八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

熊本県・阿蘇の立野ダム、国は8月本体着工、市民ら反対集会

 国土交通省九州地方整備局は熊本地震の被災地に予定地のある立野ダムの本体工事を8月5日に着工すると発表しました。
 これに反対する12の市民団体が7月22日、「九州北部豪雨6周年 立野ダムと白川の安全を考えるシンポジウム」を開催し、230名が参加したとのことです。

 市民団体「立野ダムによらない自然と生活を守る会」のホームページには、シンポジウムの動画や「現地からの報告」とともに、大熊孝新潟大学名誉教授(河川工学)による基調講演のスライドが掲載されています。以下の文字をクリックするとご覧いただけます。(右下の画像二点=講演スライドより)

「日本人の伝統的自然観と治水のあり方 ー最近の異常豪雨を踏まえながらー」
                   (大熊孝・新潟大学名誉教授)

 集会について伝える毎日新聞によれば、基調講演を行った大熊孝さんは、「ダムは想定以上の降雨で満水となると洪水調節機能を失い、堤防が決壊すれば、多くの死者を出す甚大な被害に直結するとして警鐘を鳴らし」、「大雨の際に越流する可能性のある堤防をあらかじめ強化すれば、ダムよりはるかに安く、水害を劇的に減らせる」と解説したとのことです。
 上記のスライドを見ると、最初に大熊先生の治水についての考え方が示され、その後で2004年7月の新潟豪雨水害、2018年7月の西日本豪雨災害などの分析、そして堤防強化法と田んぼダムの可能性に言及しておられます。

 八ッ場ダムの市民運動がはじめて大熊先生に講演していただいたのは、2004年、当会の前身の八ッ場ダムを考える会が前橋で開催した集会の時でした。
 この時の講演のタイトルは、『八ッ場ダムは利根川治水にとって必要か?』だったのですが、講演の内容の多くは、同年7月の新潟豪雨災害についての具体的な解説に割かれました。15名の犠牲者を出した新潟豪雨水害では、新潟県が「7.13新潟豪雨洪水災害調査委員会」を組織し、大熊先生はこの委員会の委員長代理を務めました。大熊先生は水害の調査から、死者の多くが、急激な浸水で避難が間に合わなかった高齢者であったことや、犠牲の原因となった堤防の破堤は、越水により裏法面(うらのりめん)が侵食し、弱体化したことが主な原因であったことがわかると説明し、堤防強化の必要性、水害に対する高齢者対策や避難態勢が課題であることなどを話されました。講演の結論は、平野における水害の被害を少なくするには、それぞれの河川に応じたきめ細かな対策が必要で、遠い山奥に巨大ダムを建設してもほとんど役に立たないということであったと記憶しています。

 その後、大熊先生は、八ッ場ダム住民訴訟で原告側証人として、治水上八ッ場ダムが不要であることを東大大学院時代の利根川流域における調査研究を基に証言し、当会の代表世話人の一人となりました。この間、大熊先生はダム建設を優先するわが国の河川行政に警鐘を鳴らしてきました。2015年の鬼怒川水害、このたびの西日本豪雨水害の犠牲を考えるとき、新潟水害の教訓が生かされていれば、と思わずにはいられません。
 
 建設省OBの石崎勝義さんや国交省OBの宮本博司さんによれば、水害の被害軽減に大きな効果が見込める堤防強化工法は、旧建設省内ですでに確立されており、一旦は具体化したにもかかわらず、これを国交省はひっこめました。それは、川辺川ダムの賛否を問う議論の中で、堤防強化工法を採用すれば川辺川ダムが必要ないことが明らかになるからで、国交省が人命より組織の利益を優先した結果だったということです。
 以下の記事を書いた福岡賢正さんは、熊本県の川辺川ダム問題を長年追及してきた記者として知られています。福岡さんの著書「「国が川を壊す理由(わけ)ー誰のための川辺川ダムか」(葦書房)は、ダム問題全般について考えるのに役立つ本です。

◆2018年7月28日 毎日新聞熊本版
https://mainichi.jp/articles/20180728/ddl/k43/040/552000c
ー立野ダム 堤防強化の必要訴える 大熊さん招きシンポ 反対住民ら200人参加ー

  河川工学が専門の大熊孝・新潟大名誉教授を講師に招き、国が熊本県の白川上流(南阿蘇村、大津町)に計画する立野ダムの治水効果について考えるシンポジウムが、熊本市中央区であった。甚大な被害を出した西日本豪雨などを踏まえ、大熊さんは「想定外の降雨も想定し治水対策を進めねばならない」として堤防強化の必要性を訴えた。

 シンポは、立野ダム建設に反対する12の住民団体が共催し、流域住民ら約200人が参加した。

 「洪水と治水の河川史~水害の制圧から受容へ」の著者として知られる大熊さんは、想定を超えた豪雨災害が近年頻発している事例を紹介。ダムは想定以上の降雨で満水となると洪水調節機能を失い、堤防が決壊すれば多くの死者を出す甚大な被害に直結するとして警鐘を鳴らした。

 一方、堤防の土に薬液を注入し強化すると、水を数時間連続で越流させても破堤しなかった実験結果を紹介。「大雨の際に越流する可能性のある堤防をあらかじめ強化すれば、ダム建設よりはるかに安く、水害を劇的に減らすことができる」と解説した。【福岡賢正】