7月の西日本豪雨では、ダムが短時間に満水になり、豪雨のさなかに大量の緊急放流を行い、ダムのために水害被害が拡大したといわれます。
これを受けて、国土交通省がダムの利水容量を抑制して洪水調節容量を増やす制度の創設に乗り出したと、毎日新聞が報じています。
わが国では、人口減少や節水家電の普及、水道管の漏水防止対策などにより、水需要が減少傾向にあります。しかし、八ッ場ダムがそうであるように、何十年も前につくられたダム計画を継続するために、ダム事業に参画する下流域の自治体が水需要を過大に予測して、ダム事業費を負担することがしばしばありますので、利水容量の抑制は理屈では簡単にできそうです。
ダム事業に参画する自治体などは、ダム事業費だけでなくダム完成後の維持費も負担します。記事によれば、国が利水容量を譲ってもらう代わりにダム管理費の一部を負担するという話なのですが、ダム事業費の負担金はどうなるのでしょうか。
利水容量を転用するためにはかなりの予算が必要な筈です。西日本豪雨でダムの緊急放流によって8名もの犠牲者が出た肱川流域では、こうした取り組みを求める声があがっているようですが、国が制度を創設して全国の国直轄ダムに適用するとなれば、そう簡単に進む話とは思えません。
◆2018年10月12日 毎日新聞東京朝刊
http://mainichi.jp/articles/20181012/ddm/041/010/026000c
ー国交省 ダム洪水調節容量拡大 豪雨時放水 浸水被害防止へー
今年7月の西日本豪雨の際、ダムから放水した雨水によって下流域に浸水被害が出たことを教訓に、国土交通省は国管理のダムの利水容量を抑制して洪水調節容量を増やす制度の創設に乗り出した。自治体などとの交渉で、利水容量を譲ってもらう代わりにダム管理費の一部を国が負担することを提案したい考えで来年度からの運用を目指す。【花牟礼紀仁】
国交省によると、豪雨が見込まれる場合は、ダムに雨水が流入する量を予測。ダムから水があふれないよう、あらかじめ貯水位を下げ、洪水調節容量を空けている。その際、農業用水や生活用水などのために確保している利水容量の一部を下流に放水しているが、気象予報を受けて短時間で放流する必要が生じた場合は、下流での浸水被害を避けるため放流量は限定的になる。
西日本豪雨でも、愛媛県・肱川水系のダムは事前に放流して空き容量を確保していたが、貯水の限界を超える雨水が流入。短時間に大量の水を放流しなければならなくなり、下流域に大規模な浸水被害が出た。
治水・利水目的のダムは、建設時に都道府県の水道事業部門などが人口予想や工場の誘致計画などに基づき、利水の権利を確保している。権利者はダム管理費を支払っているが、都市開発が進まないなどの事情で実際には利用されていない容量もある。
こうした使われていない利水容量を年単位で譲ってもらうことで、あらかじめ空き容量を確保することができる。これにより、洪水調節容量を拡大させ、浸水被害の防止につなげたい考えだ。
国交省は新たな制度を、下流域の堤防整備など治水が完了するまでの暫定的措置と位置付けている。
■ことば
治水・利水ダム
国土交通省は、洪水時に川の水量を調節する目的で設置された「治水ダム」と、治水や利水など複数の目的を持つ「多目的ダム」計558基を管轄している。今年7月の西日本豪雨では、このうち213基で洪水調節が行われた。このほか、水利組合が管理する農業用水ダムや電力会社が設置する発電用ダムなどを合わせると、全国に2600基以上のダムが存在する。