7月の西日本豪雨の際、国交省四国地方整備局が満水になった愛媛県の野村ダム(西予市)と鹿野川ダム(大洲市)の緊急放流を行った後、ダム下流の肱川が氾濫し、8名の流域住民が犠牲になりました。この緊急放流についての検証会合を設置した国交省四国地方整備局は、11月22日に被災地の大洲市で最終会合が開き、最終案を年内に公表すると表明したとのことです。
検証の結論は、豪雨を予測してダムの事前放流を行うことは難しいこと、ダム下流の河道整備を急いで豪雨時のダム放流量を増やし、ダムが満水にならないようにするという話になりました。ダム偏重の従来の河川行政を見直していこうという反省の姿勢は皆無でした。
肱川についての最善の治水対策は、2020年代後半に完成する予定の山鳥坂ダムの建設を中止し、その事業費を河道整備に振り替えて、河道整備をすみやかに進めることなのですが、そのような結論にはなりませんでした。
関連記事をまとめました。毎日新聞と愛媛新聞が被災者のダムへの不信感を伝えています。
なお、西日本水害後の平成30年7月31日付で肱川の緊急放流問題の担当課である国交省四国地方整備局河川部の部長となった佐々木淑光氏は、2014年9月まで八ッ場ダム工事事務所長でした。民主党政権が八ッ場ダムをはじめとする全国のダム事業の見直しを掲げた2009年、それまでの所長に変わって八ッ場ダム工事事務所長に就任した佐々木氏は、強気の姿勢でダム予定地住民に対して率直な物言いをすると言われました。2014年8月、毎日新聞が八ッ場ダム事業用地に環境基準を超える六価クロム等を超える(株)大同特殊鋼の有害スラグが大量に投棄されていることを一面トップで報道後も、その姿勢は変わりませんでしたが、八ッ場ダム本体着工を控えた10月1日付で突然、住民への挨拶もなしに本省へ移動になり、当時話題になりました。佐々木氏は四国地方整備局河川部長になる前は、内閣官房内閣参事官であったということです。
◆2018年11月22日 毎日新聞
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181122-00000004-mai-soci
ー<愛媛のダム>豪雨予測で放流、見送りへ 22日に検証報告ー
西日本豪雨で愛媛県内の二つのダムの緊急放流後、肱川(ひじかわ)が氾濫した問題で、国土交通省四国地方整備局は22日、気象予測を活用して早期に放流を増やす柔軟なダム操作は「予測が外れた場合、回避できた浸水被害を招く」として、当面は見送る方針を検証会議の報告としてまとめる。緊急放流には住民から「人災」と批判も出たが、国側は今後、ダムの調節容量の確保や放流周知の改善で対応する。
豪雨となった7月7日朝、肱川の野村ダム(西予市)と鹿野川(かのがわ)ダム(大洲市)は貯水の限界に達し、緊急的に流入量とほぼ同量を放流する「異常洪水時防災操作」で対応した。放流量は最大で安全とされる基準の6倍に上り、ダム下流域では住民8人が犠牲になった。
操作は自治体等と合意した規則に従っていたが、住民から「事前の放流を増やすなど柔軟に対応できたのでは」と指摘されていた。
検証会議でも論点になったが、専門家も交え検討した結果、(1)早期に放流量を増やすと大雨などの気象予測が外れた場合、回避できた浸水被害が発生し、理解を得られない(2)現在の気象予測の精度は不十分で、操作規則への位置付けは困難−−との結論に至った。
今回の方針に反発も残る。国交省はダム操作で「規則に基づいて行った」との姿勢を崩さず、氾濫で母を亡くした西予市野村町地区の小玉由紀さん(59)は「結局いざという時、ダムは同じことをする。マニュアル通りだと繰り返すだけ」と不信感をあらわにする。
夫婦で営む畳店は倉庫も含め水につかり800万円ほどかけて機械を新調、8月に営業再開した。「もうあんなばかなことはせんやろう」として住み続けると決めたため、今回の方針には納得できない。母を助けられなかった後悔も消えない。
国交省は、今後は農業用などとしてためている利水容量を利水者と調整しながら、洪水調節の容量に振り替え、下流河道の改修で流下能力も上げて、安全に放流できる量を増やす。放流の周知法も放流量をアナウンスしたり、時系列の対応をまとめた「タイムライン」を住民と一緒に作成したりする対策も盛り込む予定。国交省の検証とは別に、野村町地区では国の責任を問う訴訟も視野に放流を検証する住民が会合を続けている。【中川祐一】
◆2018年11月22日 愛媛新聞
https://www.ehime-np.co.jp/article/news201811220141
ー肱川氾濫ダム操作 放流考慮し避難発令へ 検証最終会合、対応案まとめるー
西日本豪雨による肱川氾濫を受け、野村、鹿野川両ダムの操作や住民への情報提供を検証する最終会合が22日、大洲市であった。ダム操作の情報が「避難指示発令へ直接的に結び付かなかった可能性がある」と指摘し、ダム放流情報を考慮した避難情報発令基準への見直しや、豪雨時に被害がより軽減できるような操作規則の変更を盛り込んだ対応案を大筋でまとめた。
検証会合を設置した国土交通省四国地方整備局は「最終案を年内に公表する」と表明。ダムの操作規則変更について「より効果的な操作を具体的に考えたい」とした。対応案には電光掲示板の放流情報を危険度に応じて異なる色で示すことも盛り込んでおり、住民へ危機感が伝わるようにするには「関係機関が連携しハード、ソフト両面で対応することが必要」と説明した。
会合では、来年4月の運用を目指す鹿野川ダムの洪水吐(ばき)トンネルによって、現在の洪水調節容量1650万トンに740万トンが上乗せされることに関し議論。管家一夫西予市長が、操作規則変更で野村ダムの安全とされる放流量はどこまで引き上げられるか▽規則変更の協議の場に下流自治体の意見は反映されるか―の2点を問うた。
整備局は具体的数値は示さず「検証で出た方策に国が具体案を追加し、県を中心とし、西予・大洲両市も含め今後調整したい」と回答した。二宮隆久大洲市長は「野村ダムの放流量増はある程度、大洲市としてもやむを得ない。下流域への影響はおさえておく必要がある」と述べた。
二宮市長は、肱川の水位への影響が大きい支流小田川についての記述を盛り込むことも要望。整備局は追記する考えを示した。
対応案では、ダム操作に関し、ダム直下に被害が出始める放流の開始を両ダムとも約40分遅らせる効果があったなどと分析した。住民説明会などで要望があった、雨量予測を活用した柔軟なダム操作は「予測が外れた場合、本来回避できた浸水被害が発生するため困難」などとした。
【ダム操作検証 取りまとめ骨子】
▽鹿野川ダム改造完了(2018年度)や河道整備に合わせた操作規則の変更(国交省)
▽野村ダムでの250万トンの事前放流を継続、一層の容量拡大へ協議(国交省)
▽ダム放流情報を考慮した避難情報発令基準への見直し(国、県、大洲市、西予市)
▽電光掲示板などにダム放流情報を危険度に応じて色分け表示(国交省)
▽事前の防災行動を時系列に整理した「タイムライン」を住民参加で作成(大洲市、西予市)
▽洪水ハザードマップの作成(大洲市、西予市)
【被災者 根強い不信 住民と対話継続を】
【解説】 国土交通省が22日にとりまとめた西日本豪雨時の野村、鹿野川両ダムの操作や住民への情報提供の在り方を巡る検証は、情報伝達改善や治水強化の方向性は示したが「被害を減らすすべはなかったのか」との被災者の疑問に明快に答えたとは言い難い。西予、大洲両市や県を含め、検証を続ける必要がある。
焦点の一つは放流や避難の情報伝達。関係機関や住民に確実かつ理解できるよう伝える重要性の指摘が有識者から相次いだ。確実な避難には平時から住民に意識を共有してもらう取り組みが不可欠だが具体化は容易でなく、国や県、市、教育機関などが住民と粘り強く対話していくしかない。
避難はいわば最後のとりで、被災地でより注目されたのは、洪水を防ぐダムや堤防などの治水機能の在り方だった。生活や事業の再建に関わるためだ。「もっと被害を減らす操作ができたのではないか」との両ダムへの不信も根強い。
複数の識者は、雨の降り方や規模に即した柔軟なダム運用の検討を促したが、難色を示した国の主張に沿った結論となった。
座長の鈴木幸一愛媛大名誉教授は22日の会合後「検討したが、柔軟な運用は研究段階。西日本豪雨やこれまでの(大雨の)予測と実績を見ると、精度が上がらない限りできない」と説明。一方、国には「いろいろな方法があり、まったく考えられないというのはどうか。新しい研究成果が出ればぜひ取り入れてほしい」とくぎを刺した。
検証では現行操作規則の妥当性は掘り下げられなかった。両ダムの規則は1996年、大規模洪水対応から中小規模洪水対応に変更。河川整備が完了していない鹿野川ダム下流の水害頻発への対策だが、大規模洪水で被害が大きくなり一長一短がある。
今後は現状をベースに中小規模対応のメリットを残して河川やダムを改修。規則を順次見直し、西日本豪雨並みの雨量でも被害が出ないよう両立を図る。それでも西日本豪雨を超える災害発生は否定できない。
規則変更は西予、大洲両市にとって利害がぶつかる部分もある。会合ではこれまで「どういった根拠で(96年の改定が)決まったのかはダム操作を考える上で大事」「急激な降雨や気象の激甚化で、どこを重点的に守るか考える必要がある」との提言もあった。国はダムや河川堤防の限界を示し、流域の自治体や住民と丁寧に議論していく必要がある。
【「ダムだけでは限界」「スタートライン」 傍聴者や委員ら】
野村、鹿野川両ダムの操作や情報提供に関する対応案をまとめた22日の会合。傍聴者や委員からは継続的な検証や、ダム操作規則変更に関して多様なシミュレーションを求める意見が聞かれた。
「ダムだけの洪水対策には限界がある。情報提供による避難で命が助かればいいという問題ではない」。大洲市の無職女性(81)は検証作業に不満を示しつつ、河道掘削などで安全度を高めるよう求めた。
大洲市議会肱川流域治水対策特別委員会の村上松平委員長は「現状では適切な検証だったのでは」とし、洪水ハザードマップなどで啓発する必要性を訴えた。
別の市議からは、国が示した大規模洪水に対応した1996年までのダム操作規則で操作した場合のシミュレーション結果を巡る注文も。「旧規則ならもっと早く放流できたのではという住民の疑問がある程度、立証された形だ」「柔軟な操作は難しいと国は言うが、より有効な操作規則を追究するためにも、柔軟に操作した場合のシミュレーションも行うべきでは」と指摘する。
西予市の管家一夫市長は「地元の意見を取り入れながらダム操作規則見直しなどを進めることを盛り込むなど前進があった」と評価し「具体化のスタートラインに立ったばかり。検証を継続しなければ」と気を引き締めた。「住民としっかり意思疎通し、研修や啓発などを進めたい」と強調するのは大洲市の二宮隆久市長。市独自の検証は「県の検証も踏まえ、何をすべきか今回のことを分析する」としつつも、具体的な組織設置は「これからの問題」とした。
国土交通省四国地方整備局の佐々木淑充河川部長は「治水施設整備後に完全に安全になったわけではないと普段からきちんと説明していなかったことが反省点」と振り返り、県河川課の野間俊男課長は「さまざまな意見を踏まえて課題や取り組みが整理された。県民の安心安全につなげていきたい」とコメントした。
◆2018年11月23日 朝日新聞愛媛版
https://digital.asahi.com/articles/ASLCQ65DTLCQPFIB01D.html?iref=pc_ss_date
ー愛媛)ダム放流検証会合が報告書案 情報伝達に課題ー
7月の西日本豪雨で緊急放流した野村ダム(西予市)と鹿野川ダム(大洲市)について、管理者の国土交通省が開催してきた検証の会合が22日、最終回を迎えた。緊急放流時の周知方法などの課題と改善策をまとめ、17ページに及ぶ報告書案を公表した。
両ダムの緊急放流をめぐる検証は、国交省や県、両市、有識者らが豪雨直後の7月から開始。並行して進めてきた住民説明会などの意見も採り入れた。
報告書案では冒頭、7月の豪雨を「これまでに経験のない異常な豪雨」と位置づけたうえで、より有効な情報提供の検証や、より効果的なダム操作について技術的考察を行って結果をとりまとめた、とした。
情報提供では、「(ダム側による)サイレン、スピーカーなどの放流警報が聞こえなかったという意見が多数あった」とし、施設改良などが必要との考えを示した。さらに、緊急放流の時に操作規則に基づいて国がサイレンやスピーカーで周知したが、「通常の放流と比較して違いが明確でなく、切迫感や重大性が十分に伝えられなかった可能性がある」と認めた。自治体から住民への情報伝達も、「豪雨時には確実な伝達が十分に行われなかった可能性がある」と指摘した。
改善策として、国と市の情報共有の強化や、住民参加による避難のタイムライン作成、防災教育の推進などを挙げた。検証会合に委員として参加した森脇亮・愛媛大防災情報研究センター長が提案した「防災情報のユニバーサルデザイン化」を採り入れ、肱川沿いの電光表示板で危険度に応じて色を変えるなど、色を活用した情報発信も試行する。
一方、雨量予測をもとに下流の浸水被害を予測する国の「肱川洪水予測システム」の情報を住民に提供することは、「現在の予測精度では浸水範囲は大きな誤差を含み、実際よりも過小となる場合、住民に避難する必要はないとの誤解を与えかねない」として、提供しない方針を確認した。
ダム操作については、堤防が整備されていない大洲市菅田地区などの被害を軽減するため、放流する量に制約があると明記した。今年度末の鹿野川ダムの改造完了後、緊急事業が完了する5年後、山鳥坂ダムが整備される10年後をめどに段階的に操作規則を変更し、西日本豪雨規模の雨量を「安全に流下させる」という。
会合に参加した二宮隆久・大洲市長は「(支流の)小田川についても何らかの記述がいただけないか」と求めた。これらの意見を踏まえ、年内に最終報告書を発表するという。(大川洋輔)
◆2018年11月22日 日本経済新聞(共同通信配信)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO3810359022112018000000/
ー「情報伝達、不十分」 愛媛のダム放流問題で検証まとめ 西日本豪雨 ー
西日本豪雨で愛媛県の肱川がダムの緊急放流後に氾濫し犠牲者が出た問題で、国土交通省と関係自治体は22日、ダムの操作や住民への情報提供の在り方を検証する最終会合を愛媛県大洲市で開いた。「情報が十分に伝わっていなかった可能性がある」と認め、伝達手段の見直しやダム操作規則の変更を盛り込んだ検証結果を大筋でまとめた。
7月の豪雨で、肱川上流にある野村ダム(愛媛県西予市)と鹿野川ダム(大洲市)は安全とされる基準の6倍の量を放流し、両市で大規模な浸水被害が出た。
今年度末の鹿野川ダムの改造工事完了で、鹿野川ダムに加え、上流にある野村ダムも調節できる水の容量が増える。検証結果には、両ダムが現在より容量に余裕がある状態で豪雨に備えられるよう操作規則を変更する方針を明記した。
また「住民が(避難)情報を生かせていない」として、両市がダムの放流情報を考慮し、事前に取るべき防災行動を時系列に整理した「タイムライン」を住民参加型で作成すること、電光掲示板で示すダムの放流情報について直感的に理解できるよう危険度に応じて異なる色で表示することなども盛り込んだ。
検証委員の森脇亮・愛媛大大学院教授は「住民が置いてけぼりにならないことが大事。今後も、しっかり取り組みが行われているか確認していくべきだ」と求めた。〔共同〕
◆2018年11月22日 NHK
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20181122/k10011720601000.html
ーダム放流の対応策 危険度区分示す案 愛媛 検証会議ー
西日本豪雨で愛媛県内のダムから大量の水が放流されたあとに川が氾濫したことを受けて、国が設置した検証会議が開かれ、住民への情報伝達を改善すべきだという専門家の指摘を踏まえ、放流に伴う危険度を具体的に示すことなど今後の対応策が示されました。
ことし7月の西日本豪雨の際、愛媛県内では、2つのダムから大量の水を放流する緊急の操作が行われ、下流にある西予市と大洲市で川が氾濫し、流域で8人が犠牲になりました。
ダムを管理する国土交通省四国地方整備局は、専門家などによる検証会議を設置し、議論を重ねてきましたが、住民への情報伝達を改善すべきだという指摘が出たことを踏まえ、22日開かれた最後の会合で対応策の案を示しました。
この中で、情報伝達ついては、今後、ダムの放流に伴う危険度のレベルを4段階に区分して具体的に住民に示すとともに、理解しやすいように色分けすることなどが盛り込まれました。
また、ダムの操作については、より多くの貯水量を確保することなどが盛り込まれました。
対応策の案について、出席した専門家からは「住民が置き去りにならないよう、市や国がサポートすべきだ」などとして住民に主体的な防災活動を働きかけるよう求める意見が相次ぎました。
四国地方整備局は、22日の議論を踏まえて、年内に最終的な対応策を取りまとめることにしています。