文化財保護条例(昭和 50 年秋田県条例第 41 号)に基づく秋田県指定名勝及び天然記念物に指定された法体の滝等の人と自然との触れ合いの活動の場が存在することから、本事業の実施に伴うこれら自然環境への影響が懸念される。とりわけ、対象事
業実施区域の一部は自然公園法(昭和 32 年法律第 161 号)に基づく鳥海国定公園の第一種特別地域と重複しており、二次林等により形成される優れた景観等への重
大な影響が懸念される。
 したがって、以下の措置を適切に講ずるとともに、その旨を補正後の評価書に適切に記載すること。

1.総論
(1)調査・予測・評価の再実施
 本事業については、工事着手時期が未定であり、長期間に渡る工事が予定されていることから、本事業の実施までに対象事業実施区域及びその周辺の自然環境等に変化が生じる可能性がある。このため、工事着手前又は工事中に、現段階で予測し得なかった環境変化が生じた場合には、その変化の状況に応じ、最新の知見等に基づき、調査・予測・評価を改めて実施し、必要に応じ、適切な環境保全措置を講ずること。

(2)事後調査の結果の公表等について
① 今後、事後調査等の結果を踏まえ、追加的な環境保全措置を講ずる場合は、これまでの調査結果や専門家等の助言を踏まえて、措置が十全なる内容と
なるよう客観的かつ科学的に検討すること。また、検討のスケジュール及び方法、専門家等の助言、検討に当たっての主要な論点及びその対応方針等を公開し、透明性及び客観性を確保すること。

② 事後調査及び環境監視等により本事業による環境影響を分析し、判明した環境の状況に応じて講ずる環境保全措置の内容、効果及び不確実性の程度
について、環境影響評価法に基づく報告書(以下「報告書」という。)として取りまとめ、公表すること。
③ 本事業については工事が長期に渡ることから、住民等からの透明性及び客観性の確保等の観点から、報告書の作成とは別に、工事中や供用後において、環境保全措置、事後調査及び環境監視の結果等の公表に努めること。

2.各論
(1)鳥類に対する影響
 対象事業実施区域及びその周辺では複数のクマタカのペアの生息が確認されており、特に本事業に係る工事をクマタカの営巣期に実施する場合には、重大な影響が懸念される。
 このため、クマタカの営巣期における工事は基本的に避けるとともに、やむを得ず工事を実施する場合には、工事が与えるクマタカの生息及び繁殖への影響について、適切に事後調査を行いつつ、重大な影響が認められた場合は、工事を一旦中止するとともに、専門家等からの助言を踏まえて、追加的な環境保全措置を講ずるなど、可能な限り影響を低減すること。

(2)動植物及び生態系に対する影響
 本事業の実施によるダム下流河川の流況の安定化、流出土砂の減少、ダム上流の湛水等により、魚類、底生動物、河川の植生等の動植物及び生態系への影響が懸念される。このため、工事の実施前、工事中及び供用後において、魚類、底生動物、河川の植生等の動植物の生息・生育状況等を適切に監視し、動植物及び生態系への重大な影響が確認された場合には、専門家等の意見を踏まえ、追加的な環境保全措置を講ずること。
 また、ダム上流の湛水域等の対象事業実施区域には、自然環境保全法(昭和47 年法律第 85 号)に基づく自然環境保全基礎調査の第3回調査(特定植物群
落調査)で特定植物群落に選定された「袖川のシロヤナギ林」及び自然度の高い植生が存在している。本事業者における評価書の環境影響評価によれば、本事業の実施により特定植物群落等の一部が改変により消失すると予測されていることから、詳細計画の策定に当たっては、専門家等の意見を踏まえ、特定植物群落等の改変を最小限に抑制すること。

(3)景観に対する影響
 貯水予定区域の一部は、鳥海国定公園の核心的な地域として、当初の景観を極力保護することが必要な地域である第一種特別地域と重複しており、 二次林等により形成される優れた景観への重大な影響が懸念される。しかしながら、本評価書においては、「法体園地」からの眺望景観への影響については調査・予測・評価されているものの、公園計画上、利用施設計画として位置づけられている猿倉法体の滝線道路から当該第一種特別地域を望む眺望景観について調査・予測・評価が実施されていない。また、景観資源としての当該第一種特別地域への影響について、二次林等の景観の構成要素を十分に勘案した調査・予測・評価を実施しておらず、本事業による国定公園の景観への影響についての評価が十分とはいえない。

 このため、今後、当該第一種特別地域の改変については、公園管理者である秋田県を始め、地元地方公共団体等の関係機関と十分に協議・調整を行いつつ、景観への影響に関する追加的な調査・予測・評価及びその結果に基づく環境保全措置を検討・実施し、国定公園の風致景観への影響を回避又は極力低減すること。

(4)人と自然との触れ合いの活動の場に対する影響
 対象事業実施区域の周辺には、人と自然との触れ合い活動の場である「法体の滝」及び「法体園地キャンプ場」が存在していることから、本事業の実施による工事中の騒音等による影響が懸念される。このため、これら人と自然との触れ合い活動の場の周辺における工事の実施に当たっては、人と自然との触れ合いの活動の場の利用が集中する時期を避ける等により、国定公園の利用に支障が生じないよう配慮すること。

(5)建設発生土の発生抑制及び有効利用
 本事業の施工に伴い発生する建設発生土は約 71.5 万と予測されており、その全量を対象事業実施区域内に設置する建設発生土処理場で処理するとされている。このため、工事及び残土処分の詳細計画の策定に当たっては、建設発生土の発生抑制に努めるとともに、可能な限り堤体材料として適切に有効利用すること。それでもなお、建設発生土処理場を設置する場合にあっては、処理量に見合った適切な規模とし、建設発生土処理場の設置に伴う改変を最小限に抑制すること。

 国交省東海地方整備局 鳥海ダム工事事務所ホームページより
 http://www.thr.mlit.go.jp/chokai/

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