今回の記録的な豪雨では、愛媛県・肱川の国土交通省の野村ダム、鹿野川ダムの放流がダム下流域の被害を大きく拡大しました(死者9名)。
そのことに関して、次のように、ダムがなければ、もっと大きな被害が出ていたというダム擁護論が出ています。
「ダム放流急増、伝わったか 愛媛・西予、2キロ下流で5人犠牲」(朝日新聞2018年7月11日)
https://digital.asahi.com/articles/DA3S13579517.html?iref=pc_ss_date
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京都大防災研究所の中北英一教授(水文気象学)は、「上流からの流れをダムで調整し、下流に流しているので、ダムがなければもっと大量の水が下流に流れ、大きな被害が出ていたのは間違いない」と話す。
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しかし、これは憶測で語った根拠のない話です。
先に、今回の大雨で緊急放流が行われた野村ダム、鹿野川ダム、日吉ダムの流入量と放流量のグラフをこちらのページで紹介しましたが、放流量の上昇速度がはっきりわかるように、横軸を24時間にしてグラフをつくり直しました。下図のとおりです。
野村ダムは、ダム流入量が300㎥/秒から1400㎥/秒まで約4時間半で上昇しているのに対して、放流量は1時間足らずで300㎥/秒から1400㎥/秒まで上昇しています。たった数十分で1000㎥/秒も増加している時間帯もあります。
鹿野川ダムは、ダム流入量が600㎥/秒から3500㎥/秒まで約5時間で上昇しているのに対して、放流量は約2時間で600㎥/秒から3500㎥/秒まで上昇しています。たった数十分で1500㎥/秒も増加している時間帯もあります。
グラフから読み取れるのは、ダムがあったために下流の肱川の流量が急上昇して、避難するのが困難になったことです。
ダムがなければ流量の上昇には4~5時間かかりましたが、ダムがあるために、ダムからの放流で流量上昇時間が1~2時間に短縮され、しかも、そのうちの数十分で流量が急上昇しました。
ダムとは想定外の降雨に対して無力であるだけではなく、放流量を急激に増やしてダム下流の住民を危機に陥れるものなのです。
ダムによる放流で水害を体験した熊本県の球磨川では、上流の五木村に国が計画した川辺川ダムに流域住民が反対して、事業が休止されました。ダムによる河川環境の悪化だけでなく、ダムによる水害の危険性、ダムのない川の恵みが流域で広く共有されていたことが、運動の原動力になったようです。さらに球磨川では、流域の運動により荒瀬ダムが撤去され、瀬戸石ダムの撤去を求める運動と並行して総合治水の取り組みが始まっています。
流域住民の証言より
「ダムの放流水は殆ど高いところから落とされるために、スピードが加速されて下流を下ります。そうすると今までの速さで流れているところにぶつかって水が掃けなくなります。ダムが放流した場合の先端は津波のように立ってくるので、堤防を越えやすくなります。
何より違うのは、ダム湖にため込んだ土砂を一緒に放流することです。放流水は流入水とは全く別物です。」