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愛媛県の大洲市議会、ダム大規模放流で全員協議会

 西日本豪雨の際に大規模放流して下流で死者を出した鹿野川ダムの操作について、昨日21日、被災した愛媛県大洲市の市議会が全員協議会を開催しました。
 ダム操作の方法が問題になったようですが、今回の豪雨は操作の方法で対応できるものではなかったと思います。
 右に当時の鹿野川ダムの貯水量変化図(嶋津暉之作成)を掲載します。鹿野川ダムでは事前放流で貯水量を1330万㎥から750万㎥に引き下げていましたが、その効果は見られませんでした。ダムの洪水調節効果を前提とした治水計画そのものを見直す必要があります。

 ダムは水没予定地の住民を犠牲にしてつくられますが、ダムの影響を受ける下流域ではダムについて、洪水時の操作も含め殆ど知られていません。「ダム湖観光による地域振興」を目指すより前に、ダムが抱える問題を知る必要があるのではないでしょうか。

 鹿野川ダムのある肱川水系では、鹿野川ダムや野村ダムを管理する国土交通省四国地方整備局が、支流の河辺川で山鳥坂ダム事業を進めています。ダムが建設される流域では、ダム事業に予算が割かれ、ダム建設を前提にして治水計画が立てられるため、堤防などの整備は疎かになりがちです。
 元大洲市議の有友正本さんによれば、大洲市議会では堤防についての意見や質問は出なかったのですが、県管理部分の堤防建設の進捗率は、予算ベースで50%、工事ペースで30%だそうです。有友さんは、「本来であれば国交省や愛媛県は、山鳥坂ダム建設や鹿野川ダムのトンネル洪水吐き(鹿野川ダム改造事業)にいそしむのではなく、堤防建設にいそしむべきであったのです。」と仰っています。山鳥坂ダムは本体工事未着工です。⇒参照 国土交通省四国地方整備局 山鳥坂ダム工事事務所

 大洲市と同じ肱川流域の西予市では、上流の野村ダムの放流によって死者が出ました。西予市では市と国交省四国地方整備局が住民対象の説明会を開き、700名の住民が参加、説明会は深夜まで続いたとのことです。大洲市では住民対象の説明会は開かれないのでしょうか?
*参照「愛媛県・野村ダムの説明会、ダム直下の地区で」
 

◆2018年8月21日 毎日新聞
http://mainichi.jp/articles/20180822/k00/00m/040/043000c
ーダム大規模放流で全員協議会ー

 西日本豪雨で肱川(ひじかわ)が氾濫し多数の犠牲者が出た問題で、国土交通省四国地方整備局の担当者が21日、愛媛県大洲市議会の全員協議会に出席し、大規模放流した市内の鹿野川ダムの操作について「ルール通り」と強調した。市議からは「想定外の豪雨には想定外の対応をすべきではないか」と厳しい意見も相次いだ。

 鹿野川ダムを管理する同局山鳥坂(やまとさか)ダム工事事務所の小長井彰祐事務所長は、強い雨が続いた後、7月7日未明から雨量が急増した点を強調。柔軟な対応ができなかったのかと問われると、「放流のルールは関係機関との協議で決まっており逸脱できない」と述べ、「定められた中でやるのが使命だ」と語気を強める場面もあった。

 鹿野川ダムは同日朝、市に操作の可能性を伝えた上で、決壊を避けるため流入量とほぼ同量を放流する「異常洪水時防災操作」を実施。最大放流量は安全とされる基準の6倍を超えた。市内の豪雨犠牲者4人のうち、3人は肱川氾濫による浸水で水にのまれるなどして死亡した。上流の野村ダム(同県西予市)でも大規模放流後の氾濫で5人が犠牲になったが、国交省担当者は同様の説明をしている。【中川祐一】

◆2018年8月21日 日本経済新聞(共同通信配信)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO34383940R20C18A8AC1000/ 
ーダム放流「想定外対応を」 国交省説明に愛媛・大洲市議会 ー

  西日本豪雨で氾濫した愛媛県の肱川上流にある野村ダム(西予市)と鹿野川ダム(大洲市)が安全とされる基準の6倍の量を放流した問題で、大洲市議会は21日、全員協議会を開いた。鹿野川ダムを管理する国土交通省四国地方整備局の担当者が放流の経緯などを説明。市議からは「想定外の災害なのだから、想定外の対応をすべきではないのか」と質問が飛んだ。

 これに対し、担当者は「(放流の)操作は決まっていることをやらざるを得ない」「時々刻々とさまざまな作業をしている。定められたルールの中でやるのが使命だ」と語気を強める場面もあった。

 協議会の冒頭、出席者全員で犠牲者を悼み黙とうした。二宮隆久市長は「今回の災害の状況を正確に把握し、課題を解決するためにどのような対策をしていくのか検討したい」とあいさつした。

 鹿野川ダムの放流は雨が強まった7月7日朝に始まり、最大放流量は安全とされる基準である毎秒約600トンの6倍に当たる約3700トンだった。大洲市は大規模な浸水被害が発生し、水が流れ込むなどして3人が死亡、土砂災害で1人が亡くなった。

 住民からは、ダムの操作や警報などの情報提供の在り方について疑問の声が上がっている。〔共同〕

◆2018年8月22日 愛媛新聞
https://www.ehime-np.co.jp/article/news201808220038
ー大洲市議会 ダム大量放流 旧規則なら「被害違う」 国交省が操作見解ー

  西日本豪雨などによる7月7日の肱川水系の氾濫を巡り、国土交通省は21日の大洲市議会議員全員協議会で、鹿野川、野村両ダムの大量放流について説明した。山鳥坂ダム工事事務所の小長井彰祐所長が、大規模洪水に対応した1996年6月までのダム操作規則であれば、「(大洲市内の)浸水の面積や深さは小さかった」との見解を示す一方で「6日時点で(菅田地区などで)浸水が発生していた」と、操作規則に一長一短がある面を指摘した。

 「もし操作規則が違っていればと考えることはあるか」との大野立志氏(肱風会)の質問に答えた。国交省は95年の洪水を機に、大規模洪水に対応した操作規則から、中小規模洪水に有効な操作規則に変更。多くの犠牲者が出た今回の豪雨時の操作に住民から疑問の声が出ている。

 豪雨では、最大で野村ダム毎秒1797トン、鹿野川ダム3742トンが放流され、大洲市内の浸水面積(国管理区間)は約887ヘクタールと2004年8月の台風16号時の約1・6倍になった。毎秒放流量と浸水の関係について、小長井所長は「野村は300トン、鹿野川は600トンを超えると菅田地区で家屋浸水が始まる」と指摘。野村400トン、鹿野川850トンを超えると東大洲地区など市街地で浸水が始まると説明した。

 鹿野川ダム直下にあり、甚大な被害を受けた肱川地域について「放流した直後に市肱川支所を中心としたエリアであれだけのことが起きた。(操作)ルールどうこうだけでなく、例えば(大洲市長との)ホットラインなど何かできなかったのかと思う」と述べた。

 本年度中に完成予定の鹿野川ダムの洪水吐(ばき)トンネルに関しては「完成していれば洪水調節容量が増える。具体的な量は示せないが、ある程度の被害軽減には資することができた」とした。

 市によると、国交省による説明は議会の声を受け市が要請し実現した。議員10人が「3742トンも放流する必要があったのか」「想定外の雨量には想定外の行動を」などと放流や操作、ホットラインなど情報提供について質問。「もっと早い段階で放流量を上げることが被害の低減につながるのではないか」との声もあった。