神奈川県の相模湾岸では、この30年の間に、ダムの堆砂等のせいで50メートルも海岸線が後退したところがあるということです。
神奈川県は後退した海岸線への対策として、2006年から相模川水系のダムの堆積土砂を使って養浜を行い、2011年には「相模湾沿岸海岸侵食対策計画」を策定しましたが、養浜をさらに広範囲に行う方向で検討を始めたということです。
右画像=「相模湾沿岸海岸侵食対策計画」表紙
*神奈川県公式サイトより 相模湾沿岸海岸侵食対策計画
http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/f160298/
ダム堆砂の最新データ(平成28年度末、国土交通省開示資料)はこちらのページに解説とともに掲載しています。掲載データのうち、相模川水系のダムの堆砂状況を示している箇所は以下の通りです。
平成28年度末の堆砂量が情報開示された相模川水系8ダムのうち、宮ヶ瀬ダムは全国のダムの中で八ッ場ダムに次ぐ事業費をかけたダムですが、堆砂のスピードが計画よりはるかに速く、竣工からわずか17年で100年間に貯まる予定の土砂(堆積容量)の三分の一に達しています。昭和22年竣工の相模ダム(昭和22年竣工)は、堆砂量が総貯水容量の1/3に近づいてきています。
ダムの機能を低下させ、寿命を縮める堆砂の進行を遅らせるために、ダム事業者はダムの浚渫作業を行っています。浚渫土砂の用途として養浜を行うことは、一見合理的なようですが、本来、土砂を上流から下流へ運ぶのは川の役割です。上流の土砂を堰き止めているダムを撤去すれば、養浜など行わずとも海岸線は再生します。
◆2018年10月3日 朝日新聞神奈川版
https://digital.asahi.com/articles/ASL9F55T2L9FULOB00V.html?iref=pc_ss_date
ー海岸線の後退防げ 県、「養浜」の拡大を検討ー
神奈川県は、相模湾岸で進む海岸線の後退を防ごうと、これまで主に相模川の河口周辺の砂浜で進めていた盛り土作業「養浜(ようひん)」を、より広範囲に行う方向で検討を始めた。
県によると、相模湾岸で海岸線の後退が目立つのは、相模川河口の東側の茅ケ崎海岸(茅ケ崎市)。とりわけ同海岸の中海岸地区は、1950年代半ばからの30年間に最大約50メートルの海岸線後退を確認した。相模川上流でのダム建設や中流域での川砂利採取、護岸整備などの進展に伴い、川から供給される土砂の量が減ったことが要因と考えられるという。
県は生態系や水質への影響を勘案し、同じ水系のダム底の土砂を使った養浜を2006年から実施。11年に定めた「相模湾沿岸海岸侵食対策計画」でも養浜を対策の中心に据えている。
中海岸地区では相模川上流の相模、道志両ダム(いずれも相模原市緑区)の底の土砂や、相模湾岸の周辺漁港付近にたまっていた土砂計約37万立方メートルを運び入れ、後退していた海岸線を約40メートル回復させたという。
一方で、中海岸地区の東側にある菱沼地区や相模川河口の西側にある平塚海岸では、海岸線が養浜で復活した部分もあるが、高波で砂浜が削られるなどしている。エリアによって養浜の効果は異なるという。
県は毎年、相模湾全体で測量や環境調査などを行い、養浜の効果や影響を検証。ダム底の土砂を入れても、海洋環境の面で影響は見られないとしている。
今年度からは試験的に、相模原市緑区と愛川町、清川村にまたがる相模川上流の宮ケ瀬ダム(国土交通省管理)の底の土も養浜に使っている。使える土が増え、養浜をより広い範囲で行うことができるという。県砂防海岸課は「相模川水系は上流のダムから河口まで県内にあり、ダム底の土砂をさらう必要性と、養浜の必要性が、経費面も含めて県の中でうまく一致している」としている。
養浜による砂浜の回復と保全は、黒岩祐治知事が2期目で掲げた主要施策のひとつ。同課は「養浜は砂浜を利用するサーファーなどから『コンクリートを使わない公共工事』として評価も高い」として、実施エリアを広げる方針だ。どこで実施するかについては「今後検討する」としている。(岩堀滋)