今年7月の西日本豪雨の際には、愛媛県の野村ダムなど、国土交通省が管理する8基のダムが短時間に満杯になり、緊急放流を行ったため、ダム直下に大きな犠牲をもたらしました。
ダムは想定内の降雨では一定の役割を果たすものの、計画規模を超える豪雨になると、ダム決壊を防ぐためにそれまで貯めていた水を短時間に放流します。このため、ダム下流では川の水位が一気に上がり、住民が逃げ遅れるなど水害被害の拡大に繋がる要因となってしまいます。
2015年9月の鬼怒川水害では、利根川水系の川治(かわじ)ダム(栃木県日光市、国土交通省関東地方整備局)が緊急放流直前までダム湖の水位が上がり、ダム直下の川治温泉の住民約350人の緊急避難が行われました。
右画像=鬼怒川ダム統合管理事務所サイトより
関東地方整備局の鬼怒川ダム統合管理事務所は2016年、千年に1度の規模の大雨が降った場合、ダムの放流により最大10~20㍍の水深になると想定し、川治温泉地区の浸水想定区域を新たに指定しました。しかし、実際に水深が10~20メートルにもなれば、ダム下流の住民は対応のしようがありません。
川治ダムの緊急放流問題を取り上げた下野新聞の記事をお送りします。2015年当時の記事も参考までに掲載します。
◆2018年10月17日 下野新聞
https://www.shimotsuke.co.jp/articles/-/87651
ーダム大量放流、対策急務 浸水想定ない地域もー
7月の西日本豪雨の際、愛媛県で実施され犠牲者が出たダムの大量放流への備えが、本県でも課題となっている。想定を越える豪雨に伴い実施されれば、被害が出る恐れもあるためだ。2015年の関東・東北豪雨を機に、県内の一部地域では洪水ハザードマップが策定された一方、浸水想定がなされていない地域もある。対策が急がれる中、識者は大量放流があり得ることを行政が住民に十分に周知する必要性などを指摘している。
西日本豪雨では愛媛県内の二つのダムが満水となり、大量放流が行われた。大規模な浸水被害が生じ、9人が死亡した。住民への周知は放流直前だった。県内では01年9月、台風の影響で日光市の川治ダムで大量放流が行われ、家屋の浸水被害などがあった。
15年9月の関東・東北豪雨の際は川治ダムが満水に近づき大量放流の可能性があったが、雨が弱まり見送られた。国土交通省鬼怒川ダム統合管理事務所は当時、大量放流した場合の浸水想定をしておらず、同市は急きょ、独自の想定で川治ダムの直下の川治温泉地区の住民に避難を促した。そこで同事務所は16年、川治温泉地区の浸水想定区域を新たに指定した。千年に1度の雨が降った場合、大量放流により最大10~20㍍の水深になると想定。同市は洪水ハザードマップを作成し同地区の各世帯に配布した。地元自治会も防災訓練を予定するなど、一定の対策が進んでいる。
一方、県内にはほかにも県や電力会社などが管理する大小30力所以上のダムがある。県砂防水資源課によると、少なくともこのうち県が管理し洪水調節機能がある七つのダムでは、ダムに近い地域の大量放流時の浸水想定がなされていない。
ダム建設時に調節能力を超える豪雨を想定していなかったことやダムの近くは山間部で民家が少なく、浸水想定の優先度が下流域より低いことが理由という。
西日本豪雨を受け国交省の有識者検討会は9月、浸水想定をしていなかったダム近くの地域でも、必要に応じ想定対象とする方針を示した。県は「推移を注視しつつ、市町と連携しダム付近の住民への周知強化な止め訴訟を進めたい」とする。宇都宮大の池田裕一教授(河川工学)は「行政は大量放流について住民にきちんと伝えること、住民は訓練などで具体的な避難行動を考えておくことが重要だ」と指摘している。
〈参考〉2015年10月9日付け 下野新聞