ダム事業には様々な問題がありますが、これから将来にわたって深刻な問題の一つにダムの「堆砂」があります。ダムは山から海に流れる水を堰き止めるだけでなく、本来は上流から海に供給される土砂を堰き止めます。堆砂はダムの容量を減らして治水・利水機能を奪うだけでなく、上流では河床の上昇により洪水のリスクを高め、下流では砂浜の後退の原因となっています。
NHKはさる12月12日、砂浜の後退を大きく取り上げたニュースを流しました。このニュースは翌13日の朝7時台のニュースでも流していましたので、ご覧になった方も多いと思います。
砂浜の後退の最も大きな原因が上流のダムであることは、すでに国交省自体が認めていることですが、このニュースでは、記事の中で「戦後の開発」という言葉を使っているだけで、タイトルに「温暖化で6割の沿岸で完全消滅のおそれ」と掲げているように、砂浜減少の原因を温暖化による海面上昇にすり替えています。
公共放送であるNHKは、なぜまともな取材や科学的な検証をせずに、ダム行政に忖度し、温暖化の不安を煽るニュースを流すのでしょう?
NHKニュースでは砂浜の後退が著しいことで知られる湘南海岸も取り上げられていますが、湘南海岸の砂浜後退や自然破壊の原因となっているダムの問題について、以下のページで詳しく説明されています。
〈参照〉八ッ場あしたの会HP「神奈川県、ダムに堆積した土砂で海岸線が後退した相模湾の養浜」
国土交通省京浜河川事務所ホームページ 土砂環境整備検討会
◆2018年12月12日 NHKニュース
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20181212/k10011744981000.html
ー日本の砂浜大ピンチ 温暖化で6割の沿岸で完全消滅のおそれー
海水浴やサーフィンなどで私たちに身近な砂浜が危機にひんしています。地球温暖化による海面上昇の影響で、最悪の場合、今世紀末までに日本の9割の沿岸で砂浜の面積が半分以上減るほか、6割が完全に消えるおそれのあることが国の研究機関などの分析で分かりました。
これは、国連のIPCC=「気候変動に関する政府間パネル」が4年前の平成26年に公表した報告書のデータなどを基に、国立環境研究所や大学など28の機関で作る研究グループが分析したものです。
それによりますと、今後、世界の平均気温が約4度上がると、日本の沿岸では、今世紀末までに海面が最大で60センチ上昇し、これに伴って、最悪の場合、全国77の沿岸のうち、96%に当たる74の沿岸で砂浜の面積が、今より半分以上減る可能性のあることが分かりました。
さらに、60%に当たる46の沿岸では、砂浜の消失率が100%に達し、完全に消えるおそれがあるということです。
国土交通省によりますと、全国各地の砂浜では、戦後の開発や台風による高波などの影響ですでに消失や減少が起きています。
このうち、神奈川県の湘南海岸では、例えば茅ヶ崎市で平成17年までの50年余りの間に、海岸線が陸側に最大で50メートルも後退したほか、二宮町では、かつて県の海水浴場に指定された幅30メートルの砂浜があり、毎年、海水浴で多くの人が訪れマラソン大会も開催されていましたが、11年前の平成19年以降は、いずれもできなくなっています。
こうした地域では、砂を再び増やす工事が行われていますが、温暖化による将来の減少や消失を見据えた対策はまだ進められていません。
このため専門家からは、海水浴などの観光面に加え、防災や生態系の維持など砂浜が果たしている重要な役割を認識し、対策を強化すべきだという意見が出ています。
最悪シナリオを可視化すると…
国立環境研究所などが行った分析では、将来の気温の上昇の度合いなどに応じて、複数のシナリオを作成し、将来の砂浜の消失率を計算しています。
NHKは、このうち最悪となるシナリオについて、「NMAPS(エヌマップス)」と呼ばれるシステムで可視化しました。
可視化にあたっては、消失率が100%になる沿岸は「完全に消失」、81%から99%は「ほぼ消失」、51%から80%は「大幅に減少」、50%以下を「減少」と分類しました。
その結果、分析の対象となった全国77の沿岸のうち、96%にあたる74の沿岸が「完全に消失」や「ほぼ消失」、それに「大幅に減少」となり、「減少」にとどまるのはわずか3つでした。
このうち、砂浜が「完全に消失する」と予想される沿岸は、「北見」や「根室」、「三陸北」などの北日本のほか、湘南海岸を含む「相模灘」や東京の「小笠原」、「伊豆半島」や「三河湾・伊勢湾」などの東海地方、「能登半島」や「若狭湾」などの北陸、「紀州灘」や「淡路」などの近畿地方、「広島」や「岡山」、「土佐湾」などの中国・四国地方、「八代海」や「日向灘」、「有明海」、それに「琉球諸島」などの九州・沖縄と、各地に分布していて、広い範囲で砂浜が危機にひんしているのが分かります。
砂浜減少で実際の被害も
砂浜の消失や減少の影響で高波が押し寄せ、建物などに被害が出た地域があります。
このうち、相模湾に面する神奈川県小田原市の「前川海岸」では、砂浜の減少が続いていて、神奈川県によりますと、平成19年までの60年間に海岸線が約30メートル陸側に後退したということです。
県は、砂浜の回復を目指し、7年前の平成23年から海岸に砂を運び入れる工事を続けています。
この砂浜の減少などの影響で、去年10月23日、海岸のすぐ近くにある市の施設、「前羽福祉館」が高波による被害を受けました。
福祉館は、海抜8.1メートルの所にありますが、この日は、神奈川県に接近した台風21号による高波が堤防を越えて押し寄せ、1階にある窓ガラスが4枚割れ、会議室が浸水する被害が出ました。
福祉館の近くに住む椎野禎章さん(82)は、当時見回りをしていたときに、堤防を越えた波を頭の上からかぶり、全身がずぶぬれになったということです。その後、福祉館の割れたガラスの撤去作業などを行ったということです。
椎野さんは「いきなり頭から波をかぶるということは今までなかったので怖かった。昔は砂浜だったのが、今はほとんどが砂利になっていて、波打ち際がだいぶ近くなっているように感じる。自分の家まではまだ波は来たことはないが、これから気候変動でどう変わるか分からないので、先々を見ながら考えないといけないと思う」と話していました。
国土交通省によりますと、このほか砂浜が減少している影響で、平成19年と去年の台風による高波で、神奈川県二宮町と大磯町の海岸沿いを通る自動車専用道路、「西湘バイパス」の護岸が崩れたり、削られたりする被害が出ています。
このうち、去年の台風21号では、バイパスの護岸が大規模に損傷したり路面が浸水したりした影響で、4車線ある道路のうち、海側の1車線が今も通行止めになっています。
砂浜減少の影響を実験してみた
砂浜の消失や減少が進むことで、高波が住宅地にどのような影響を与えるのか。専門家の協力で実験しました。
高波などのメカニズムに詳しい、中央大学理工学部の有川太郎教授の研究グループは、長さ15メートル、高さ50センチの水槽を使って実験を行いました。
水槽に海岸にあるものと同じ砂を使って砂浜を作り、その奥に堤防と住宅に見立てた模型を設置します。そこに、特殊な装置で人工的に高波を作り、流し込みます。
実験の結果、砂浜がある場合は、高波は沖合で砕けて砂浜や堤防は乗り越えませんでしたが、砂浜がない場合は、高波は堤防を乗り越え、住宅に打ちつけました。
有川教授によりますと、砂浜の消失や減少が進むと、それだけ海岸線と住宅地が近くなるほか、海岸付近の水深も深くなるため、波が砕けてエネルギーを失う「砕波」という現象が起きる場所が住宅地に近くなり、波が到達する危険性が高まるということです。
一方、砂浜がある遠浅の海岸では、海岸線が住宅地から遠くなるほか、「砕波」も沖合で起きるため、波が到達しにくくなるということです。
有川教授は「砂浜がなくなると、波がなかなか砕けずに陸地に到達し、住宅の窓が割れたり壁が壊れたりする被害が十分起こりうると思う。砂浜が防災上大事な役割を担っているが、今後、地球温暖化が進むと海面の上昇で砂浜がなくなることが考えられるので、砂浜を守っていくことが非常に重要だ」と話していました。
食卓にも影響
砂浜の消失や減少は、海の生態系を変化させ、私たちの食卓にも影響を及ぼす可能性があると指摘する専門家がいます。
水産大学校の須田有輔教授によりますと、砂浜は、砂だけの「砂丘」と砂丘と海の間の「浜」、それに波打ち際から浅瀬にかけての「サーフゾーン」の3つのエリアに分類されるということです。
このうち、「浜」などの下を通って海に流れ込む地下水には、植物プランクトンの栄養分が豊富に含まれています。また、波打ち際には、打ち上げられた海藻などが線状に並ぶ「ドリフトライン」が形成され、多くの生き物の「隠れが」となっています。
さらに、波打ち際を含む「サーフゾーン」には、プランクトンのほか、「アミ」や「ヨコエビ」などの小さな生き物が数多く生息し、それを狙って、多くの魚の稚魚が集まってくるということです。
須田教授が、大学に近い山口県下関市の「サーフゾーン」を調査したところ、ヒラメやシロギス、それにスズキの仲間など60種類以上の稚魚が見つかり、解剖した結果、胃の中から「アミ」や「ヨコエビ」などが見つかったということです。
このうち、ヒラメは、毎年春に体長3センチほどの稚魚が「サーフゾーン」にやってきて、約1年かけて「ヨコエビ」などを食べて成長し、15センチ前後になると沖合に出て行くことが分かっていて、こうして育った魚が漁業の対象になるということです。
このように砂浜は、多くの稚魚の餌を供給していることから、須田教授は、砂浜が消えてしまうと生態系のバランスが崩れ、私たちの食卓にも影響を及ぼす可能性があると指摘しています。
須田教授は「ヒラメなどが浅瀬で子どもの時にしっかりと餌を食べ、大きく育たなければ、漁業は成立しなくなる。砂浜は、直接の漁場にはならないがなくなってしまうと、最終的には人間の生活にも影響が出るということにもつながる。砂浜の大切さをぜひ理解してほしい」と話していました。
専門家「何らかの対策 絶対必要」
高波による災害や地球温暖化が海岸に与える影響などに詳しい高知工科大学の磯部雅彦学長は、現時点で砂浜が消失したり、減少したりしている原因は、戦後の急速な海岸開発の進展によるもので、今行われている対策は、温暖化を見据えたものではないと指摘しています。
そのうえで、磯部学長は「砂浜があることによって、大きな波が沖で砕けて被害を防ぐという防災上の効果もあるし、生態系の面でも、海水浴やサーフィンなどのレクリエーションの場としても重要な場所だ。砂浜の浸食は、長い時間をかけて起こるので、注目を集める機会が少ないが、今後、温暖化で砂浜が消えたり減ったりすることはほぼ確実なので、何らかの対策を打つことは絶対必要だ」と述べ、今後は、温暖化の進行を見据えた対策を新たに行う必要があると訴えています。
〈参考記事〉
◆2013年1月26日 神奈川新聞
http://www.kanaloco.jp/article/54912?fbclid=IwAR2MrYvulqbyH39mLbHxBipwxYyY0pKFhb0bh6Wyz-ozWGnPXnNwtxtGDYY
ー砂浜保全を考えよう、酒匂川の課題取り上げ専門家らが意見交換/小田原ー
砂浜の保全などについて話し合う「山・川・海の連続性を考える県民会議」が26日、小田原市城山の県立小田原高校で催された。同市などを流れる酒匂川の一部に土砂がたまる一方で、海岸線の砂浜が後退する課題などについて、専門家や漁業関係者らが意見を交わした。
県の主催で2回目。海岸浸食などの問題に、山と川、海を一体として対策を考える取り組み。前回の相模川に続き、酒匂川をテーマに行われた。
早稲田大学理工学術院教授の関根正人さんと、土木研究センター常務理事の宇多高明さんが基調講演。関根さんはダムが上流から流れる土砂をせき止めているメカニズムなどを紹介。ただ「ダムの撤去は現実的ではない。ダムの存在を前提に代わる対策を考えることが大事だ」などと指摘した。
宇多さんは、土砂供給の減った酒匂川河口周辺の海岸線が約60年間で150メートル近く後退しているなど、西湘地域全般で砂浜の減少が進んでおり、今後もこの傾向が続く見通しを示した。その上で、近年の大型台風襲来による浸食や高波被害の状況を説明した。
討論会では、地元漁業関係者らが、「川よりも山の管理がされていないのが問題だ」「魚種が豊富だった昔の姿には戻れなくても、これ以上の悪化を防ぐ方法を考えねば」と指摘。約250人が集まった会場からも「(下流部に)土砂が堆積して中州ができたり、川床が上がって少しの雨で避難勧告が出る場所がある」など対応を求める声が出ていた。