治水の教訓/土地の歴史を共有せねば(神戸新聞社説)

 今回の西日本豪雨はすさまじい水害でした。きわめて多くの方が避難所での生活を余儀なくされ、生活再建に苦悩しています。また、断水により、日常生活に支障をきたしている地区が数多くあります。
 今回の記録的な豪雨で浮き彫りになったことは、ダムが肝心の時に役に立たないことと、もう一つは、住んでいる土地の安全性の問題です。

 後者の問題を指摘する神戸新聞の社説を紹介します。
 この点であらためて注目すべきは滋賀県の流域治水推進条例(「滋賀県流域治水の推進に関する条例」)です。2014年3月に、当時の嘉田由紀子知事の主導で制定されました。「氾濫の危険のあるところに極力住まないようにする、住むならばそれなりの対応策をとること」を具現化した条例です。
 しかし、残念ながら、その後、滋賀県のほかに流域治水推進条例を制定する自治体は出てきていません。また、国土交通省もそのような動きがありません。

〈参考〉滋賀県公式サイト「流域治水政策室」
    http://www.pref.shiga.lg.jp/h/ryuiki/

◆2018年7月12日 神戸新聞
https://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/201807/0011437332.shtml
ー治水の教訓/土地の歴史を共有せねばー

 西日本豪雨は九州から東海まで広範囲にわたって災害をもたらした。温暖化による気候変動で、河川の氾濫や大規模な土砂崩れがどこにでも起こりうることを痛感させられた。

 ただ、甚大な被害を受けた場所には、過去にも水害に襲われていた所も少なくない。住んでいる土地ではどういう災害が起きやすいかを知り、命を守るための備えを強化したい。

 岡山県倉敷市真備町地区では高梁川の支流の堤防が決壊した。地区の3割に当たる1200ヘクタールが浸水し、家屋にいた高齢者ら40人以上が犠牲となった。

 同地区は1972年にも洪水被害を経験している。市は浸水域を示すハザードマップを各世帯に配布し、氾濫を防ぐために支流の合流地点を変える工事が秋に始まる予定だった。

 そうした地区の特性が、住民に十分伝わっていたのか疑問だ。決壊の危険性が十分に認識されていれば、避難を早め多くの命が救われた可能性がある。

 広島市では山裾の住宅団地が土石流に襲われた。4年前にも別の山裾で大規模な土砂災害があり、何度も土石流が重なった上に住宅が造成されたことが明らかになっていた。

 同様の危険性がある急斜面の住宅団地が市内に多数あり、対策の必要性が指摘されていた。今回の現場に教訓が生かされていたのか、検証が必要だ。

 家を建ててはいけない所という伝承が、開発の中で消える。災害の歴史を伝える地名が市町村合併などで変わってしまう。

 土地の評価が下がるからと、過去の災害情報は積極的に公表されてこなかった。結果、水害の危険性が高い場所に建てられた病院や学校も珍しくない。経済成長の中で、先人の教訓が日本中で軽んじられてきたことも省みるべきだ。

 今回の水害では、ダムの放流や流木で被害が拡大した例も多く見られる。土砂が蓄積してダムの貯水力が失われていることや、人工林が荒廃しているといった上流の実態も、下流の住民の命にかかわる情報だ。

 総合的な治水を進めるために歴史と教訓を地域全体で共有し、災害に強い地域づくりに生かしていかねばならない。

—転載終わり—