西日本豪雨の際、愛媛県の肱川では、国土交通省の野村ダムと鹿野川ダムが緊急放流を行い、8名の流域住民が水害の犠牲者となりました。流域住民の怒りの声が高まる中、国交省四国地方整備局は「ダムの操作に関わる情報提供等に関する検証等の場」を設け、7月19日の第一回に続き、9月14日に第二回の会議が開かれました。
http://www.skr.mlit.go.jp/pres/new/i1408/180912-1.pdf
報道によれば、会議では緊急放流に伴う、避難指示の情報遅れが問題になったようです。
そうしたことも問題ではあると思いますが、未曽有の豪雨でパニックに陥ったであろう現場の担当者や地元自治体の責任ばかりを追及することは、本質的な問題から目をそらすことにも繋がります。国交省が検証の対象を、会議の名称にあるように「ダムの操作等に関わる情報提供等」に限定したことこそ問題です。
肱川のダム緊急放流に関する検証は、「今後2回ほど会合を開き、年内をめどにとりまとめる」((毎日新聞愛媛版9/15)ということです。西日本豪雨水害の元凶はダム偏重の河川行政ですが、本質的な問題は国交省が行う検証の遡上には乗りそうもありません。肝心の時に役立たないだけでなく、下流住民が避難する時間をも奪ってしまうダムに依存した国の治水計画(肱川水系河川整備計画)を改めるべきですが、国交省は肱川水系で新たな巨大ダム(山鳥坂ダム)事業を進めています。
肱川のダム緊急放流問題については、こちらのページの解説スライドをご参照ください
⇒「西日本豪雨で明らかになったダムの限界と危険性」(嶋津暉之さん)
◆2018年9月14日 テレビ愛媛
http://www.ebc.co.jp/news/data/index.asp?sn=6022
ーダム操作の検証 肱川地域に避難指示の情報遅れー
野村ダムと鹿野川ダムの放流操作を検証する会合が開かれ、7月の豪雨当時、肱川支所への避難指示の情報が大幅に遅れていたことが指摘されました。
7月の豪雨では野村ダムと鹿野川ダムの緊急放流で肱川が氾濫し、西予市と大洲市であわせて8人が犠牲になりました。
きょう開かれた2回目の検証の場の会合には大洲市と西予市の担当者が出席。大洲市が7月の豪雨で避難指示を発令した際、土砂崩れで防災無線の回線が遮断され肱川支所への情報伝達が大幅に遅れたことが指摘されました。
この問題を受け大洲市は避難の情報が支所や市民に伝わったかどうか確認できるシステムを構築する方針です。国は今月18日から大洲市の住民を対象に説明会を開く予定で、今後、住民の意見を踏まえながら検証結果を取りまとめます。
◆2018年9月14日 南海放送
http://www.news24.jp/nnn/news87810546.html
ーダムの情報伝達 住民との情報共有推進(愛媛県)ー
西日本豪雨を受けて国土交通省が設置した効果的なダム操作や情報提供のあり方などを検証する2回目の会議が大洲市で開かれた。
14日の会議には委員を務める河川工学や防災情報の専門家をはじめ、西予市や大洲市の市長などが出席した。
会では、まず西日本豪雨の際にダムと自治体がどのような情報伝達を行っていたか担当者から説明があった。
この中で、大洲市が避難指示を出す基準が川の水位であったことについて、委員からは当時、水位情報を住民が知る機会があれば自主的に避難する可能性もあったのではという指摘があった。
また別の委員は、今後の住民への情報提供については「注意喚起の文言を変えただけでは行動してもらうのに限界がある」とした上で集会やアンケートなどでの情報共有の必要性を訴えた。
四国地方整備局では、年内を目標に会議での意見を取りまとめたいとしている。
◆2018年9月14日 毎日新聞愛媛版
https://mainichi.jp/articles/20180914/ddl/k38/040/510000c
ー西日本豪雨 避難指示、連絡忘れ 大洲市、3支所に /愛媛ー
西日本豪雨の際、市内全域に避難指示が出された大洲市で、市が肱川、長浜、河辺の3支所に指示発令の連絡を忘れていたことが13日明らかになった。また、肱川、河辺両支所管内に指示を伝える防災行政無線がケーブルの断線で放送されなかったことも分かり、市は調査を始めた。
市によると、大洲市では7月7日午前7時半、鹿野川ダム(同市肱川町)が大規模放流をする5分前に市内全域に避難指示を発令。防災無線で放送し、消防団など関係機関に連絡したが、市内に三つある支所へは連絡はしなかった。市危機管理課の業務マニュアルでは連絡は義務づけられていないが慣例的にいつも連絡しており、今回は忘れていたという。
肱川支所は近くの河辺川が氾濫したため、午前8時過ぎに危険と判断し、独自に防災無線で避難を呼びかけた。同課は「速やかに連絡していればもっと早く避難できた可能性があり、重く受け止める」とし、「今後は支所との連絡体制をマニュアルとして位置づける」としている。【中川祐一】
◆2018年9月15日 愛媛新聞
https://www.ehime-np.co.jp/article/news201809150047
ー愛媛豪雨災害 ダム検証 自治体初参加 肱川氾濫 操作柔軟化提言もー
西日本豪雨による肱川水系氾濫を受けて国が野村、鹿野川両ダムの操作や住民への情報提供を検証するため設けた会合が14日、大洲市であった。河川やダムの専門家からは、降雨予測を活用し、洪水規模や雨の降り方に応じて操作規則を使い分けるなど、運用の高度化・柔軟化を検討するよう提言があった。
2回目の会合で大洲、西予両市長と河川管理者の県も初参加した。
座長の鈴木幸一愛媛大名誉教授(河川工学)は、1996年の両ダムの大規模洪水に対応した操作規則からの変更が今回は裏目に出たとし今後は、上流と下流の降り方の違いに即した対応が考えられるとした。森脇亮愛媛大教授(水文・気象学、防災情報)は「改定経緯や根拠の洗い出しが大事」と指摘し、現行の中小規模洪水想定に加え大規模洪水用の操作規則の併用を提案。一方で、現状では被害のない地域に犠牲者が出たり、渇水になったりする恐れもあるとした。
管家一夫西予市長は、豪雨前にダムの空き容量を増やして放流方法を変えた場合の被害シミュレーションを示すよう国に要望。
住民への周知改善へ羽鳥剛史愛媛大准教授(土木計画学、合意形成論)は「住民の避難を促すことができなければ意味がない。事前に住民と共有することが肝要だ」と求めた。
国は豪雨時の両ダム上流の流域平均雨量や流入量の予測概要を示し、野村ダムでは異常洪水時防災操作直前の7月7日午前6時時点で1時間雨量の予測が30ミリ台だったのに対し、実際は50ミリを上回るなど正確な予測は困難と主張した。
鈴木座長は会合後、「降雨予測が正確なら最適な操作ができるが、難しいので規則を決めている。(今回の操作は)仕方なかったと思う」と述べた。96年の規則変更は大洲市側の下流地域を守るためとし「急激な降雨や気象の激甚化でどこを重点的に守るのか考える必要がある」とした。
国は次回、情報提供やダム操作の技術的考察について見直し案を示し、年内には結論を取りまとめる方針。
https://www.ehime-np.co.jp/article/news201809150048
ー愛媛豪雨災害 鹿野川ダム操作検証 大洲市「迅速な発令方法検討」ー
【避難情報「伝わり方」焦点】
鹿野川ダムの異常洪水時防災操作開始5分前に避難指示を発令した大洲市。市内では浸水で3人が死亡した。14日の検証の会合では、発令を早める余地がなかったのかどうかや、避難情報の「伝わり方」などが焦点となった。
市は7月7日午前7時半、肱川の水位を基準に避難指示を出した。きっかけは23分前に入った「大洲第二観測所の水位が同10時半に8・15メートルに達する」という国土交通省の予測情報(同6時半時点)だった。
ただ、午前5時10分には同省から「防災操作の可能性あり」と伝えられている。羽鳥剛史愛媛大准教授は「発令まで2時間20分かかった。もっと早められなかったか」と問うた。市担当者は「可能性の段階で伝えると市民も混乱すると思う」としつつ、「早められるかは研究しないといけない」と説明。市が避難情報の効果的な伝え方について助言を求める場面もあった。
「伝え方」「伝わり方」は、市が発令基準とする水位でも議論に。水位予測情報は同1時半に「6・45メートル」、同3時半に「7・23メートル」などとなっており、森脇亮愛媛大教授は「予測は変化するため悩ましいだろうが、水位の危険性を住民が知る機会があれば、(正式な)避難情報を待たず自主的に逃げた可能性もある」と指摘。情報を出す側は受け手の意見も聞き、伝え方のルールを考えるべきだと強調した。
市がダム直下の市肱川支所に避難指示発令を連絡していなかった問題も議論になり、羽鳥准教授は、情報の発信側が受け手の受理を確認できる仕組みが必要と指摘。二宮隆久市長は「伝えただけで終わるのではなく、支所、市民に伝わったかどうか確認するシステムを作るよう指示した」とした。