八ッ場ダムの水没予定地、川原湯温泉街の跡地でメタルロードが建設されていることを鉄鋼新聞が報じています。
水没予定地にあった川原湯地区は、ダム事業で国土交通省が造成した二つの代替地に移転しました。記事で取り上げられているメタルロードは、この二つの代替地を結ぶ町道です。町道が完成すれば、JR川原湯温泉駅(上湯原代替地)と川原湯温泉の共同湯・王湯会館旅館(打越代替地)が繋がることになります。
この町道は当初は「補強土壁工法」で建設される予定でしたが、ボーリングを実施したところ、岩盤の位置が想定より深かったため、「鋼製桟道橋」による建設に変更された経緯があります。2016年の八ッ場ダムの基本計画変更に関する国交省の資料によれば、ダム事業費のうち約8億円の増額はこの工法変更によるものと説明されています。
国土交通省資料「八ッ場ダム建設事業(報告) 平成28年8月12日」27ページより
記事に掲載されたメタルロードの写真(右上)には、「施設を建設しているかのような金花山の現場」という説明がつけられています。
金花山は川原湯地区の背後にある山の名称で、金鶏山とも呼ばれます。八ッ場ダムの建設地は左岸側(川原畑地区)の字名を八ッ場、右岸側(川原湯地区)の字名を金花山といいます。
右は今年1月に撮った金花山の写真では、水没予定地の川原湯温泉は金花山の山ふところにありました。手前の尾根の山裾、雪で白くなったところに、建設中のメタルロードが黒く小さく見えます。
右の写真は6月の撮影です。工事が進み、ここに鄙びた温泉街があったことを想像するのが難しいほど変貌しています。
メタルロードを建設している山裾には、工事が開始されるまで川原湯温泉の引湯管が設置されていましたが、道路建設に伴い、谷側に暫定的に移設しています。来年、試験湛水が始まるまでに、町道を完成させ、温泉の引湯管も町道に設置し直すことになっています。
左の写真は、旧川原湯温泉街の坂の上から撮った写真です。右側の木の陰にメタルロードが見えます。その手前には、川原湯温泉の共同湯・王湯の跡があり、この周辺には川原湯温泉の元の湯源泉の湧出口もありますが、写真で見たところ、王湯跡の周辺はコンクリートで埋め立てられています。
元の湯源泉の湧出口はダムで沈むため、湧出口を井筒で囲う源泉保護対策を実施することになっています。メタルロードの建設現場は源泉の湧出口に迫ってきていますが、源泉に影響することはないでしょうか。
◆2018年10月22日 鉄鋼新聞社
https://this.kiji.is/426924410328564833?c=65699763097731077
ー現場ルポ】〈JFEシビル・鋼製桟道橋「メタルロード」〉八ッ場ダムの町道付け替えで採用 急峻な地形でも短期間で施工ー
JFEシビル(社長・弟子丸慎一氏)が展開する「メタルロード」は山間部の急傾斜面の道路建設に適した鋼製桟道橋。優れた施工性・経済性と高い品質を両立させた独自工法で採用実績は539件、総延長2万8459メートル(18年10月時点)に及ぶ。世間にさまざまな話題を振りまいた群馬県の八ッ場ダムでもダム建設で使用できなくなる町道の付け替え工事に採用されている。現場を取材した。(村上 倫)
「メタルロード」は圧延H形鋼で構成される上部工(主桁・横桁・格点部)と鋼管杭基礎を一体化させた立体ラーメンプレハブ桟橋。杭と桁が格点部で剛結され活荷重や地震時荷重に対して優れた耐荷力を有する。施工は重機による杭打設工と桁架設工をスパンごとに繰り返しながら重機の足場を作りつつ施工する「手延べ方式」で行う。このため、深い谷間などでも大規模な基礎工事を行わずに短期間で施工できることが特長。一般に勾配30度以上の斜面や積層が2メートル以上など支持層が深い場合に高い効果を発揮する。
八ッ場ダムは群馬県吾妻郡長野原町で建設中の多目的ダム。管轄する国土交通省関東地方整備局によると建設費の概算だけでも約5320億円で、日本のダム建設史上でも最高水準とされる。来年度の完成に向け工事は佳境を迎えており、一目見て完成間近とわかる。ダムに沈む地域の住民の移転や町道の付け替えも進んでいる。
「メタルロード」は盛土工法に比べ大規模な土砂の掘削・運搬が不要であるなど経済性や施工性も高い。八ッ場ダム関連では町道の付け替え工事などで9件を受注している。足元で工事が進んでいるのは「金花山鋼製桟道工事」で、施工速度が評価されたことに加え地盤条件の悪い堆積層が10メートルと厚く橋梁下部工建設が困難だったことから採用された。
「メタルロード」の施工延長は約120メートルと大規模案件。通常の橋梁に連続させる形で施工され、A・Bの2ブロックに分けて工事が行われている。昨年度、日特建設が元請けのAブロックの一部が完工しており、現在は若築建設が元請のBブロックの工事が進められている。同社は杭打ちと桁架設及び地覆鋼製型枠の設置までを担っている。
両ブロックで鋼管杭56本・191トンを使用。上・下部工を合わせた製作重量は326トンとなる。通常は「手延べ方式」で施工されるが現場は堆積層が厚く支持層までの距離が長いほか通常橋梁が未完成だったため、工期短縮を図るため杭打ちを先行して実施。通常は施工性などを考慮して55トンクレーンで杭径500ミリの杭を打設するが、本現場では200トンクレーンにより杭径700ミリの杭を下部の工事用道路から先行打設した。最も長い杭は30メートルで、錆止めのフッ素塗装も施している。座屈防止のための梁も設置されているほか耐震性を考慮して通常より1列多い4列で施工され、その外観は物流施設などの躯体のようにも見えた。
杭打ち後に上部から重機で桁を架設し、覆工板を設置。重機を前進させ次のスパンの施工を行う。覆工板はジェコスの製品が採用されていた。取材時は覆工板を撤去しコンクリート床版の土台となる型枠の施工を実施している状況で、JFE建材の鋼製型枠デッキプレート「JFデッキ」を使用し省力化を図った。JFEシビルの施工部分は今月で完工予定となっている。
近年では大規模な自然災害が多発しているが「メタルロード」は早期に施工可能な仮設的な機能を有しながらレベル2地震動にも耐え得る本設として使用可能な高い品質を備えている。今後も災害に強い道路整備事業に貢献するべく会員27社で構成される「メタルロード工法協会」などを軸に普及拡大を図っていく。また、厳しい施工条件の中でも永久構造物として早期の復旧に貢献できるよう、設計の迅速化とさらなる施工技術の開発も進めていく方針だ。