石川県小松市を流れる大杉谷川では、ウグイ等を復活させるため、産卵床を設置する取り組みが行われています。
大杉谷川は上流に赤瀬(あかぜ)ダム(1978年度竣工)ができた後、川底の石に泥が付着して藻が育たなくなり、魚類が激減しました。河川環境の悪化による魚類の減少を食い止めるための取り組みは、今月12日に地元の北國新聞が伝えたことをご紹介しましたが、(「石川県の大杉谷川、ダム建設で激減した魚類復活の取り組み」https://yamba-net.org/wp/41491/)、23日に中日新聞でも取り上げられました。
こうした環境改善の取り組みは、全国各地で行われています。
しかし、魚類の復活を目指すのであれば、渓流にふさわしい魚類を考えるべきではないでしょうか。
ウグイについては、全国のダム問題に取り組む水源開発問題全国連絡会の顧問で渓流の魚類に詳しい藤田恵さん(徳島県の元・木頭村長)が次のように指摘されています。
「ウグイは私の子供の頃からの経験では、1950年代末頃から1960年代初め頃の、拡大造林に依る山と川が破壊されるまでは清流では珍しい魚でした。山と川の破壊と水質の悪化に比例して増えたのがウグイです。ウグイは鮎、アメゴなどの卵や稚魚を食べ尽くします。近年はダムのない徳島の日和佐川などの小さな川には河口から源流までウグイだらけです。同様に、流れが緩やかなでウグイが棲みやすい高知県の野根川などは、ウグイが他の魚の卵や稚魚を食べ尽すため、天然のアメゴ(ヤマメ)が絶滅しました。これは全国に言えることだいうのが私の見解です。蛇足ですが、ウグイは本格的な渓流釣りでは見向きもされない、嫌われ者の魚です。」
また、長野県松本市を拠点に渓流の環境改善をめざして活動している渓流保護ネットワークの田口康夫さんは、多くの川を観察してきた体験を踏まえて、次のように述べておられます。
「私も藤田さんの思いに同感です。
川の自然は川につくらせるという発想がなくなってきていると思います。大杉谷の場合でも、赤瀬ダムができてから川の環境が変わってしまったと書いてあります。
ダムのなかった時代はほぼ雨量に比例して洪水が起きていたはずです。洪水が起きれば底砂利が動きやすく、石と石が擦れ合って泥や藻を洗い流します。つまり川の環境をリセットしてくれます。なにも人間の手によって石を洗う必要などないのです。これらの洪水は魚類だけでなく水生昆虫などの棲みかをも洗い流します。そうなることですべての環境がリセットされ、活性化してくるわけです。
例えば下記のような事例があります。
例1 安曇野市のワサビ畑から流れ出る川の水量はほぼ一定で、洪水などの激しい流れは出ません。そうなると小石が転がることがないため(攪乱しないため)、ある種の川虫が増えてきます。この様な環境では糸で網をつくるような川虫(ヒゲナガカワトビケラ、シマトビゲラなど)が増えてきます。糸で石を固定するので当然、石と石の隙間ができにくくなります。そうなると石の隙間や石の表面を好む川虫類が生息しにくくなります。こんな環境になってくるとある特定の川虫で占められてきます(ある種の極相状態)。
まともな川はたびたび起こる洪水で固定されつつある環境を壊されます(攪乱)。この攪乱によってさまざまな種類の水生昆虫が生息できているのが本来の川の姿です。
例2 高山市の新穂高温泉に流れる蒲田川では、砂防ダムがイワナの移動を妨げているため産卵環境が蝕まれていますが、問題の本質を解決するのではなく、小さな支流(小沢)に人工的にイワナの産卵場所をつくり、一時的な対症療法をしています。砂防ダムが無かった時代は河床の下がりも少なく、小沢と本流は繋がっていたため、人が手を入れなくても産卵環境は整っていたのです。これはまさに、本質をそらす対策がまかり通っている典型です。
例3 上高地のケショウヤナギをご存知でしょうか? 天然記念物であるこのヤナギは、川がたびたび洪水などで荒れることで発芽条件が整います。上高地はなるべくこの条件を無くさないように対応しようとの合意があります(十分ではないが)。このヤナギは過去に種が流され、梓川の中流(波田)あたりで発芽して、ある広さで河川敷内に樹林をつくっています。このヤナギを保護するために何をしたかというと、流されないような人工的な処置を施す事が提案されました。上流にダムができ、洪水が起きにくい環境で子孫を増やすことができなくなっていることに言及しません。洪水と同じような環境をつくろうと、重機を入れて改変するということをしているのです。この様な事は全国の川や野山で行われています。
これらの例の様に、川環境は川につくらせる、まともな川にするために森林の在り方を考えるなど、基本的な視点を忘れているのが今の状態だと思います。」