観光地として知られる京都の嵐山では、5年前の豪雨による日吉ダムの桂川の氾濫で大きな被害がありました。
国土交通省近畿地方整備局が水害後にまとめた報告書には、「溢水により浸水家屋93戸、浸水面積約10haに達する被害を受け、周辺の旅館等も甚大な被害となった。ピーク時には渡月橋の橋面を洪水が乗り越えた。」とあります。(「桂川における平成25年台風18号出水を受けた対応及び平成26年台風11号の出水概要について 平成26年12月10日 近畿地方整備局」
このたびの西日本豪雨では桂川上流の日吉ダム(水資源機構)が満杯状態になり、緊急放流がおこなわれましたが、2013年9月の台風のあと、河道の堆積土砂の除去などが行われてきましたので、今回は越水を回避することができました。このことは河道整備がいかに重要であるかを物語っています。
◆2018年7月31日 毎日新聞京都版
https://mainichi.jp/articles/20180731/ddl/k26/040/464000c
ー桂川で越水回避 緊急治水工事が奏功 5年前の二の舞い免れる 嵐山・伏見 /京都ー
5日から府内に降り続いた豪雨で、京都市右京区の嵐山や伏見区では桂川の水位が一時上昇したものの、2013年9月の台風18号で起きたような浸水被害は免れた。渡月橋などの世界的景観で知られる桂川で、国土交通省は14年から史上最も大がかりな緊急治水工事を170億円をかけて実施し、河床に堆積(たいせき)していた72万立方メートルの土砂を除去してきた。同省淀川河川事務所は「浸水しなかったのは工事の成果」と安堵(あんど)し、データを検証して今後の治水対策にも生かす方針。【篠田直哉】
今回の大雨で桂川は5日夜から7日未明まで増水状態が続いた。5日深夜に水位が上昇した後、いったん下降したが、上流の日吉ダム(南丹市)が201メートルの洪水調節の上限水位に迫る満杯状態となったため放流を開始。6日午前4時台は毎秒149立方メートルだった放流量は、ダムの水位が200・54メートルに達した同5時には294立方メートルに増加。午後3時台に700立方メートル台、同5〜6時台にピークの907立方メートルに達したが、その後は徐々に減少することができた。
下流の桂観測所(京都市西京区)での水位は、5日午後10時から6日午前3時まで氾濫危険水位(4メートル)を最大17センチ超え、いったんは水位が低下したものの、6日午後に再び上昇。午後2時に6センチ超え、午後8時に最大23センチ超えとなり、午後11時まで超過状態が続いた。淀川河川事務所によると、堤防の上限から1〜2メートルの余裕はあったが、府は5年前に浸水の起きた桂川と鴨川の合流地点の久我(こが)橋付近で陸上自衛隊に2度の災害派遣を要請し警戒した。
川底1メートル下がる
5年前の台風18号被害を受け、国交省は14年から5年計画で渡月橋から下流の三川合流地点まで約18キロにわたり、堤防の越水を防ぐ対策として河床の土砂を掘削する緊急治水対策を進めている。桂川の管理が府から国に1967年に移管されて以降は最大規模の工事で、土砂100万立方メートルの除去を計画。これによって川底が渡月橋下流で約1メートル下がった。川の堰(せき)も一部を撤去し、流れを中央に集める工事も実施した。
昨年10月の台風21号の大雨でも桂川は水位が上昇したが、嵐山の中之島公園で浸水被害はなかった。国交省は検証の結果、工事で水位を約0・5メートル低下させる効果があったと発表。19年度末までさらに28万立方メートルを掘削する予定だ。淀川河川事務所の犬丸潤副所長は「今回もどれだけ成果があったか、データを検証したい」と話す。
ダム放流増も評価 店舗経営者ら
今回の日吉ダムの放流について、嵐山の店舗経営者らからは河川改修工事の効果と合わせて肯定的な意見が聞かれた。
左岸で竹製品専門「嵐山いしかわ竹乃店」を経営する嵐山保勝会の石川暢之介(ちょうのすけ)会長(82)は「放流増量には下の棚の商品を2階に上げるなどして準備した。どうなることかと思ったが、嵐山で大きな被害はなかった。5年前の台風後に専門家の意見も取り入れ、渡月橋の下流の6号井堰をなくしたり、川の底を掘ったりと、河川改修をしてきた成果だと思う。水がスムーズに流れた」と評価した。
同会常任理事で中之島地区で土産物店「大市」を経営する早田一郎さん(61)は「900トンの放水は想像しておらず驚いた。しかし、ダムが決壊したらもっと大変なことになっているはず。今回の放水は正解だったと思う」と話した。
右岸にある旅館の代表の男性(55)は「放水増量の前に嵐山通船から連絡があり、覚悟していた。ダムがいっぱいになれば仕方がなく、あふれることを前提に備えるしかない。氾濫しなかったのは河川改修の効果が出たと感じた」と述べた。 【国本ようこ】