八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

岡山真備町の氾濫から見えてきた教訓(日経コンストラクション)

 今回の西日本豪雨による河川の氾濫で、最も犠牲者の多かったのが、50人以上の死者が出た岡山県真備町です。
 原因となった高梁川水系については、今秋から予定されていた河川改修がなぜ遅れたかについて追及したNewsweekの記事をこちらのぺ―ジに転載しています。
 また、高梁川上流のダムの緊急放流の問題などに関するハーバー・ビジネス・オンラインの記事は、こちらのページでご覧いただけます。

 この真備町の水害について、日経コンストラクションの記事では、一回目でバックウォーター現象について、二回目で河川敷や堤防の管理が疎かになっていたことを取り上げています。

◆2018年7月25日 日経コンストラクション
https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/column/18/00372/072300034/?P=1 
ー2018年7月列島縦断豪雨 「バックウオーター現象」の連鎖で氾濫拡大 岡山・真備町の氾濫から見えてきた教訓1ー

  「平成30年7月豪雨」で、50人を超える死者が出た岡山県倉敷市真備町。高梁(たかはし)川水系の高梁川の支流である小田川などの決壊によって被害が拡大した。被災直後から決壊の要因として専門家が指摘するのが、「バックウオーター現象」だ。7月18日の土木学会水工学委員会の現地調査などから、小田川の支流でも同様の現象が生じたことが明らかになってきた。

 夏の台風シーズンを前に、「平成30年7月豪雨」で決壊した堤防の復旧が急ピッチで進む。岡山県倉敷市真備町の小田川では、決壊規模が大きかった左岸破堤部(延長100m)で、7月15日に堤防の締め切り盛り土が、21日に堤防の住宅地側に鋼矢板による二重締め切りの補強が完了した。豪雨災害から2週間で決壊箇所の緊急復旧を終えた。

  記者が現地を訪れた7月18日には、小田川の支流である高馬川でも復旧作業が続いていた。コンクリート3面張りの高馬川は、小田川との合流部付近で右岸側が決壊。左岸側も一部崩れた。

 同日に現地に入った土木学会水工学委員会の調査団長である岡山大学大学院の前野詩朗教授は、「高馬川の右岸がまず決壊。その水の勢いで川底の地盤が吸い出されるとともに底版コンクリートが右岸側に移動し、それにつられて左岸側のコンクリートも引っ張られたのだろう」と推測する。

真谷川でもバックウオーター現象?
 小田川決壊の主な原因と言われているのが、「バックウオーター(背水)現象」だ。今回の豪雨災害の報道などで、その言葉が世に広まった印象が強いが、河川管理者であれば誰もが知っている現象の1つ。高梁川本川の水位が高いために水が小田川へ回り込み、小田川の流れが阻害され水位が高くなったとみられる。

 さらにこの現象は、小田川とその支流である高馬川や真谷(まだに)川などでも起こっていた可能性が高い。真谷川は小田川と合流する付近の左岸が破堤した。岡山大学の前野教授は周辺の状況を基に、「背水の影響を受けて真谷川の水位が高くなったことが、破堤などにつながったのではないか」と指摘する。

 なお、土木学会の調査では、真谷川の堤防上にある植生の洪水の痕跡から、破堤部の上流側と下流側で、流れの向きが変わっていることが判明した。今後の検証次第で、破堤までのメカニズムを解明できる可能性があり、期待が高まる。

小田川の付け替えを計画していた
 「バックウオーター現象は合流部や狭さく部など、どこの川でも起こり得る現象だ」と岡山大学の前野教授が語るように、そもそも治水の安全度が異なる河川の合流部では、支川と比べて本川を多くの洪水が流れる関係から、支川へ本川の水が回り込むケースはそれほど珍しくない。将来の河川の姿を描く河川整備基本方針では、高梁川が150年に1度の確率の洪水を、小田川が100年に1度の確率の洪水を安全に流すよう整備することになっていた。

 小田川では、背水の危険性は以前から強く認識されていた。合流部に位置する真備町では、昔から何度も背水の影響による内水・外水被害に苦しんできたためだ。

 バックウオーターの影響を強く受けるということは、高梁川水系の河川整備基本方針で記載されている数字を見ても明らかだ。小田川の計画高水流量は毎分2300m3で、高梁川は同1万2000m3だ。ただし、2つの川の合流後の計画高水流量は毎分1万3400m3と、単純に合計した値にはならない。

 「高梁川の堤防の整備が完了して最大1万2000m3が流れる洪水の場合でも、高梁川の水位の影響を受ける小田川では1400m3しか流れない」。小田川の管理者である国土交通省中国地方整備局の岡山河川事務所計画課の石原淳男事業対策官はこう説明する。

 中国地整は背水の影響を抑えるために、事業化に向けて既に動き始めていた。2010年には20~30年後の整備目標を盛り込んだ河川整備計画を作成。小田川と高梁川との合流位置を約4.6km下流へ付け替えようとしていた。

河床勾配が異なる2つの河川
 なぜ、合流部を下流へ付け替えると背水の影響を抑えられるのか。元の合流部付近の高梁川が湾曲しており、水の流れにくさを解消できることが理由の1つだ。加えて、高梁川と小田川の河床勾配の違いにも訳がある。

 中国山地から流れてくる高梁川の河床勾配は、合流部付近で約900分の1。一方、小田川は東西に流れており約2200分の1と高梁川と比べて緩い。わずか数キロメートルでも下流で合流させれば、勾配が急な高梁川の水位は大きく低下する。水位が下がれば、背水の影響が生じにくくなり、洪水時の小田川の水位も低下。約5mは下がる試算だ。

 高梁川の水位が下がり、バックウオーターの影響を受けにくくなれば、小田川の流速が増す。そのため低い水位のまま、これまでと同じ量を流せるようになるわけだ。

 小田川付け替え後の敷地は、もともと明治時代に流れていた高梁川の分派の河道だ。現在は柳井原貯水池として利用されており、用地確保にはそれほど困らない。それでも地質調査や測量、設計、環境アセスメントなど、工事に向けた準備には時間がかかる。ようやく今年の秋から、県道の付け替えや工事用道路の設置などに着手する予定だった。

 「国管理の小田川の付け替えが実現していれば、その支流である高馬川などの水ももっと流れていたはずだ」。現地を視察した京都大学大学院工学研究科の立川康人教授はこう指摘する。

「水害に対する安全度は地形で決まる」
 中国地整岡山河川事務所の常保雅博副所長は「今回の豪雨で、小田川の河道にどの程度の水が流れていたのかについては、氾濫した影響なども加味して計算する必要がある。解析途中なのでまだ正確ではないが、小田川の流量は100年に1度の豪雨よりも少なかったと考えられる」と話す。

 バックウオーター現象が生じやすい、築堤河川と築堤河川の合流部以外にも水害リスクの高い場所はある。滋賀県立大学環境科学部環境政策・計画学科の瀧健太郎准教授は、「水害に対する安全度は堤防の高さで決まるのではなく、地形で決まる。要はどこに水が集まるかが重要になる」と指摘する。

 同氏は長年、滋賀県の職員として治水事業に携わり、水害リスクのある場所を見てきた経験から、河川の合流部付近は危険なケースの1つにすぎないと主張する。

 「鉄道や道路などの連続盛り土が川を分断している上流部や、両岸に山が迫って狭さく部になっている場所、海面よりも低い干拓地などは、あふれた水が集まりやすい。注意が必要だ」(瀧准教授)。

◆2018年7月27日 日経コンストラクション
https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/column/18/00372/072300035/
ー2018年7月列島縦断豪雨 問われる「氾濫原管理者」の本気度 岡山・真備町の氾濫から見えてきた教訓2ー

 「平成30年7月豪雨」で広範囲に浸水して50人を超える死者が出た岡山県倉敷市真備町では、河川にバックウオーター現象が生じる地形的特徴以外にも、様々な水害リスクがあったことが浮かび上がってきた。予算や人員が限られるなか、全ての対策を取ることは不可能だが、それを補完するソフト対策などにきちんと取り組めていたかどうかが重要になってくる。氾濫した後の対策を誰が責任を持ってやるべきか。新たな課題が突き付けられた。

 真備町のなかでも犠牲者が多かったのが有井地区だ。高梁(たかはし)川水系の小田川の左岸に合流する末政川が集落を南北に貫くように流れる。河床が周囲の地面よりも少し高い「天井川」として知られており、決壊によって多くの家屋が被害を受けた。

 今回の豪雨では、1つの河川で複数の破堤や越流が目立った。水があふれ出ても川の水位が下がらないほど、大雨で水が供給され続け、様々な箇所で堤防が浸食したとみられる。

 真備町の浸水範囲が、洪水ハザードマップ通りだったことも、大雨が長時間降り続いたことを裏付けている。

 そもそも洪水ハザードマップは洪水浸水想定区域図を基に作成する。同図は簡単に言うと、計画規模の雨を降らせて、複数の決壊箇所を想定し、破堤点別に決壊したシミュレーションを実施。それぞれで最大となる浸水深を表示したものだ。そのため、一般的には実際の浸水エリアよりも、シミュレーションは過大な結果となる。ただし、今回は破堤が複数箇所に及んだせいか、ハザードマップ通り甚大な被害となった。

河川内に繁茂する“森”
 降雨量以外にも、被害を拡大させた恐れのある要因が浮かび上がってきた。

 例えば、河川区域内に繁茂している樹木は、洪水に何らかの影響を与えた可能性がある。小田川には水の流れが一目で分からないほど、多くの木々が茂っていた。

 今回の洪水にどれだけ影響を与えたのかは不明だが、かなり大きな木が育っていたことから、水の流れを阻害して水位を上昇させた可能性がある。

 河川管理者である国土交通省は治水上の支障を解消するために、毎年、予算を付けて木を伐採しているが、対象範囲が広すぎて焼け石に水だという。伐採費用やその処分費用を浮かすために、樹木伐採者を公募するなどの対策も講じるものの、十分とは言えない。一方、切りすぎは環境面や生態面での問題をはらんでおり、これまで以上に計画的な管理が求められている。

天端の舗装はどこまで効いた?
 被害を拡大させた要因の解明が不可欠な一方、近年進めてきた河川整備の効果を検証することも忘れてはならない。2015年9月の関東・東北豪雨災害を受けて、国交省が同年12月に作成した「水防災意識社会・再構築ビジョン」に関連する施策を小田川でも実施していた。

 越水が発生した場合でも決壊までの時間を少しでも引き延ばせるように、堤防の天端にアスファルト舗装などを施工する「危機管理型ハード対策」はその1つ。

 小田川の堤防の天端はもともと、車両が走る道路としてその多くが舗装されていたこともあり、今回の豪雨時点で未舗装部は全て対策済みだったという。

 「小田川の右岸側で越水した箇所が、法崩れだけで破堤に至らなかった」。国交省中国地方整備局岡山河川事務所の常保雅博副所長はこう話す。天端の舗装が効果を発揮したのかどうかはまだ分からないが、今後、こういった効果を検証することは重要だ。

国と市が合同で避難体制の検証を
 小田川付近が水害に対して脆弱な土地だったことは河川管理者である国交省をはじめ、多くの住民も意識していたようだ。それだけに、避難体制などのソフト面に力を入れて、被害を抑えることができなかったのかが悔やまれる。誰がどんな対応をしておくべきなのか、今回の災害は重い課題を残した。

 河川法で定めている河川管理者の治水上の義務的責任範囲は、誤解を恐れずに言えば、計画した規模の雨が降った際の基本高水を河道内で安全に流すために事業を進めることだ。一方で、氾濫原(河川区域外)の管理の権限は基本的には自治体が持つ。ただし、近年の越水・決壊に伴う被害者の数を見ると、堤防から水があふれても被害が生じないような対策を自治体が適切に取っているとは言い難い。

 先述した「水防災意識社会・再構築ビジョン」には、氾濫した場合にどう対応すべきかについてヒントが描かれている。円滑な避難の実現に向けた対策や的確な水防活動の推進はもちろんのこと、水害リスクを踏まえた土地利用の促進など、より踏み込んだ対策が盛り込まれた。

 国交省中国地整岡山河川事務所によると、今後、倉敷市と合同で今回の豪雨による避難情報の周知状況や避難体制について検証する予定だ。緊急時の避難が物理的に困難な地域などについては、住まい方や土地利用の規制などに踏み込むこともこれから考えざるを得ないだろう。

深さ3m以上を災害危険区域に指定
 安全な住まい方などを考えるうえで、参考になるのが、率先して氾濫原の管理に取り組んできた滋賀県だ。

 同県では14年、水害の危険性が高い場所の建築を規制する「流域治水条例」を制定。200年に一度の大雨で深さ3m以上の浸水が予想される浸水警戒区域を、建築基準法第39条で定める災害危険区域として指定できるようにした。

 17年6月には住民の合意を得て、初めて米原市村居田(むらいだ)地区の一部を浸水警戒区域に指定。指定区域で新築や増改築する場合、浸水深が3m未満になるようにかさ上げするか、浸水しない避難場所を設けることが義務付けられる。対策工事では県が上限400万円のかさ上げ助成金を出す。国の補助金はなく県の負担はかなり大きいが、それだけに県の「氾濫原管理者」としての本気度がうかがえる。

 滋賀県の流域治水条例の作成に関わってきた元県職員で、現在は滋賀県立大学環境科学部環境政策・計画学科の瀧健太郎准教授は次のように振り返る。「滋賀県は超過洪水を考えて、あふれても大丈夫な地域づくりを実践している。流域治水条例を作って『氾濫原管理者』になると宣言し、100年先の国土を見据えて危ない所に人が住まないよう事業を進めている」。

 さらに瀧准教授は、「中小規模の河川には降り始めから洪水到達までの時間が短いケースが多い。しかも変動幅も大きい。的確な避難勧告などの体制強化も重要だが、逃げなくても大丈夫な街づくりをしておかなければ、氾濫原管理者として責任を果たしているとは言えないのではないか」と指摘する。

 滋賀県以外にも、土地利用対策で氾濫被害を防ごうとする自治体が出てきた。奈良県ではこの4月から、「大和川流域における総合治水に関する条例」を施行。10年確率の降雨で想定浸水深が50cm以上の区域は、新たに市街化区域として定めないこととした。

 自治体が真の意味で氾濫原管理者になれるか――。多くの被災者を出した真備町の豪雨災害は、社会全体で洪水に備えるための転機としなければならない。