公共事業評価、4分の1に問題 効果水増し/維持管理費を無視 総務省

 公共事業の評価は「行政機関が行う政策の評価に関する法律」に基づいて、各事業体が定期的に評価を行うことになっています。事業者はその結果を総務省に報告し、総務省行政評価局がチェックを行います。朝日新聞が2010~17年度の総務省のサンプル調査の結果を入手して集計したところ、抽出された532事業のうち、総務省が各省庁の評価に疑義を呈していた事例が約四分の一に達していたということです。

 しかし、公共事業の評価の問題は、報道記事の程度にとどまるものではありません。
 ダムに関しては、治水目的はダム事業者(国や道府県)、利水目的は水道事業者等が行います。評価の重要項目は費用便益比が1を超えていることですが、便益を膨らまして1を超えるようにすることがまかり通っています。

 治水に関する評価は、国土交通省の「治水経済調査マニュアル」に基づいて行われます。このマニュアルは、洪水があれば堤防が流域の各所で一斉に決壊するという状況を想定しており、マニュアルに基づくと氾濫被害額が莫大な金額になります。堤防が一箇所で切れれば、そこから水が流れ出しますから、周辺の堤防が一斉に切れることは現実にはありえません。
 八ッ場ダムの場合は、ダムを建設する吾妻川が利根川に合流する地点から下流側にある利根川と江戸川のすべての流域で堤防が決壊することを想定しています。この結果、八ッ場ダムの治水効果は流域全体の資産に当たる約2兆8,484億円に達するとして、B/Cを6.3(費用の6.3倍)という非現実的な数字を導き出しています。

 国交省関東地方整備局公式サイト 平成28年度第7回事業評価監視委員会 配布資料2-2-2より
 「八ッ場ダム建設事業」-「氾濫ブロック分割図」

 利水に関しても、厚生労働省の「「水道事業の費用対効果分析マニュアル」に基づくと、渇水の際には家庭等がボトルドウォータ―、ポリ容器、ポリバケツ、たらいなどを購入するため、巨額の被害が発生するという非現実的な計算が行われることになります。
 このような現実ではありえない状況を想定した計算によって、ダムがない場合の被害額(便益)を大きく膨らまらせて、ダムが必要だという結論を導き出し、事業継続妥当とされます。

 このように、ダム事業の評価は事業にお墨付きを与える形式的なものにすぎず、必要性のないダム事業を抑制することにはほとんど役に立っていません。公共事業の評価制度を根本から変える必要があります。

◆2018年4月23日 朝日新聞
https://digital.asahi.com/articles/DA3S13463738.html?iref=pc_ss_date
ー公共事業評価、4分の1に問題 効果水増し/維持管理費を無視 総務省、532事業を調査ー

  公共事業を実施するか否かの妥当性が、多くの事業で不適切に評価されていることがわかった。将来の人口減少を考慮せずに事業効果を水増ししたり、維持管理費を無視して費用を過小評価したり。総務省がサンプル調査した各省庁の532事業の評価のうち、約4分の1に問題があった。

 公共事業は国の政策評価法令上、(1)10億円以上の新規(2)政策決定後5年経っても未着工(3)決定から10年経っても継続中――の場合、所管する各省庁は着工や継続の妥当性を評価しなければならない。妥当性判断のポイントは、事業で得られる効果「便益」を金額にして算出し、投じる費用で割った「費用対効果」の推計結果が「1・0以上」になるかどうかだ。

 総務省は毎年、国土交通省や農林水産省、厚生労働省などが自らの公共事業や補助事業の妥当性を評価した結果について、抽出してチェックしている。朝日新聞が2010~17年度の結果を入手して集計したところ、抽出された532事業のうち、総務省が各省庁の評価に疑義を呈していた事例が127件あった。

 多いのは便益を過大に見込む手法だ。

 例えば長崎県の有喜漁港(諫早市)から国道への連絡道路を追加する事業では、実際は遠回りになるのに距離短縮の効果を見込んだり、運転手・同乗者の移動時間が減る効果を二重計上したりしていた。

 分母となる費用を小さく見込む例もある。国有林の治山、地滑り防止、工業用水道などの整備事業では、長期間必要になる維持管理費が考慮されていない例が相次いで見つかった。

 各省庁が作成する評価マニュアル自体が不適切なものもあった。税金を投じる意義を判断する根拠がゆがむとして、総務省は改善を求めている。(赤井陽介)

 ■熊本の処分場、不法投棄ゼロ見込む/札幌の送水管、新想定で便益を追加

 費用対効果の評価の多くに、疑問符がつく実態が総務省の調査から判明した。「事業ありき」で「便益」が費用を上回るよう、不適切な計算がなされたのではないか。現場を取材した。

 のどかな田園地帯に立つ白い巨大な工場のような建物。産業廃棄物の最終処分場「エコアくまもと」(熊本県南関〈なんかん〉町)だ。既存の処分場の容量不足を懸念した県が主体となって建設され、総務省資料によると、整備期間は2013~15年度で総事業費は約70億円。搬入は既に始まっている。

 運営を担うのは公益財団法人「県環境整備事業団」。処分場ができると不法投棄が一切なくなり、年間の除去費用が毎年不要になる――。環境省から補助を受けるにあたり、そんな想定を積み上げて費用の1・23倍の効果にあたる便益が見込めるとした。

 だが、総務省は「既存の最終処分場が満杯でない現状でも不法投棄が発生している。現実的ではない」と指摘。実際、県が把握している分だけでも、16年度1年間に100件を超す不法投棄があった。県内の産廃業者の男性は事業団の想定に苦笑し、「捨てる場所が増えたからゼロになるものではない」と話す。

 「不法投棄撲滅という県の目標値を採用していた」と、県庁OBで事業団の中富恭男専務理事は打ち明ける。ただ、総務省の指摘を受けて該当部分は修正したものの、事業は継続した。

 札幌市では送水管を増設する事業で物言いがついた。新たに造る3本目の送水管に貯留機能を持たせ、災害で浄水場が使えなくなっても水が使えるようになる効果を便益に計上。その際、1リットル100円分の価値があるとして算出したが、地域の実勢価格では49円。総務省のこの指摘で計算し直すと、便益は費用の0・71倍しかなくなった。

 だが、札幌市は災害でも浄水場が使えるケースを新たに想定。現在ある2本の送水管が壊れ、新設する3本目のおかげで送水を続けられる便益を追加した。結果、便益は費用の1・73倍になり、事業は継続されることになった。総事業費見込み256億円のうち、厚生労働省からの補助金などが計45億円注がれる予定だ。(東郷隆)

 ■評価に緊張感を

 金本良嗣・政策研究大学院大学特別教授(公共経済学)の話 税金を投じる意義を考える評価で不備がこれだけあるのは問題。「費用対効果1・0」は妥当性の最低ラインとも言え、そこに向け、事業を正当化するため数値がゆがめられてしまいがち。事業をする判断前に時間をとってチェックする仕組みが必要だ。結果の数値だけでなく、便益・費用をどう推計したかが分かる資料を、ホームページに目立つよう掲載するなど、第三者の目にさらされる緊張感ある評価にしなければならない。

 ■総務省が指摘した不適切な評価例

 <岩手県花巻市での病院移転事業>

人口や公示地価が約3倍の盛岡市のデータを使い便益を計算《国土交通省・93億円》

 <茨城県茨城町の水道管更新事業>

維持管理費用が減らせる便益を計算する際、「過去10年の平均値」を使うべきところで「過去10年の合計値」を使用《厚生労働省・30億円》

 <茨城県内の漁港の整備事業>

サバの輸出量について、単価が高いEU向けは想定では17%程度なのに100%として便益を算出《農林水産省・90億円》

 <群馬県内の工業用水道事業>

用水の供給には周辺ダムの維持管理費用が必要になるが、それを費用に含めていない《経済産業省・308億円》

 <富山県内に新駅を造る事業>

開業後の利用者数を、将来の人口減少を見込まずに計算《国土交通省・8億円》

 ※《》内は所管省と指摘当時の総事業費