明日(7月9日)午後3時に、長崎地裁で石木ダム事業認定取り消し訴訟の判決言い渡しがあります。
関連記事を転載します。
◆2018年7月8日 長崎新聞
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180708-00000004-nagasaki-l42
ー石木ダム事業認定取り消し訴訟 9日判決 必要性どう判断 治水、利水で対立ー
長崎県と佐世保市が東彼川棚町に計画する石木ダム建設事業を巡り、反対地権者ら計110人(提訴時)が国に事業認定取り消しを求めた行政訴訟の判決が9日、長崎地裁で言い渡される。ダムは必要か否か-。県、同市と反対地権者の間で平行線をたどってきた論争に、司法はどう判断を示すのか。争点を整理した。
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県と同市は、石木ダム建設の目的を、川棚川の治水と同市の利水だと主張。被告の国は公益性を認め、土地収用法に基づく事業認定を告示した。これに対し、建設予定地に住む13世帯の反対地権者らはいずれの点からもダムを建設する必要性がなく、13世帯の土地を強制収用するほどの公共性も欠くと訴えている。
利水面での争点は、同市が2012年に立てた水需要予測(12年予測)と保有水源の妥当性だ。予測では、24年度の1日当たりの取水量は11万7千立方メートル。保有水源は7万7千立方メートルしかなく、不足分4万立方メートルを石木ダムで補う必要があるとしている。
一方、原告側は「同市が水需要予測を過大に、保有水源を過小に評価している」と批判。原告側によると、人口減などで同市の給水量は右肩下がりで、現在は1日当たり8万立方メートル以下まで減少した。にもかかわらず急増と予測しているのは不合理で、佐世保重工業(SSK)の水需要増大や観光客の増加を見込む同市の説明にも根拠がないと指摘する。
保有水源7万7千立方メートルにも疑問符を付ける。同市は慣行水利権で得られる2万2500立方メートルを、河川法の許可がない「不安定水源」とし保有水源から除外。河川法の成立前から継続利用していた水源からの取水を認める慣行水利権について、原告側は「不安定とは言えず、除外する合理性はない」と主張する。
一方の被告側は、12年予測は合理的で、その手法を適切と認めた国の判断は間違っていないと強調。慣行水利権についても権利内容が不明確で、安定取水ができないため保有水源に含めないのは適当としている。
治水面の争点は、県が策定した川棚川の治水計画の▽計画規模▽基本高水▽治水代替案-の是非だ。県の計画は、100年に1度の大雨で想定される河川への最大流量(毎秒1400立方メートル)にも対応できる治水を目指す。そのために石木ダムによる洪水調節が必要という。この「100年に1度」が計画規模、「毎秒1400立方メートル」が基本高水に当たる。
原告側は、県が計画規模を決める際に用いた評価指標が全国的な基準とかけ離れ、評価指標の一つである氾濫面積の算出に川棚川の拡幅工事が施される前の古い河道データを採用しているとして問題視。基本高水も突出した降雨パターンを基に算出し、過大だと指摘する。仮にそうした事態が発生しても、河道改修をしてさえおけば治水の対応はできる、との見解だ。
これに対し、被告側は計画規模と基本高水はいずれも基準に沿い、適正だと反論。他の治水代替案と比較しても、経済性など総合的にダム建設案が優位と結論づけている。
訴訟について、原告団の一人で、地権者の岩下和雄さん(71)は「結局裁判でも納得できる反論は出ず、ダムが不要だとはっきりした」と話す。一方で、原告弁護団長の馬奈木昭雄弁護士(76)は行政訴訟の性格上、裁判所が「行政の広範な裁量」を理由に原告の主張を退ける可能性を懸念し、「そうなれば、行政は目的のために都合のいい数字を使っていいことになる」と強調する。
事業認定した国土交通省九州地方整備局は「法廷で述べてきた主張が認められることを祈る」としている。
◎石木ダム建設事業
県と佐世保市が東彼川棚町岩屋郷の石木川一帯に計画。総貯水容量548万立方メートル。総事業費285億円。1972年に県が予備調査に着手し、75年に国が事業採択。2013年に国が土地収用法に基づく事業認定を告示した。県は16年5月までに、反対地権者13世帯の宅地を含む未買収地約12万6千平方メートルの明け渡し裁決を県収用委員会に申請。うち約5500平方メートルが裁決された。反対地権者らは事業認定取り消しを求め、15年11月に提訴した。
◆2018年7月7日 毎日新聞長崎版
https://mainichi.jp/articles/20180707/ddl/k42/040/229000c
ー石木ダム 事業認定取り消し訴訟 必要性、公共性どう判断 長崎地裁で9日判決 /長崎ー
県と佐世保市が川棚町に計画する石木ダム事業で、水没予定地内に暮らす反対地権者らが、国を相手取り事業認定の取り消しを求めた訴訟の判決が9日、長崎地裁(武田瑞佳裁判長)で言い渡される。認定が取り消されれば、ダム事業に影響を与えるのは必至で、裁判所の判断に注目が集まる。【浅野孝仁】
石木ダム事業は、佐世保市の水道水供給(利水)や、川棚川流域の洪水防止(治水)を目的に計画された。県と佐世保市は石木ダム建設の事業用地を取得するため2009年11月、土地収用法に基づき国土交通省九州地方整備局に事業認定を申請。申請は13年9月に認められ、用地の強制収用が可能になった。
県は、関連する道路分を含む事業用地79万3000平方メートルのうち約80%の買収を終えている。また、反対地権者らが所有する田畑や宅地など約12万6000平方メートル分について県収用委員会に収用の裁決を申請。これまでに田畑約5470平方メートルを収用し、残りも収用委の決定を待つ。地権者らは15年11月、収用に待ったをかけようと、事業認定の取り消しを求めて提訴した。
訴訟で原告側は、佐世保市の水需要予測が過大とし、右肩上がりの需要予測を「根拠がない」と指摘。石木ダムがなくても水源は確保されていると主張した。また治水面では、1975年の河川状況に基づいた不適正な計画で、想定される1時間あたりの降雨確率は500~1000年に一度で、現実に発生する可能性が低いとした。その上で、住民の生活を奪って工事することは許されず、公共性、必要性がない事業は土地収用法に違反すると訴える。
これに対し国側は、水需要の予測や治水計画について、いずれも国の基準や手引きに従っているなどと反論。ダム建設以外の手法では事業費が高くなるとして、「ダムを建設することで得られる利益は、建設により失われる権利よりも大きく、行政には広範な裁量権が認められている」と正当性を主張する。
石木ダム予定地では、県道付け替え道路工事が進んでおり、地権者らは連日、工事現場で座り込みなどの抗議活動を続ける。地権者の一人、岩下和雄さん(71)は「必要のないダムのために古里が湖底に沈むことは許さない」と判決に期待する。一方、県河川課の浦瀬俊郎課長は「判決いかんに関わらず、ダムは治水・利水ともに必要だと思っている」としている。
◆2018年7月8日 朝日新聞長崎版
https://digital.asahi.com/articles/ASL747K4ZL74TOLB00W.html?iref=pc_ss_date
ー長崎)石木ダム訴訟、9日に判決 利水・治水双方が争点ー
長崎県と佐世保市が川棚町に建設を計画する石木ダムをめぐり、用地の明け渡しを拒んでいる地権者らが国を相手取り、事業認定の取り消しを求めた行政訴訟の判決が9日、長崎地裁で言い渡される。裁判では、利水と治水の両面で、ダム建設の必要性が論じ合われてきた。
石木ダムは佐世保市への利水と川棚川流域の治水を目的とした多目的ダム。1975年に建設が決まったが、移転を拒む地権者たちの反対でダム本体の工事は着工できない状態が続いている。県は、補償対象の121世帯のうち8割強から用地取得の同意を得ていた2009年、用地の強制収用が可能になる土地収用法に基づく事業認定を国に申請。13年に国に認定されると、県は手続きを進め、一部の用地を強制収用した。
地権者ら110人は15年、「公共性や必要性が欠けるダムの事業認定は違法」として、提訴。県と佐世保市がダムの必要性の根拠としている佐世保市の水需要の予測が最大の争点となった。
国が事業認定判断の根拠にした12年度の予測では、生活・工場用水などの需要が高まり、安定供給するには24年度で1日あたり11万7千トンの水が必要と試算。保有水源は7万7千トンで、不足分を確保するためにも石木ダムは必要と訴える。
これに対し原告側は、人口が減る中で生活用水の需要が伸びることはなく、工場用水も「需要予測と実績が乖離(かいり)している」と指摘。保有水源は10万5500トンあると主張する。
治水面では、ダム建設が決まった1975年当時の川棚川の河道をもとに氾濫(はんらん)面積が算出され、治水規模が決まった点を問題視。改修が進んだ2005年時点の河道でシミュレーションすべきだと主張している。
被告側は裁判で「利水や治水の観点からみて必要かつ有効なもの。得られる公共の利益は極めて大きい」と反論し、ダム建設の必要性を訴えている。(堀田浩一)